信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


 睡眠時無呼吸症候群
ー特に閉塞型についてー
Sleep Apnea Syndrome (SAS)

2000.11.1 宮澤 

睡眠時無呼吸症候群とは?

睡眠時に断続的に無呼吸(10秒以上続く気流停止)を繰り返し、その結果、|夜間の不眠 }日中の傾眠 ~いびき、の三大主症状を呈する疾患である。

SAS病型分類

中枢型(central sleep apnea syndrome;CSAS)
 気流とともに胸腹壁運動つまり呼吸運動そのものが停止するもの

閉塞型(obstructive sleep apnea syndrome;OSAS)
 胸腹壁は呼吸運動を行っているが鼻腔口腔気流が停止している状態、つまり、無呼吸発作中も呼吸努力が認められるもの

混合型(mixed type)
 中枢型無呼吸に始まり呼吸再開が閉塞型のパターンをとるもの

OSASの病因

形態異常
1,肥満
2,顎形態異常
3,咽喉頭異常
4,鼻疾患
5,睡眠体位

機能的異常
1,上気道筋の活動性低下
2,上気道のうっ血
3,上気道粘膜の癒着増加
4,換気調整機構の異常
5,性ホルモン

症状および症候

おもな症状
1,大きないびき
2,過度の日中傾眠
3,睡眠時の多動
4,夜間の多尿・夜尿症
5,早朝の頭痛
6,性格の変化
7,不眠
8,夜間の窒息感
9,その他

おもな症候
1,肥満
2,多血症
3,高血圧
4,不整脈
5,肺高血圧・右心不全

診断

@診断基準
 7時間の睡眠中に無呼吸(10秒以上続く気流停止)が30回以上、または睡眠1時間あたりの無呼吸数(apnea index;AI)が5回以上の場合を睡眠時無呼吸症候群と定義する。-Guilleminaultら
 また、4%の酸素飽和度の低下を伴う換気量の減少を低呼吸と定義し、睡眠1時間あたりの無呼吸低呼吸回数(apnea hypopnea index;AHI)が5回以上の場合をSASとすることもある。

Aスクリーニング
1)病歴・質問紙法
  *内科にて
2)アプノモニター
  *内科にて
B確定診断
1)終夜睡眠ポリグラフィー(PSG)
  *内科にて

当院に於けるSAS(OSAS)治療の流れ

第一内科にてSASと診断(PSG,アプノモニター)モ当科紹介モ問診採取、印象採得、X-P(セファロ)モ歯科装具装着モ評価モ第一内科紹介

当科に於ける治療の流れ

| 問診および診査

・現症
・既往歴
 OSAS患者は一般人口と比べて高血圧症は約2倍、冠動脈疾患は約2〜3倍、脳血管障害は3〜5倍と報告され、一方、これらの疾患にはOSASを高頻度に認める。すなわち、高血圧症の約30%、労作性狭心症の35%、異型狭心症の46%、陳旧性心筋梗塞の31%、脳梗塞の50%、糖尿病の35%にSASの合併があると言われている。
 高度の鼻閉(慢性副鼻腔炎、鼻中隔湾曲等の骨変形によるもの)の有無モ歯科装具装着の可否
・飲酒、常用薬物
 睡眠薬を含めて各種精神安定剤などが呼吸中枢の抑制、上気道筋の緊張低下をまねき睡眠時無呼吸を増悪させる可能性あり。
 飲酒も同様に筋弛緩を引き起こすため睡眠時無呼吸を増悪する。
・家族歴
 OSASの発症には顔面の形態異常や上気道の狭窄などの発症因子が必要であり、これに肥満が誘因として関与している。顔面形態(顔面、頭蓋の構造の特徴)、肥満等は遺伝すると言われており、そのためOSASは家族内集積が認められる。
・口腔外所見
 顔貌的特徴
  *形態、下顎の後退度(E-line)
・口腔内所見
 軟組織の形態;
  舌・・1、普通  2、大きい   3、大きく厚い
  uvula・・1、見える  2、無理すれば見える  3、見えない
 歯周疾患の有無(動揺度、ポケット、歯肉の炎症等)
 残存歯牙数(上下顎10本以上)
 顎関節症の有無
 下顎の最前方移動量

} 治療法(OSAS)

 NCPAP(nasal continuous positive airway pressure)

a;通常、我々は仰臥位で就寝するが、その際重力効果によって舌根部は沈下気味になる。睡眠状態に入ると骨格筋は弛緩するため、上気道構成筋も弛緩し上気道は更に狭くなる。健常人では、吸気時に気道内が陰圧となっても上気道の閉塞には至らない。
b;しかし、OSAS患者では、上気道に解剖学的、機能的異常があるため、わずかな陰圧でも容易に閉塞をきたす。
c;NCPAPは経鼻的に一定圧の空気を送りこんで上気道を常に陽圧に保つことにより、睡眠中の上気道閉塞を防ぐ。

 歯科装具

作用メカニズム;
 
オーラルアプライアンス装着によって、retropalatal region,retro-glossal region,の上気道断面積の増大や軟口蓋の縮小、舌形態の変化、下顎下縁平面から舌骨までの距離の減少が報告されている。
 下顎あるいは舌の前方への突出に伴って、veropharynxの断面積には変化は認められないが、oropharynx及びhypopharynxの断面積は有意に増大することが示された。ーFerguson
 オーラルアプライアンスによる下顎の前方への位置ずけに伴ってオトガイ舌筋の呼吸性筋活動が増大し、吸息時の気道内陰圧による舌の引き込みを補償している。ー中川ら

適応除外項目;
@残存歯数の少ないもの(上下10ずつ以内)
A重度歯周病
B高度の鼻閉(耳鼻科対診)
C顎関節症
D自己管理不能な患者

 手術療法

目的;睡眠時に上気道が狭窄あるいは閉塞をおこさないような形態にかえること。
閉塞部位により以下の術式を決定する;
 1)軟口蓋部閉塞例
  a)口蓋扁桃摘出術(+アデノイド切除術)
  b)UPPP(uvulopalatopharyngoplasty)
 2)舌根部閉塞例
  a)レーザーによる舌根正中部切除術(MLG:midline laser - glossectomy)
  b)下顎骨骨切り・下顎骨正中部前方移動術
  c)舌骨挙上術
 3)喉頭蓋閉塞例
  a)レーザーによる喉頭蓋切除術

〈UPPP〉
 弛緩した口蓋垂を含めた軟口蓋下縁を切除し、口腔側粘膜と鼻腔側粘膜を縫い合わせる。この手術操作により、軟口蓋の緊張がもたらされ、上咽頭腔が広げられる。軟口蓋を切り上げることにより、口蓋垂が下方の舌根部、中咽頭側壁、後壁に囲まれた空間を塞ぎにくくする。

〈LAUP〉laser assisted uvulopalatoplasty
 軟口蓋の下縁は切除せず、口蓋垂の両側にレーザーで切れ込みをいれ、同時に口蓋垂の下半分をレーザーにて蒸散する。この手術操作で、軟口蓋下縁は口蓋垂と伴に上方に持ち上げられ、上咽頭腔のスペースも広がる。upppに比べ手術的侵襲は少ないが、切除範囲が狭いため効果は低い。



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