信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


画像診断症例検討5 〜上顎洞〜

                1999.6.2 茅野

1.正常解剖

・上顎体内にある、ピラミット型をした大きな空洞。
・周囲は、薄い上顎洞骨壁によって取り囲まれている。(前壁、後壁、上壁、下壁、内側壁)
・排泄経路:上顎洞と鼻腔とは上顎洞内側壁の上方約2/3の高さに存在する上顎洞自然孔を介して交通しており、自然孔から篩骨漏斗へ出て、次に中鼻道の半月裂孔後半部へと排泄される。
・上顎洞内面は、上顎洞粘膜(線毛円柱上皮)により被われている。正常な粘膜は、非常に薄い為画像上描出されることはない。

2.画像検査の目的

・洞内及びその周囲に広がる病的な軟組織陰影の描出と、骨壁における異常所見の検出
病変の鑑別診断や手術適応の決定のために有用

3.CTの適応、方法

a. Plain
1.原則的に、上顎洞炎が疑われる場合の根治的あるいは内視鏡的手術の術前評価
2.術後においても症状が持続する患者の経過観察
b. enhance
1.複雑な炎症性疾患(広範囲のポリープ、骨髄炎、術後も症状持続など)
2.鼻副鼻腔領域の良性および悪性腫瘍
3.冠状断CTで腫瘤が認められたとき
c.撮像断面
スライス厚/スライス間隔---3mm厚/3mm間隔 5mm以下
画像---軟部組織濃度が識別できる100〜250HU 骨変化1200〜1800HU 横断面、冠状断面
*アーチファクトの影響を受けやすいが骨構造の描出に優れている
*osteomeatal unit は、5mm厚/5mm間隔で半数が、3mm厚/3mm間隔でほぼ100%同定可能

4.MRIの適応、方法

・造影CTに準ずる
・T1強調像 T2強調像の横断、冠状断、矢状断
・5〜8mm厚
・頭頸部領域は、脂肪が比較的豊富に存在するため、造影後のT1強調像にて高信号の脂肪と強調された病変との区別がつきにくい---脂肪抑制画像が有効

5.上顎洞疾患

a. 上顎洞炎

<drainage の損傷>
・本来含気空洞である上顎洞内に洞粘膜の肥厚、分泌物や膿汁の貯留がおこると、洞開口部が閉塞し洞内の酸素分圧が変化する。これに伴い正常細菌叢が変化し、急性細菌性副鼻腔炎が起きる。急性炎症が持続し線毛運動機能が失われると、鼻粘膜は萎縮もしくは腫脹し慢性副鼻腔炎を示す。--正常なドレナージと換気を回復する。
・上顎洞に近接または交通する歯性病巣感染を伴い、ostiomeatal complex には異常所見を認めない歯性上顎洞炎の場合、歯科治療のみで期待できると考えられる。
<画像所見>
洞粘膜の肥厚、炎症性ポリープなど
活動性の炎症は造影CTで軽度の増強効果を示す。線維化や浮腫では肥厚した粘膜が増強されない。
炎症は、MRIのT2強調像で著明な高信号を呈する。(腫瘍は中等度の信号)

b. 術後性上顎嚢胞

・手術のよって生じた肉芽組織が瘢痕化し、それが縮小する過程で嚢胞を形成したもの。
<画像所見>
CTでは内部均一で境界が滑らかな軟部腫瘤
MRIでは典型的にはT1強調像で低信号、T2強調像で高信号(蛋白濃度の増大により低信号を呈するようになる)

c. 上顎洞悪性腫瘍

・上顎洞に発生する悪性腫瘍の多くは扁平上皮癌であり、他唾液腺由来の悪性腫瘍、肉腫、悪性リンパ腫などがみられる。
<画像所見>---良性悪性の鑑別
上顎洞骨壁における骨破壊を伴った片側性の腫瘤。
(特にremodeling を伴わない浸潤性骨破壊像は扁平上皮癌の特徴所見)
MRIでは、T1、T2とも筋肉より高く、脂肪組織より低い中間的信号強度を示す。造影後のT1強調像では不均一に造影される。
注)膨張性骨破壊像は良性、悪性とも見られる。

 

参考文献:歯科画像診断の最前線  医歯薬出版

     頭頸部の画像診断    医学書院 


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