信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


こんな患者が来院したら
6.口腔粘膜の白色病変

1999.10.20   酒井

・まず、口腔内に白斑を生じる疾患としては角化性病変と非角化性病変に大別できる。角化性病変の白斑は、粘膜に固着しており擦っても剥離できない。表面は粘膜より隆起しており、組織学的に角化亢進を示し、上皮層の肥厚を示す。経過は比較的長い。非角化性病変の白斑は、容易にぬぐい去ることができ、一部にびらんや、潰瘍が見られることが多い。経過は比較的短い。

^角化性病変

1、頬粘膜、歯肉、顎堤粘膜、舌に多種多様な形態を示すが、白斑は擦過しても除去できず圧迫などでも退色しない。 マ白板症を疑う:形態は様々であり、粘膜は柔軟性を失い、やや硬い所見を示す(本来は、以下に示す他の診断可能な疾患に分類できないものを白板症とする)。

2、頬粘膜、歯肉に細かい線状を示したりレース状、網状の模様を呈し左右対称に生じている、 マ扁平苔癬を疑う:模様は、経時的に赤みを帯びたり形状を変え、また接触により出血しやすい。その経過中炎症性変化が強まりびらんを生じると飲食物がしみたり、物が触れると痛いなどの症状が現れる。

<悪性化>
@結節が発生するとき
A凹凸不正がでるとき
B境界不明瞭なとき
C潰瘍形成をするとき
    マ
悪性化を疑う。:白板症の一部が乳頭状ないしびらん状をしめしたり、扁平苔癬がびらん状をしめしたら、特に悪性化を注意する。悪性化を疑うときは、@〜Cのほかに症状の推移と速度、加療の有無に留意する。悪性化を疑った場合初期病変において特に以下|〜疾患との鑑別が必要となる。

|舌、頬粘膜、歯肉、口蓋に孤在性、表在性、不正形、浅く、周囲やや硬結、灰白色または黄白色という特徴を有する潰瘍で疼痛は、一般的に軽度であり外傷としての原因の存在、除去により数日で軽快したら。マ褥瘡性潰瘍を疑う。
 cf.乳幼児において舌下面に褥瘡性潰瘍があったら先天性歯もしくは、早期       萌出歯によるRiga-Fede病を疑う。

}リンパ節の腫脹、他部の結核性の病変の存在、舌、歯肉、口蓋に穿掘性、辺縁鋸歯状、硬結なし、接触による鋭痛、易出血性、灰白色の白苔の被覆がみられたら。 マ結核性潰瘍を疑う。

~リンパ節の腫脹、口唇、舌、口蓋、歯肉、頬粘膜に類円形で深く、有痛性ないし無痛性であり潰瘍底は豚脂様苔に被覆されていたら。 マ梅毒性潰瘍を疑う。
 cf.これを乳白斑といい、梅毒第2期に代表的な症状で、びらんや潰瘍を形成し扁平コンジローマと呼ばれ最も伝染性が高いといわれる。

全身症状として悪寒、頭痛、倦怠感があり、辺縁歯肉、歯間乳頭部に潰瘍形成、偽膜の付着、易出血性、口臭、自発痛、接触痛があったら。 マ急性壊死性潰瘍性歯肉炎を疑う。

3、舌、口唇、頬粘膜、歯肉、口蓋などに乳頭状、カリフラワー状を示し、限局性で疼痛などの自覚症状に乏しい境界明瞭の病変を示したら。 マ乳頭腫を疑う:乳頭腫症、乳頭状過形成、線維種との鑑別が必要だが、特に乳頭型の扁平上皮癌との鑑別が重要となる。

_非角化性病変  

1、口蓋、頬粘膜、舌、口角に白色の苔状物が出現し、それが広範に散在するようになるが、その白苔は容易に剥離できたら。 マカンジダ症を疑う:患者は、基礎疾患を有し薬物による治療を受けている場合が多い。また、乳幼児、老人、妊婦に多い。白苔がとれた後は、発赤しており、しみるなどの症状を示す場合が多い。

2、発熱、頭痛、全身違和感とともに、口蓋扁桃、口蓋咽頭弓、口蓋舌弓、口蓋垂、舌根部に白色の偽膜が被覆しており、それが容易に剥離できたら。 マジフテリア性口内炎を疑う:進行していくと、口蓋垂、軟口蓋等に麻痺が起こり、言語障害、嚥下障害の原因となる。 

 *カンジダ症、ジフテリア性口内炎においては、初期では白苔の剥離は容易であるが、徐々に剥離しにくくなる

3、顎下リンパ節は有痛性に腫脹し、口唇、舌、歯肉、口蓋、頬粘膜等に米粒大、大豆大の円形ないし類円形の浅い潰瘍を形成し、白色の偽膜で被覆され周囲を紅暈で囲まれていたら。 マアフタ性口内炎を疑う:全身状態として、発熱、倦怠感があり、自発痛、接触痛が強く、口臭なども強くなる。

4、哺乳児において、口蓋粘膜に左右対称にアフタがみられたら。 マベドナーアフタを疑う。

5、1〜4歳の幼児において、発熱(39度以上)を初発症状として口腔の後部、咽頭に水疱が破れてアフタを形成し嚥下痛を訴えていたら。 マヘルパンギーナを疑う。

6、1〜5歳の幼児において、中等度の発熱と頬部、口唇、舌下、硬口蓋に水疱が破れてアフタを形成し、両手、両足にも発疹がみられたら。 マ手足口病を疑う。

 cf.アフタは種々の原因で起こるが、はっきりとした原因は不明であるといわれている。上記に示した以外に白血球減少症に伴うアフタ、Behcet病の再発性アフタ、多形滲出性紅斑症候群、アレルギー性疾患におけるアフタ性口内炎、ヘルペス性歯肉口内炎などでもみられる。

7、口腔粘膜は、一様に発赤(カタル期)し、臼歯部の頬粘膜は、紅暈を伴った灰白色斑が出現していたら。 マ麻疹を疑う:上記の灰白色斑をkoplik斑と呼び、高熱と全身に発疹を生じる。

8、多量の喫煙者の硬口蓋部後部粘膜に、口蓋腺の開口部に沿って円形の白斑が多数出現していたら。 マニコチン性口内炎を疑う:白板症が合併し、場合によって口内の熱感と冷水にしみることがある。

 最後に舌に関して、淡白色に見える場合は虚血の状態であり、重症の栄養不良貧血、慢性腎炎などの可能性があるので注意する。

     参考文献:口腔粘膜疾患の診断       医歯薬出版株式会社

          最新口腔外科学         医歯薬出版株式会社

          標準口腔外科学         医学書院

          やさしい口腔検査診断学     永末書店


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