信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会
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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School
of Medicine
外力の作用により、歯とその支持組織に起こった損傷のことで、不完全脱臼・完全脱臼・破折とに分類される。上顎前歯部に多い。第一大臼歯については医原性による破折での頻度が高い。歯牙の外傷は単独で起こることは少なく、歯槽骨骨折や軟組織外傷を伴う場合が多いので、本来、外傷に対しては包括的な理解が必要である
1.不完全脱臼
原因・・・・外力による歯根膜の一部の離断
臨床所見・・自発痛・接触痛・打診痛(外傷性歯根膜炎)、歯の挺出・動揺・嵌入
X線所見・・挺出の際は歯根膜腔の拡大・嵌入の際は根尖部が骨と重なる
処置・・・・1)鉗子で歯頸部を把持して静かにもとの位置に戻す
2)金属線で隣在歯に結紮固定
接着性レジン、金属線+接着性レジン、ブラケット(隣在歯がない場合など)
咬合は緊密にしない(安静)、固定期間は3〜4週間
処方
3)受傷直後では歯髄の閾値が高くなっているので失活か生活かを判断できない、歯髄保存につとめ固定期間中は経過観察する。歯の変色が生じてきたり、固定終了後に失活歯と診断されれば根管処置患者への説明→安静・根管処置の可能性・固定期間
2.完全脱臼
幼児に多い(根未完成のため歯根短い・歯槽骨が弾力に富む)
成人では歯牙破折の方が多い
原因・・・・瞬間的で大きな外力による歯根膜の離断
臨床所見・・歯の脱落
X線・・・・歯槽骨骨折の有無・部位の精査、歯根部の破折片の精査
(歯槽壁が大きく損傷していれば再植の適応とはいえない)
処置・・・・1)完全脱臼歯の保存→不潔にしない・乾燥させない・熱を加えない・
歯根部を機械的に清掃しない(歯根膜の保護)
良く洗浄後(水道水でも良い)、生食or牛乳or口腔内に保存し、
できるだけ早く処置を行う
2)再植(適応:健全な歯槽骨・脱落歯が汚染されていない)・固定(固定期間は4〜6週間)
3)安静・根管処置
予後・・・・順調な経過をたどれば、再植歯は骨性癒着する。しかし歯根は徐々に吸収を受けて5〜6年後には脱落すると言われている。
固定法(下図)
A. 顎間固定用のシーネ
B. Barkann法固定(バルカン固定+接着性レジン)
C. 接着性レジン固定
D. ブラケット固定
3.歯牙破折
原因・・・・外傷・転倒・殴打・咬合力(無髄歯のインレー、太すぎるポスト)
X線所見・・破折線の存在
分類・・・・A) 歯冠部にとどまるもの (a,b)
B) 歯を縦断するもの(c)
C) 歯冠から歯根部にわたり斜走するもの(d)
D) 歯根部にとどまるもの(e)
A) 歯冠部にとどまるもの
症状・・・・破折・歯髄に達していれば、刺激に対する症状
処置・・・・歯髄に達していなければ修復処置
歯髄に達していれば根管処置が必要
B) 歯を縦断するもの
症状・・・・刺激に対する疼痛・動揺・歯頸部からの出血。
処置・・・・抜歯。
C) 歯冠から歯根部にわたり斜走するもの(歯冠歯根破折)
症状・・・・動揺に伴う疼痛
処置・・・・歯肉縁下付近で深い位置まで破折していなければ、歯肉切除(電気メスなど)を行い破折境界を明瞭にして修復する。あるいは、外科的挺出(歯根部を一度脱臼させてそのまま歯冠側に移動させて固定する:surgical extrusion )
歯根深くまで破折していれば抜歯あるいは surgical extrusion )
D) 歯根部の破折
症状・・・・動揺、打診痛、咬合痛、歯頸部からの出血
処置・・・・歯根部中央の破折は抜歯、あるいは歯内骨内インプラントを試みる
根尖部付近の破折(歯根の1/3)なら歯根端切除術の適応
*若年者では破折していてもすぐに抜歯せずに固定を試みる。自然治癒の可能性があることや破折片が独立して生活歯となり治癒すること、あるいは硬組織に癒着し治癒することがあるためである。
<参考図書>
顎口腔の小外科 医歯薬出版
標準口腔外科学 医学書院
救急医療実践ハンドブック 南江堂
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