信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


顎関節の治療(外科的治療ー開放手術)

                            1999.7.14 成川           

1)留意点

 顎関節周囲には解剖学的に多様な器官が近接しており、手術術式、操作の面に関連して周囲組織、器官などを含めて形態学的に関係を熟知することのみでなく、顎関節が咬合、咀嚼に関与する中心的な要素であること、また術式や術後経過について、とくに機能的な面への配慮がなされなくてはならないことがあげられる.

2)適応と診断法および術式

1. 顎関節前方脱臼

 新鮮例では、多くは非観血的整復が可能であるが、ときに観血的整復術の適応があり、一方、瘢痕化した陳旧例では観血的整復術の適応となる.また、習慣性脱臼の場合、関節結節の挙上や各種の形成術などが行なわれる.

(1)顎関節に侵襲を加えない方法
口腔粘膜短縮術
顎関節に直接、侵襲を加えず下顎頭の過剰可動を制限する方法である.

(2)顎関節に侵襲を加える方法
関節包を補強し下顎頭の過剰可動を制御する方法、関節結節に操作を加えてそれを高め下顎頭の前方可動を制限する方法、下顎頭を関節結節に捕縛し可動制限を施す方法などがある.

2. 顎関節授動術

 顎関節強直症に対する手術法で、その切除範囲や方法によって骨関節節離術osteoarthrotomy、下顎頭切除術condylectomy、などが行われ、癒着部を解放して下顎を可動性にしたのち、関節に類似した形態を付与する操作を行う顎関節形成術arthroplastyも行われる.

3. 下顎頭切除術

 下顎頭の骨軟骨腫などの腫瘍性病変の摘出や、下顎頭肥大あるいは下顎頭の著しい変形や疼痛などを伴う変形性顎関節症などの場合が適応となる.その他、下顎頭の骨折で、異常癒合し線維性顎関節強直症をきたした場合にも本手術が行われる.

4. 顎関節内障

 一般に顎関節内障internal derangementsとは、関節半月、内靱帯などの関節内部を構成する組織の病変に起因する関節障害の総称である.顎関節内障もその定義に準ずるべきであるが、わが国の歯科口腔外科領域では欧米の影響を受け、おもに関節円板の位置異常すなわち前方転位anterior displacement of articular discに基づく関節障害をさす場合が多い.

5.関節円板切除術

 適応症としては、顎関節円板の穿孔、断裂など高度の損傷や転位に基づく関節障害が適応である.そのため、臨床所見に顎関節造影をあわせて適応症を決める.また、特殊な機械および材料としては、特に準備するものはない.

6.下顎頭形成術

 下顎頭の変形に基ずく関節疾患に対し、下顎頭を外科用バーで形成して症状を改善する一つの関節形成術である.高度の変形性顎関節症がおもな適応症になる.下顎頭を形成を目的とする手術法には、関節円板を温存して行う方法(Dingman&Grabb,1966)と円板を切除したのち行う方法(高久、1966)がある.
(1)関節包内関節形成術 intracapsular arthroplasty
 Dingman&Grabb(1966)らが報告したもので、関節円板を温存し、下顎頭の辺縁や関節面にある外骨症や骨瘤を削除する方法である.
(2)関節円板切除を併用した下顎頭形成術  condylarplasty with meniscectomy
 高久(1983)による手術法で、円板切除後、下顎頭辺縁あるいは関節面の尖鋭な骨隆起を外科用バーあるいは骨ヤスリなどで削除する方法である.変形性顎関節症osteoarthritisがおもな適応であるが、下顎頭骨折後の疼痛性関節障害に対しても適応している.

※関節円板を切除する理由

 変形性顎関節症は関節軟骨の退行性病変を基盤に起こる疼痛性関節疾患である.その病理をみると、関節円板にも強度の変性、摩滅、穿孔などがあり、円板の摘出が必要になる.

 

参考文献:図説口腔外科手術学 下巻   医歯薬出版株式会社

     顎関節疾患の外科的診断と治療 株式会社 書林


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