教室の研究状況
信州大学医学部歯科口腔外科

学会報告

第9回日本有病者歯科医療学会総会

開業歯科医師に対する各種疾患を有する患者(compromised host)の歯科治療に関するアンケート調査結果
1,歯科治療中、治療後の合併症の経験について

 ○栗田 浩、成川純之助、酒井洋徳、茅野めぐみ、田中廣一、倉科憲治

 有病者の歯科治療に関して、その実態、および、歯科医師の意識を調査把握し治療体系の整備の資料とするために、いわゆる有病者の歯科治療等に関するアンケート調査を行ってきた。本報告では上記アンケート調査結果のうち、開業歯科医師の歯科治療中および歯科治療後の偶発症の経験の有無、その内容、および、その頻度に関する結果を報告した。
 アンケートの対象は長野県中信地区の歯科医師会に属する開業歯科医師(総数247名)である。アンケートは郵送法により行った。解答は105名から得られ、回収率は42.5%であった。回答者の内訳は男性91名、女性9名(記載なし5名)。歯科医師の経験年数の中央値は18年(最短5〜最長54年)であった。
 歯科治療中の偶発症の経験は59%があると解答した。また、治療後の偶発症に関しては45%があると解答した。偶発症の内容に関して105例中58例で記載が見られ、最も多かったものは脳貧血様発作で延べ39名が記載していた。次いで、薬剤に関連したもの(薬剤によるショック症状、薬剤アレルギー)、後出血が多かった。
 偶発症別に経験頻度を尋ねた結果では、デンタルショックは45%が経験有りと解答し、そのほとんどは年1〜5回の頻度であると解答した。誤飲・誤嚥は55%が経験あると解答し、ほとんどが通算で1〜10回と解答した。薬剤アレルギーは49%が経験有りと解答し、全員が年1〜5回の頻度であると解答した。現有疾患の悪化に関しては30%が経験有りと解答し、通算で1〜10回の経験であると解答した。
 後出血は73%、後疼痛は86%、治癒不全は74%、術後感染は60%、三叉神経麻痺は26%が経験有りと解答していた。

開業歯科医師に対する各種疾患を有する患者(compromised host)の歯科治療に関するアンケート調査結果-
2,歯科治療時の緊急事態への対処について

○成川純之助、栗田 浩、酒井洋徳、畔上千香、茅野めぐみ、田中廣一、倉科憲治

 医療の進歩により、各種疾患を抱えた患者さんは病床を離れ、多くの方が社会に復帰されるようになり、開業歯科医師のもとを訪れる機会も多くなってきている。そこで、今回、有病者の歯科治療に関して、その実態、および、歯科医師の意識を探り、治療体系の整備の資料とするために、郵送によるアンケート調査を実施し、その結果を報告した。本報告では、歯科治療時の緊急事態への対応について報告した。
 対象は、長野県中信地区の開業歯科医師247名とした。アンケートの回収率は105/247名で42.5%であった。緊急時の連絡は、近医に連絡すると答えた歯科医師が全体の70%と最も多かった。解答した歯科医師の2/3が緊急時の協力医師がいる環境で治療を行っていると考えられた。また、全体の2/3の歯科医師は、緊急時に協力医が到着するまで5分必要であると考えられた。緊急時の薬剤、器具の常備は、血管確保器具が他の、薬剤、酸素吸入装置に比べ、常備率が低かった。患者監視用装置の常備では、解答者のほぼ全体で常備されていた。病歴の聴取は歯科医師による問診、および、問診表による方法が主体であった。今回のアンケート結果では、緊急時の薬剤、器具は比較的常備されていたが、その薬剤、器具の使用経験は、非常に低く、緊急時に遭遇した際、実際に使用できるか疑問が残った。

開業歯科医師に対する各種疾患を有する患者(compromised host)の歯科治療に関するアンケート調査結果
3,有病者の治療に関する歯科医師の対応方針

○酒井洋徳、栗田 浩、成川純之助、、茅野めぐみ、田中廣一、倉科憲治

 今回われわれは、対象を長野県の中信地区の開業歯科医師247名とし、各種疾患を有する患者さんの歯科治療の実態を把握し、歯科医師の意識を探る目的で、郵送によるアンケート調査を実施した。アンケート内容は以下の通りである。
アンケート内容
・ 下記の状態及び疾患を有するの患者さんの抜歯を含む歯科治療に際しての対応方針
抗血液凝固剤服用者、抗血小板薬服用者、不整脈、ペースメーカー使用者、狭心症、心筋梗塞、高血圧症、糖尿病、肝硬変、薬剤アレルギー、人工透析患者、てんかん、気管支喘息、消化管潰瘍治療薬服用者、免疫抑制剤服用者、寝たきり患者、B型・C型肝炎、HIV感染者、梅毒、結核の既往、MRSA保菌者
解答選択肢
全て自院で治療する
観血処置は病院歯科に依頼する
全て病院歯科に依頼する
観血処置以外の方法を選択し自院で治療する
その他(自由記載)
結果
1、抗血液凝固剤服用患者で、観血処置が病院歯科に依頼されて来る率は約20%程であり、他の疾患と比較して差はなかった。
2、観血処置を病院歯科に依頼してくる率は、狭心症患者、心筋梗塞患者、免疫抑制剤服用患者では約30%、他の疾患では20%程であった。
3、糖尿病患者、消化管潰瘍治療薬服用患者では、全て自院で治療すると解答する率が7割以上と高くなっていた。これは、他の疾患と比較して自での治療が受け入れられやすい傾向にあった。
4、寝たきり患者では、他の疾患と比較してその他という解答が多く,その他で主治医と相談してから対応方針を決定するという記載が多かった。
5、ウィルス性肝炎患者に比べ、HIV感染患者、梅毒患者、MRSA保菌患者は、病院歯科に依頼する率が高くなっていた。
考察
1、今回の調査において、ほとんどの疾患では自院で治療するという解答が多く見られたが、病気に対する正確な知識を有した上であるかは必ずしも明確にされなかった。例えば最も依頼が多かったのはHIV 感染患者であったが、HIV感染者は全身状態がよく、感染対策が十分であれば歯科治療を問題なく行うことができ、むしろ他の疾患、特に狭心症や心筋梗塞の方が歯科治療時の危険は多いと考えられる。これらの疾患において各歯科医師は十分な知識を持ち治療を行っているかどうか今後明らかにする必要があるのだろう。
2、寝たきり患者においては、自院で治療するという解答が他と同程度であったが、自院での治療も困難であるが、病院歯科に依頼するのは介護者が必要となり移動距離も多くなるためそれ以上に困難であると考えられ、やむを得ず自院にて治療しているという現状がうかがわれた。


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