信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


顎関節症の解剖および単純X線診査

                            1999.6.2 成川            

 

1)顎関節の解剖

2)顎関節の単純X線撮影

 目的:1、顎関節を構成する骨形態、2、開閉口時における下顎頭と下顎窩ないし関節結節との位置的関係、3、顎運動時における下顎頭運動路ならびに運動速度、4、上・下関節腔の形態ならびに容量、5、関節円板動態、すなわち閉口時ならびに顎運動時における関節円板と下顎頭、下顎窩および関節結節との位置的関係、6、関節円板における肥厚などの変形および穿孔ないし断裂について、それらの異常の有無ならびに程度を把握することにある。

 撮影法:

 (1)単純撮影法

1、矢状方向撮影法
矢状方向撮影法には顎関節部正面撮影法と眼窩・下顎枝方向撮影法とがある.顎関節部正面撮影法は下顎頭が側頭骨と重なり関節空隙を観察し得ない、関節突起頸部の骨折、下顎枝の病変などに応用される. 眼窩・下顎枝方向撮影法(Orbitoramus View)は、X線主線が眼窩を通り顎関節に達するもので、下顎頭と関節結節との重積を避けるために通常開口位で撮影し、乳様突起など頭蓋底と重ならないよう斜め25度の角度で入射する.本法は、下顎頭内外側における変形の有無および下顎頭の骨梁の状態を観察するのに適しており、関節結節稜部をも識別しうるが、やく30mm以上開口する必要があり、開口障害を有する患者には適応ではない.

2、側方向撮影法
側方向撮影法には、1)下顎頭の下方から撮影する方法(経顔面撮影法、経咽頭撮影法など)は閉口位において下顎頭と側頭骨との重複は避けられず、最大開口位において撮影しなければならない. 2)下顎頭とほぼ同じ高さから撮影する方法(Parma法)は両側顎関節部の重なりを防ぐため非撮影側に管球を可及的に近接させ非撮影側の顎関節を拡大・半影化することにより、フィルムに近い撮影側顎関節部を描出する方法であり、理論的に最も像の歪みが少ない特徴を有している.3)下顎頭の上方から撮影する方法(Schuller法、Schuller変法など)は一般に最も普及している顎関節部X線撮影法で、両側顎関節の重なりを避けるため、撮影側の下顎頭に対して25度の角度をつけてX線を入射している. そのため、像の歪みが大きい、適正な入射角度は顎関節ごとに異なる、外側1/3程度が描出されるにすぎない、X線主線に対する最大外形が描出されるにすぎないなどの欠点を有している。

 (2)断層撮影法

断層X線撮影は被写体内の一定の深さの平面のみを描出するので、顎関節部位外の頭蓋骨の重複を防ぐことができる利点がある. このため、単純X線撮影では極めて難しい閉口時における顎関節部の正面ならびに正側面像が、歪みの少ない像として描出できる.
※1、オルソパントモグラフィー
治療計画や診断の決定において、本法の目的は、下顎骨、上顎骨そして隣接構造物を観察視野内に写し出すことにある。本法は、顎口腔系において、全体的変化に関するスクリーニングとしては有効な手法である。重篤な退行性変化、顔面の外傷(下顎頭低位骨折の可能性を含めた)、新生物による骨破壊、そして他の全体的な病変を検出するのに、パノラマ撮影法は理想的である。しかし、関節の骨部分やそれらの空間的な関係を十分描出するには、断層域があつすぎるため顎関節に対するルーティン検査法としてはあまり用いられない。
※2、顎関節スキャノグラム
顎関節スキャノグラム撮影の側方(4分割)は、拡大率1.3倍、前額面は拡大率1.8倍である. 1枚のフィルムに顎関節の閉口位、開口位が左右の顎関節が同時に描出できるという利点がある.
※3、顎関節前額面方向断層撮影
※4、顎関節側方断層撮影
※5、顎関節計測撮影(リニア断層)
(1)顎関節間距離計測撮影
実際の顎関節間距離は、フィルム上で計測した寸法を1.7で割った値
(2)顎関節頭角度計測撮影
(3)顎関節造影撮影法
前述の単純X線撮影によっては、関節円板、滑膜などの関節軟部組織病変の診断はできない. そのためには関節造影を行う. 顎関節造影法は、上下各関節腔へ経皮的に造影剤(ヨード系水溶性造影剤)を注入して、X線撮影を行ない造影によって描写された関節円板、滑膜の変化を検討する方法である
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単純X線写真所見

1. X線透過性の変化を主徴とするもの

1)・erosive bone change(限局した異常X線透過像)
・surface erosion(関節表面の骨皮質の一部消失、粗造)
・pocket erosion(X線透過性を伴った骨皮質ならびに海綿骨の破壊像)

2)・eburnation(骨皮質の肥厚像 海綿骨と皮質骨とは区別できる)

3)・sclerosis(海綿骨の骨硬化像 海綿骨と皮質骨を区別できない)

2. 骨外形の変化を主徴とするもの

1)・marginal proliferation(辺縁部骨増生像)
・osteophyte(鋭いエッジを持つ骨棘)
・いわゆるmarginal proliferation(不定形、無構造の塊状の増生像)
2)・deformity(変形) (他のレントゲンとして表現できないような骨外形の著しい変形)
3)・flattening(関節面の扁平化)
4)・concavity(骨表面の陥凹)
5)・subchondral cyst(嚢胞様のX線透過像)

3. その他

1)・calcified body(浮遊体)
2)・double contour(骨皮質が二重になった状態)

・異常像の関節上の位置

・X線写真計測

 

参考文献:

顎関節疾患の外科的診断と治療  書林

顎関節症の基礎と臨床      日本歯科評論社

TMDと口腔顔面痛の臨床管理  クインテッセンス出版


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