信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


こんな患者が来院したら
4.下顎にX線透過像を示す病変

1999.10.6 成川 

総論)診断の進め方

病歴の聴取(主訴、病悩期間など)

臨床的所見(膨隆の程度、羊皮紙音、波動の有無、原因歯の特定、潰瘍、硬結の有無など)

各種画像検査(デンタル、オルソパントモ、咬合法撮影、CTなど)

試験穿刺、biopsy

各論) 

(1)根尖部に限局性の境界明瞭な単胞性のX線透過像がみられたら

疑われる疾患:歯根嚢胞、歯周嚢胞、歯原性角化嚢胞、含歯性嚢胞、正中下顎嚢胞、エナメル上皮腫、石灰化歯原性嚢胞、歯原性粘液腫、歯原性線維腫

各種疾患の鑑別点

@顎骨が腫脹し咬合法X線において頬舌的に強く骨が膨隆
⇒良性腫瘍が疑われる
A透過像上の歯に垂直打診痛、根尖部圧痛があれば歯根嚢胞の可能性が高く、かつ、その歯が失活し、X線上で原因と思われる歯の歯根膜腔と透過像が連続している
⇒歯根嚢胞
B臨床的に歯肉に発赤、腫脹などの慢性辺縁性歯周炎の症状が認められ、X線上で歯根の真横に歯根膜腔と連続した限局性の透過像を呈する
⇒歯周嚢胞
C臨床所見で切歯部の膨隆、隣接歯の近心傾斜が認められX線像で単胞性透過像が下顎正中部にある
⇒正中下顎嚢胞
D歯原性角化嚢胞と他の嚢胞との鑑別は、比較的大きく、隣接する歯の傾斜、移動、歯根吸収が起こりやすい.X線像においてホタテ貝状の透過象を示すなどであり、波動を触れるなら試験穿刺を行いクリーム状の内容物を吸引するが、完全に鑑別するのは困難であるため病理組織診を行う.また、上下顎に多発性にみられる場合は、基底細胞母斑症候群の可能性もあるので他の症状(手足の母斑、大脳鎌の石灰化等)を確認する必要がある。
EX線透過象内に歯が含まれている
⇒含歯性嚢胞、エナメル上皮腫、歯原性粘液腫
Fエナメル上皮腫も単胞性の透過象を示す場合もあるので、骨膨隆、歯の移動、歯根吸収などの臨床症状と併せて鑑別しなければならない。

(2)埋伏歯を含む限局性のX線透過象がみられたら

疑われる疾患:含歯性嚢胞、エナメル上皮腫、歯原性粘液腫 

各種疾患の鑑別点

@臨床所見、咬合法X線写真にて顎骨の頬舌的な骨膨隆が強度
⇒エナメル上皮腫、歯原性粘液腫が疑われる
A臨床的に原因歯が嚢胞内に含まれて萌出してこないため歯数が不足しX線像で単胞性の透過象が埋伏歯の歯冠側を含んでいる
⇒含歯性嚢胞の可能性が高い.
B歯原性粘液腫はX線的には、多胞性の透過像を示し、テニスラケット様と表現されるような特徴的な像を呈する.

(3)多胞性のX線透過像がみられたら

疑われる疾患:歯原性角化嚢胞、エナメル上皮腫、歯原性粘液腫

各疾患の鑑別点:

@歯原性角化嚢胞と顎骨に発生した良性腫瘍との鑑別は、歯原性角化嚢胞は比較的大きくなってきても顎骨の膨隆を示すことは少なく試験穿刺によってクリーム状の内容物を吸引することである程度、鑑別できる.
Aエナメル上皮腫と歯原性粘液腫では臨床症状から鑑別することは困難であるが、X線的にはエナメル上皮腫は石鹸の泡状の透過像を示し、歯原性粘液腫は樹枝状の透過像を示す.

(4)下顎角付近に限局性のX線透過像がみられたら

疑われる疾患:静止性骨空洞、単純性骨嚢胞

各疾患の鑑別点

@下顎角付近に自覚症状が全くなく増大傾向にない単胞性のX線透過像が認められたら、静止性骨空洞、単純性骨嚢胞が疑われ、唾液腺造影を行い、透過像の内部に導管の存在がみられたら
⇒静止性骨空洞が最も疑われる.

(5)境界不明瞭なX線像がみられたら

疑われる疾患:慢性辺縁性歯周炎、扁平上皮癌、骨肉腫

各疾患の鑑別点

@臨床所見において歯肉に潰瘍、硬結、知覚異常、歯の動揺、歯痛、歯肉出血などが認められX線像で境界不明瞭な像(虫食い状、舟底形の骨吸収像)が認められたら
⇒骨に浸潤した扁平上皮癌が疑われる
⇒biopsyを行い病理組織学的に確定診断
⇒CT、MRIにて浸潤範囲、リンパ節転移の有無を把握
*単純X線像では慢性辺縁性歯周炎と類似することもある
A臨床所見において顎骨の腫脹が限局性に腫瘤状に認められ、歯の動揺、歯痛、口唇や歯肉の知覚麻痺、X線像で骨の破壊、吸収に伴う境界不明瞭な透過像を認めたら⇒骨肉腫が疑われる
⇒X線像で骨増生、新生を思わせる不透過像(sun-rayappearance)
⇒biopsyを行い病理組織学的に確定診断
⇒CT、MRIにて浸潤範囲、リンパ節転移の有無を把握

 参考文献

臨床イメージノート     永末書店
最新口腔外科学       医歯薬出版
口腔外科の臨床       医歯薬出版
歯科放射線の臨床診断    永末書店
口腔外科・病理診断アトラス 医歯薬出版


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