信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


顎関節の治療(スプリント療法)

                            1999.6.23 宮澤            

スプリント療法とは  

 スプリント療法とは、顎関節および関連する筋組織の疼痛および機能障害に対する非侵襲的かつ可逆的な生力学的管理方法である。スプリントは、通常硬性アクリルレジンで製作し、上顎あるいは下顎歯列に装着する可撤性の咬合面間装置であり、スプリント療法は、TMD症状の管理においてもっとも 一般に使用される治療術式である。

スプリントの種類(小林の分類) 

1)前歯接触型 
2)全歯列接触型 2-1 片顎応用型------上顎応用型(スタビリゼーション型スプリント)、下顎応用型
         2-2 上下両顎応用型
3)特殊型    3-1 誘導型(下顎前方整位型スプリント)
         3-2 ピボット型(臼歯部挙上型スプリント)                                             

各スプリントの特徴と作用メカニズム

@前歯接触型スプリント
 anterior type または relaxization typeといわれるもので、下顎前歯切端のみがスプリントの平坦面に接触し、臼歯部は離開しているものである。本スプリントは、前歯を接触させることにより、開口反射を誘発し、同時に開口筋の賦活と閉口筋を弛緩させることを目的として装着される。従って、特に閉口筋の緊張が強い症例に適応する。


※本装置は、臼歯部が離解しているため長期使用が困難である。下顎前歯部に動揺がある時には使用できない。    

Aスタビリゼイションスプリント
 早期接触・咬頭干渉などの咬合接触の異常や不安定な咬頭嵌合が顎関節症の一因と考えられる場合に、均等な歯牙接触を付与することにより下顎位を安定させることを目的として用いられているスプリントで、顎関節症の治療とともに診断目的にも用いられている。本スプリントにより下顎の安定が得らることによって、神経筋機構の乱れの抑制、咀嚼筋に対するフィードバックの影響の緩和、プラセボ効果、下顎頭偏位の修正、顎関節の保護などが作用メカニズムとして考えられている。


※スプリントの高さ(厚さ)は臼歯部で1.5〜2.0@(3.0〜4.0)が適当であり、それ以上高くなると安静位がなくなるため、かえってスプリントごとくいしばってしまい逆効果となる。

B下顎前方整位型スプリント
 上下顎いずれかの全歯列咬合面を被覆するスプリントで、下顎位(咬頭嵌合位)を一時的に誘導し、症状の改善を図ることを目的とする。下顎位の誘導を効率良く行うためにスプリント上に誘導板や誘導斜面を付与することもある。臨床的には関節円板前方転位症例に適用することが最も多く、下顎位を前方に誘導し、顆頭と関節円板との位置関係を是正し、症状を改善させることを目的として装着される。具体的には、復路クリック直前の顎位、つまり、前方転位した円板が下顎頭に復位した状態を保つことで円板−下顎頭関係の回復(下顎位の機械的変化)、伸展した関節円板後部結合組織の治癒を図るというメカニズムによるものである。


※円板−下顎頭関係を維持するギプスという役割上、通常24時間、数週間連続装着により、内側翼突筋、咬筋などの咀嚼筋群の緊張に起因する違和感ないし筋痛を惹起する場合あり。

C臼歯挙上型(ピポット型)スプリント
 リポジショニングスプリントの一種であり、上下顎いずれかの全歯列咬合面を被覆するが、左右最後臼歯部の咬合面に突起(pivot)を有し、この突起のみにより対合歯と接触するように製作する。本スプリント装着により図の如く臼歯部を中心に下顎骨が回転するような力が加わり、顎関節部を伸延させる作用のあることから、顎関節への負荷を減少させることにより顎関節部の疼痛の改善を目的として、対症療法的色彩の濃いスプリントである。

各スプリントの適応症

顎関節症I型:全歯列接触型スプリント
    2型:単純挙上型スプリント
    3型:前歯型スプリント-----下顎前方整位型スプリント
       ピボット型スプリント
    4型:全歯列接触型スプリント
    その他:単純挙上型スプリント

#.1 変形性顎関節症の場合、穿孔は血管の分布しない関節円板の中央部に見られることが多く、従って組織学的治癒は期待できないことから、治療目標としてはクレピテーションに伴う疼痛あるいは下顎運動制限の解消を考える。臼歯部挙上型スプリントが適応となる理由は、関節負荷の軽減をはかる、すなわち関節運動による下顎頭の関節円板、および側頭骨関節面に対する機械的荷重を減少させることにより、関節内病態として合併する滑膜炎の消退をはかり、また下顎頭ならびに関節隆起における関節軟骨のリモデリングを促し、より負荷の少ない関節構造の生物学的再構築を期待するためである。

#.2 変形性関節症の際には、咀嚼筋スパスムを伴っていることも多いことから、やはり関節へのストレスの軽減を目的としたスタビリゼーションスプリントの応用も奏効する場合がある。 

  参考文献;最新顎関節症治療の実際    クインテッセンス出版株式会社

       顎関節の臨床         医歯薬出版株式会社

       顎関節の基礎と臨床      日本歯科評論社

       顎関節症の治療法       歯界展望

       TMDと口腔顔面痛の臨床管理  クインテッセンス出版株式会社


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