信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会
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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School
of Medicine
●定義
「摩擦によって除去できない白斑で、他の診断可能な疾患に分類できないもの。」WHO(1978)
すなわち、臨床的あるいは病理学的に他のいかなる疾患の特徴も有しない白色の板状ないし斑状の病変を白板症といい、組織学的な異形成の有無に関係なくこの名称を用いることにし、現在はこの定義づけに従っている。
●成因
原因は不明であるが、
局所因子:慢性の機械的・温熱的・化学的刺激(歯牙鋭縁、不適合充填物、不適合義歯、習慣性咬傷、過剰な喫煙、飲酒、刺激性食品の嗜好、ガルバニー電流、カンジダ感染)
全身因子:エストロゲン欠乏、ビタミン A および B
欠乏、高コレステリン血症などの関与があげられている。
●発現頻度および好発部位
年齢的には40歳以上の高齢者、性別では男性に多い。悪性化頻度は60歳代の女性に多い。好発部位は、一般的に頬粘膜(咬合平面に対応する部)、歯肉(付着歯肉)、顎堤粘膜および舌(舌辺縁から舌下面)。
●症状
定型的なものは、粘膜表面からやや高まった白色あるいは灰白色の板状または斑状の病巣を形成し、周囲との境界は一般的に明らかである。白斑はガーゼなどで擦過しても除去できない。粘膜は柔軟性を失い、いくぶん硬い。病巣は多彩な臨床症状を示し、大きさは小範囲なものから口腔全体におよぶもの、境界はときに鮮明、ときには不鮮明、色も白味がかったものから灰白色を呈するもの、ときに褐色がかった着色を呈するものまである。表面も平滑であったり、顆粒状の盛り上がりを示したり、平板状の隆起のなかに溝や皺がみられたりして一様でない。また、周辺粘膜に紅斑がみられることや、病変内部に紅斑やびらんが存在することもある。白斑の深部に硬結をふれるようなことはない。通常、自発痛、接触痛などの自覚症状はない。
●悪性化
白板症は重要な前癌病変とされており、癌化率は5〜10%と推定されている。逆に舌癌の約18%に白板症が先行している。紅斑型、びらん型、潰瘍型、結節型、斑点型などに悪性化する傾向がある。
癌化の徴候として、
@白斑の急激な拡大
A病巣中に疣状ないし乳頭状の腫瘤の発生
B比較的平滑の局面に亀裂が生じて凹凸不整ができるとき
C境界不明瞭なとき
D潰瘍の形成、びらんの出血
などのようなとき悪性化を疑う。
癌の好発部位である舌辺縁、舌下面、口底に生ずる白板症は既に前癌状態ないし上皮内癌である場合が多い。頬粘膜の悪性化率が最も高いとの報告もある。
●組織像
第1期:上皮の単純な肥厚 acanthosis のみで角質の増殖はない。有棘細胞は規則的に配列。
第2期:角質の軽度の増殖 hyperkeratosis と顆粒層の増加がこれに加わる。
〈以上の変化は可逆的〉
第3期:角質の増加が著しく、有棘細胞は不規則に増殖し、個々の細胞の角化傾向があらわれる。上皮の肥厚は acanthosis から hyperplasia の状態となる。
第4期:上皮細胞相互間の構築上の障害がある。有棘細胞の配列は不規則となり、その異型性、細胞分裂像があらわれる。この変化は上皮突起の先端で著しい。ただし上皮細胞が基底膜を破って深部に浸潤する傾向はない。粘膜固有層にはリンパ球、プラズマ細胞が増殖し、ときにはリンパ濾胞様構造を認める。この時期を前癌病変という。
上皮異形成の有無や程度が必ずしも悪性化と関連するとはいえないが、悪性化能を判定する所見の1つとして重要であると考えられている。
●治療
[原則]
刺激の原因となるものを除去する。
薬物療法ではビタミン A 酸が有効。他に5% 5-FU 軟膏、0.5% ブレオマイシン軟膏、0.1% retinoid 軟膏、 retinoid 内服。
小範囲のものは原則として切除、広範囲なものに対する外科的治療として凍結療法、レーザーによる蒸散が行われる。
[最近の傾向]
刺激除去療法のみでは白板症の完全消失は認められない。
薬物療法は外科的切除に比べて高い悪性化率を示す。
凍結療法は10年程前には頻用され、病変を残さず確実に凍結を行えば、予後良好かつ安全な療法であるとされている。しかし宿主の免疫能低下をもたらすとの報告もある。
放射線療法は、照射による障害や悪性化を促す可能性もあり、好ましくないとされている。
現在では白板症の治療法の中で最も確実な方法は、外科的切除であると考えられている。
●臨床上のポイント
@摩擦によって除去できない、圧迫により退色しない。
A鑑別診断:扁平苔癬、乾癬、乳頭腫、初期癌
B物理的、化学的、機械的刺激となる原因を探し、除去する。
C小範囲のものは切除、広範なものに対しては凍結療法、レーザー、ときにビタミン A 酸の内服。
D前癌病変であるので、必ず生検を行うこと。
E10年以上(平均5年前後)を経て癌化する症例が存在するため、長期の経過観察が必要。
F切除範囲の決定に際しては、正常では角化しない粘膜上皮が角化する状態を白板症ということができることから、ルゴール染色の応用が有効であると思われる。
参考文献:口腔粘膜疾患の診断/歯界展望別冊 医歯薬出版M
カラーアトラス口腔粘膜の病変 医歯薬出版M
口腔粘膜疾患アトラス 文光堂
口腔病理学 永末書店
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