信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


こんな患者が来院したら

7 口腔粘膜の紅斑

1999.10.27  鎌田

 口腔粘膜疾患は、その大部分が炎症性疾患である。しかし、口腔に限局した疾患だけでなく、皮膚科的疾患の部分的症状や全身的な内科疾患と密接に関連した病変のことも多い。さらに、口腔の疾患は二次的変化や複雑な細菌叢の影響で修飾を受けやすく、病期によってもさまざまに変化すことがある。また、病歴の聴取、臨床所見は診断する上で言うまでもなく重要である。
 ここでは紅斑を示す病変といっても多種多様にあるためそれぞれの部位に限局する病変とそうでないものに分けて述べる。

^口唇に限局する病変

ロ口角部の粘膜に発赤、亀裂がみられ開口時に容易に亀裂を生じ出血しやすく、痛みが強い。  ⇒ 口角びらん症(口角炎、口角亀裂、口角潰瘍):誘因として栄養失調、全身衰弱、高熱性疾患、ビタミンB12の欠乏、シェーグレン症候群、低い咬合高径などがあげられる。

ワ化粧品、薬品などとの接触により突発的に発症し口唇は発赤、腫脹し巨大口唇となる。 ⇒ 接触性口唇炎         

ン下口唇粘膜に帽針頭大、赤紫色の膨隆が生じ中央で陥凹し粘液、膿性分泌物が排出している。 ⇒ 腺性口唇炎

゙口唇の片側に無痛性腫脹を生じ、拡大して他側に及び、弾力性の硬い巨大口唇となる。 ⇒ 肉芽腫性口唇炎

_舌に限局する病変

ロ舌乳頭の萎縮のため、舌表面が平滑にみえ発赤、灼熱、刺激痛があり悪性貧血の全身的既往がある。 ⇒ Hunter舌炎

ワ舌背後方の中央部に菱形あるいは円形の結節状隆起として生じ1〜10@大で表面は舌乳頭を欠く平滑な粘膜で覆われているため粘膜色を呈し、比較的平坦なものと、結節状に隆起する物がある。 ⇒ 正中菱形舌炎

ン茸状乳頭が発赤、腫脹してあたかも苺状を示すことがある、また猩紅熱の全身的既往がある。 ⇒ 苺舌

゙辺縁に白色の帯状の縁どりがある。小型の円形または半円形の斑として始まり、しだいに拡大、融合する。中心部は淡紅色で、糸状乳頭が消失している。 ⇒地図状舌

`口内炎

ロ歯肉を始め口腔粘膜全体の腫脹、発赤がみられ、浮腫の強い場合は粘膜は白味がかって見られる。粘膜の抵抗力が弱り、歯牙の鋭縁、補綴物の刺激によって容易にびらん、潰瘍を形成する。 ⇒ カタル性口内炎   

ワアミノピリン、アンチピリン、抗生剤などの薬物による副作用、ヨード過敏症などが原因となり生じる。 ⇒ 薬物性口内炎

ン悪性腫瘍の治療のために行う放射線照射によるもの。 ⇒ 放射性口内炎

メモ 照射量が10Gy前後から口腔粘膜の発赤、ざらざら感、味覚障害、知覚過敏がじじ、15〜20Gyになるとびらんを生じ、激しい痛みのため飲食物の摂取が困難となる。                  

゙前駆症状として全身違和感、発熱、頭痛がある。口腔粘膜の灼熱感が数日続き、この間に歯肉に潰瘍が生じ次第に口腔全体に広がり自発痛、刺激痛、流涎をきたし、口臭が強い。顎下リンパ節が有痛性に腫脹する。 ⇒ 潰瘍性口内炎

゚潰瘍性歯肉炎、壊疽性歯肉炎に始まり、さらに頬部の腫脹、硬結についで壊疽性崩壊が起こり、病巣部は暗紫色、黒紫色にかわり腐敗臭が強い。 ⇒ 壊疽性口内炎

aその他

ロ口唇、頬粘膜、舌に紅斑性、丘疹性、水疱性などの非定型的な滲出性紅斑を生じる。 ⇒ 多形滲出性紅斑

ワ頬粘膜、口蓋、舌、口底、歯肉、歯槽頬粘膜に生じる病変の広がりはさまざまで、@粘膜が均一に鮮紅性を呈する、A白斑部を存在するB顆粒状に表面が隆起する、ものがある。 ⇒ 紅板症

メモ 治療せず放置した場合ほとんど全例が悪性変化を示す。また紅板症は治療後も長期にわたり経過を観察していく必要がある。

ン口唇、扁桃、口蓋、舌に境界明瞭な暗赤色の無痛性の軟骨様硬の硬結を生じる。 ⇒ 梅毒第1期の病変

゙口蓋、頬粘膜に大豆大の淡紅色あるいはガラス様灰色の結節を生じたり、出血性潰瘍を生じる。 ⇒ 二次結核の尋常性狼瘡

゚口腔粘膜に紅斑、円板状病変、あるいは潰瘍がみられる。硬口蓋では毛細血管拡張を伴う紅斑ないし、び慢性の潮紅で口唇部では鱗屑を伴うことが多いが、ときに潰瘍を形成したり、血痂がみられる。 ⇒ 全身性エリテマトーデス

燻瘤は青紫色の母斑状または鮮紅色を呈し、硬度は柔軟性があり、被圧縮性である。ガラス板で圧迫すると表面の青紫色は退色する。 ⇒ 血管腫

 

−最後に病変が悪性、悪性化を疑う場合を下記に示す

悪性病変の特徴
@結節が発生する A凹凸不正 B境界不明瞭 C潰瘍形成 D速い発育速度を示す病変は悪性、悪性化を疑う。

 

参考文献 口腔外科、病理診断アトラス    医歯薬出版株式会社

     最新口腔外科学          医歯薬出版株式会社

     口腔外科学            金芳堂

     標準口腔外科学          医学書院

     口腔粘膜疾患の診断「歯界展望/別冊86」

                      医歯薬出版株式会社


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