信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


顎関節の治療(外科的治療ー非開放手術)

                            1999.7.14 田口           

 顎関節の外科的治療法は、非開放性関節手術と開放性関節手術の2種類に分けられ、非開放性関節手術は可逆的で比較的侵襲が少ない治療法である。適応となるのは全TMD患者の約2〜3%で、ほとんどは癒着を剥離するための関節鏡視下手術である。また、非開放性、開放性を問わず手術の後には必ず開口訓練と理学療法を行うことが必要である。

●パンピング・マニピュレーション

 1本の注射針で関節腔を穿刺し、生理食塩水や局所麻酔剤でパンピング(注入と吸引を繰り返すこと)を行う。これによってロックを解除したり関節腔を洗浄することができる。円板前方転位により開口障害が起きている例では、関節腔を膨らませることにより下顎頭が動きやすくなるために、マニピュレーション(下顎可動化)を併用することで、関節可動域の増大が期待できる。

 <利点>

・局所麻酔剤を使用するため外来で行え、無痛状態でマニピュレーションが行える。
・急性転位の場合には、関節腔が広がることで、下顎頭が転位した円板の下に滑り込みやすくなり、整位が可能な場合あり。
・小範囲の癒着ならば、圧をかけて関節腔を拡大することで、剥離することも可能。
・別の外科療法を行った後の疼痛、もしくは機能異常の術後療法の一環として応用可。

 <欠点>

・洗浄としては洗浄液の量が不十分
・関節鏡視下手術の前に関節腔洗浄を行った場合に、洗浄液によって炎症反応が引き起こされる可能性がある。→滑膜炎 

● (上)関節腔洗浄療法(アルスロセンテシスarthrocentesis)

 顎関節腔内に炎症が持続したり、外傷で腔内に血液が貯溜して疼痛が発現していると考えられる場合に関節痛を緩和し、あわせて援助を目的に行う処置。すべての外科療法のうちでも洗浄は外科的侵襲がもっとも少なく、危険も少なく、比較的容易に行うことができる。より侵襲が大きい外科療法の前に行われる治療法。下関節腔は狭く、プラインドでの穿刺が困難なので、主として上関節腔に対して行う。
 インプットとアウトプットの2本の注射針を上関節腔に留置し、200N以上の生理食塩水で30分ほどかけて関節腔内を灌流洗浄し、最後にステロイドまたはヒアルロン酸を注入する。外傷による関節痛の場合には関節腔内に血液が貯溜していることが多く、痛みの原因になっていることがあるため、急性期を過ぎたら関節腔洗浄を行う。

 関節腔洗浄の原理:炎症で発痛物質が貯溜した「汚れた関節液」を洗い流し、代わりに生理食塩水やヒアルロン酸、あるいはステロイドを注入して疼痛を緩和すること。(車のオイルチェンジ)

●関節鏡視下手術(arthroscopy)

 関節鏡は一種の内視鏡で、診断と治療の両方に用いる。手術は主に全身麻酔で行うが、診断的関節鏡視(関節鏡による検査)だけならば局所麻酔で行うこともある。一般的に2@程度の皮膚切開を行い、切開部から直径2〜3@の外套管を 挿入し、これに内視鏡(直径1.7〜3.0@)を通して関節内を観察する。内視鏡の代わりに細い外科器具を挿入すれば、癒着を剥離したり関節内を洗浄することもできる。

  <利点>

顔に切開を加えることなく開放性関節手術と同等の効果が得られる。術後早期のリハビリ開始と社会復帰が可能。

 1.診断的関節鏡視

 診断的関節鏡視によって、疼痛と機能障害の原因となっている上関節腔内の所見を得ることができる。関節腔の大きさ(前後径、内外側径)を概ね把握し、さらに滑膜炎、線維性癒着、退行性病変の有無とその程度を診査する。引き続き行う鏡視下手術の対象病変を把握するため、きわめて重要である。

 2.関節鏡視下手術

   <適応>

疼痛性開口障害を示す。型クローズドロックあるいは「型の顎関節症

@剥離、洗浄とマニピュレーション

 関節鏡視下で最も多く行われている治療法(しばしばLL&Mと略記)。術前のMRIあるいは造影診査は必須である。上関節腔のすべての癒着を剥離し、持続的な関節腔の洗浄下に下顎頭と関節円盤のマニピュレーションを行うことを目的とする。線維性癒着は、上下どちらの関節腔にも起こり得るが、開口障害を引き起こす主原因は上関節腔に起こった場合である。下関節腔の癒着は、多くの場合開口障害の原因にならないので、関節鏡視下剥離授動術は上関節腔のみが対象となる。関節内癒着病変は、ほとんどの場合関節鏡視下手術だけでよい結果が得られ、それ以上大きな手術をする必要はないことが多い。

A転位円板前方切離法

 前方転位した関節円板で、関節の前内側で線維性の付着を生じたものをレーザー、電気メス等で前方付着部から切離する。病変に外側翼突筋が含まれる場合は、前方付着部筋切除術が行われる。

B円板安定化法

 関節円板の可動化と整位が行われた後に、円板の安定化を図るために行われる処置。電気メスによる乱切法。整位した関節円板を関節内で外側関節包に牽引縫合外耳道方向に関節包の外側に向かって、関節外への牽引縫合

C壊死組織除去術

 変形性関節症、線維性顎関節強直症で行う。レーザー、サクションパンチ(吸引装置に接続した鋭利な咬切先端を備えている)、電動式シェーバー(関節円板、滑膜や骨など組織に応じて先端が異なる)

Dその他の関節鏡視下手術

 バイオプシーのための組織採取、シェーバーによる骨棘の除去、

 

参考文献:TMDを知る Greg Goddard他   クインテッセンス出版

     TMDと口腔顔面痛の臨床管理 Richard A. Pertes他              

                        クイテッセンス出版 

     顎関節症の基礎と臨床 高橋庄二郎他  日本歯科評論社

     顎関節疾患 ム第18回教育研修会資料ム  日本口腔外科学会


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