信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


こんな患者が来院したら 
1. 頚部腫瘤

1999.7.7 大塚

1)各種検査による鑑別

  検査の前に臨床経過、所見が重要
・ CT、MRI、US〜病変の部位、拡がり、性状(境界、内部) 
・ Gaシンチ〜悪性腫瘍に集積(炎症、良性腫瘍と悪性腫瘍の鑑別)
・ 唾液腺シンチ〜唾液腺疾患
・ 試験穿刺

2) 鑑別診断(各論)

1. 偽腫瘤

・頚動脈の拡張、頚動脈球腫大〜造影CT;造影され、正常の位置に。MRI;液流無信号化。
・頚静脈非対称〜造影CT;造影され、正常の位置に。MRI;液流無信号化。

2. 炎症

・蜂カ織炎、膿瘍〜全身、局所症状、経過より診断は容易。原因の多くは歯性感染であるが嚢胞、腫瘍の可能性もあり。

3. 血管性

・頚静脈血栓症、血栓性静脈炎

4. リンパ節疾患(リンパ節炎、腫瘍等)

5. 唾液腺疾患

6. 甲状腺、副甲状腺疾患

US、RIシンチグラフィーにて病変の存在部位、RIの集積から鑑別。副甲状腺腫は異所性に出現することもある。

7. 嚢胞 類皮嚢胞、類表皮嚢胞

発生部位;おとがい下型(cf舌下型)顎舌骨筋の下、おとがいと舌骨の間、正中部。境界明瞭、球形、弾性硬、波動(-)、圧痛(-)、可動性だが下顎骨、舌骨と癒着している場合は可動性減少。内容液は帯黄白色粥状またはおから状。

甲状舌管嚢胞
 発生部位;頚部正中(舌骨上25%、舌骨甲状腺部65%)。柔軟、圧痛(-)、波動(+)。試験穿刺にて内容液吸引。
先天性側頚嚢胞、瘻
 発生部位;顎角部から中頚部の胸鎖乳突筋前縁。弾性軟、境界明瞭、圧痛(-)、波動ときに(+)。内容液は黄白色、漿液性あるいは粘液性乳汁様。

8. 良性腫瘍 脂肪腫

好発部位;後頚三角。表在性のものは帯黄色、弾性軟、半球状または分葉状腫瘤。深在性のものは表面正常、瀰漫性、弾性軟〜偽波動触知。CTにてfat dencity。

嚢胞性リンパ管腫
 好発部位;側頚三角部。80〜90%は2歳以下に発生(先天性)。多房性ときに単房性、柔軟な腫瘤。無痛性、波動(+)。内容液は漿液性透明でわずかに黄色、リンパ液、リンパ球を含む。CT、MRI;多房性の液体信号の腫瘤。

旁神経節腫(頚動脈体腫瘍)
 家族性(20〜30%)、多発性(3〜5%)。CT;総頚動脈分岐部に強く造影される腫瘤。MRI;腫瘤内に多数の蛇行した液流無信号化。

経鞘腫、神経線維腫
 CT;頚動脈間隙内の軟部組織濃度の紡錘形腫瘤。MRI;T1強調造影画像にて均一に造影。

血管腫
 CT;強い造影効果。US;内部は低エコー、不均一。

 9. 悪性腫瘍

脂肪肉腫〜CT,MRI;著明な線維構造、不均一な内部信号。

参考
 顎口腔外科診断治療大系 (講談社)
 頭頚部画像診断ハンドブック (医学書院)
 頭頚部領域の超音波診断 (中外医学社)

 

3)頚部良性腫瘍、嚢胞の術後管理

1. 呼吸管理

気道確保〜手術侵襲が大きく術後浮腫等による気道狭窄が予想される場合気管切開を考慮。
O2投与〜術直後は麻酔薬の残留等による呼吸抑制、肺胞換気量の減少がみられるため完全覚醒するまで数時間(通常は麻酔時間を参考に)酸素濃度30%程度(マスクにて3〜5l/min) O2投与。

2. 輸液管理

術前の状態、術中のin/outバランス、術後経口不能状態等を考慮し種類、量を決定。術後は尿量減少しがちなので脱水には注意。

3. 栄養管理

術後消化管の蠕動は減弱、消失するため当日は絶食。翌日から経口摂取(症状に応じて)。数時間で蠕動が確認できれば飲水は可。

4. 安静度 

完全覚醒するまでベッド上安静。

5. 感染予防

予防投与の原則 @皮膚切開前に有効血中濃度に上げる。A起炎菌を想定して有効な抗生物質を投与。B無意味に長期投与しない(原則として3日以内)。C起炎菌が同定さ れたら感受性のあるものに変更。(清潔手術の創感染の頻度は1%以下、口腔内等汚染手術は20%前後、感染手術は30〜40%)

6. 疼痛管理

術直後は早期に十分させることがポイント。時間がたつほど痛みの悪循環が完成されていく。@筋注;ペンタゾシン(ソセゴン)15mg(必ずトランキライザー等(アタラックスP25mg、セルシン5mg等)と一緒に投与。)A座薬;ボルタレン25〜50mg。翌日以降経口可能になれば経口剤(NSAIDs)でも可。

7. 創処置

投薬
ステロイド(デカドロン4mg 1× 3日間)〜術後浮腫防止
アドナS 1 A トランサミン50 1A 〜止血剤
リザベン300mg 3× p.o. 〜術後瘢痕抑制

ドレッシング
 目的 @ 創傷を外界から保護。A 創傷部の固定。B 創傷部の圧迫。C 乾燥予防。D 創傷部の清浄化
 方法 一時閉鎖創の場合ドライドレッシング法:乾ガーゼ(長所;血液、浸出液の吸収に優れる。短所;時間がたつと創面と固着。)
抜糸
 皮膚創の一治的治癒は5〜7日で完成し、創の癒合が強固になるのは10日目頃なので抜糸は7〜10日目頃であるが、血行の盛んな顔面、頚部では治癒は早いため4、5日目。抜糸後数日、創の緊張、し開予防のため皮膚テープ(Steri Strip等)貼付。

ドレナージ
目的 @ 血腫、血清腫防止。A 死腔防止、創面の治癒促進。B 感染防止、感染創の治療。C information drain
種類 
 @ 持続吸引ドレーン(J-vac ドレーン、マノパックドレーン)
主な目的は@、Aで、それによる感染防止、創傷治癒促進を目的とする。血腫防止を目的とした場合、抜去時期は術後3、4日(小さい創の場合1〜2日)をめどに血液、体液の排出が少なくなったらできるだけ早期に。
 A ペンローズドレーン 毛細管現象を利用して体腔内の液体を除去する。利用範囲は@〜Cを目的に多岐にいたる。

参考
 麻酔科学 (金芳堂)
 麻酔科入門 (永井書店)
 外科レジデントマニュアル (医学書院)
 形成外科  vol. 35 No.11 (克誠堂出版株式会社)


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