教室の研究状況
信州大学医学部歯科口腔外科

学会報告

第56回日本口腔科学会総会

口腔扁平上皮癌患者におけるmoesinの発現と予後との関連性

○小林啓一、畔上卓也、小池剛史、栗田 浩、大塚明子、倉科憲治

 MoesinはERMファミリー(ezrin/radixin/moesin)の1つで、N末側でCD44、ICAM-1.2などの接着性分子と結合し、C末側でアクチンフィラメントと結合することにより、細胞膜とアクチンフィラメントのクロスリンカーとして機能している。また細胞の形態変化、運動、増殖にも関与するとされている。今回われわれは、口腔扁平上皮癌患者におけるmoesinの発現と予後との関連について検討したので報告した。
 材料は信州大学医学部歯科口腔外科を受診した口腔扁平上皮癌一次症例114例の生検時の標本ならびに手術標本である。一次抗体として抗moesinモノクロナ−ル抗体を用いて間接法にて染色し、moesinの発現パターンより3つ(membranous type、mixed type、cytoplasmic type)に分類した。Moesinの発現パターンによるoverall survival rateをKaplan-Meier法により求め、生存曲線の検定をlogrank testにより行った。さらにCoxの比例ハザードモデルによる解析を行い、予後因子を検討した。
 結果としてmoesinの発現パターンごとの生存曲線をlogrank testにより検定した結果、有意差(P<0.0001)を認めた。それぞれの5年overall survival rateはmembranous pattern 93.3%、mixed pattern 85.4%、cytoplasmic pattern 53.5%であった。またmembranous/mixed patternをsubgroupとし、生存曲線をlogrank testにより検定した結果、有意差(P<0.0001)が見られた。
 さらに予後因子をCoxの比例ハザードモデルにより解析した結果、単変量解析では年齢、腫瘍の大きさ、LN転移の有無、浸潤様式、分化度、moesinの発現が有意な因子として選択され、また多変量解析では、年齢、浸潤様式、moesinの発現が有意な因子として選択された。

脂肪・炭水化物調整栄養食品(グルセルナR)の術後高血糖に対する有用性
○小嶋由子、栗田 浩、藤森 林、中塚 厚、大塚明子、小林啓一、倉科憲治

 グルセルナRは高脂肪、低炭水化物調整の経管栄養剤で糖尿病患者や耐糖能の低下した患者での使用が勧められている。一般に外科手術後の患者では耐糖能が低下し、高血糖を合併しやすいことが知られており、グルセルナRを使用するにより術後高血糖のコントロールが可能と考えられる。今回経管栄養をおこなうことが多い、口腔外科手術後の患者を対象にグルセルナRの術後血糖コントロールにおける有用性を検討したのでその概要を報告する。
 対象:平成12年4月〜13年8月の間に当科において口腔外科手術を施行し、本調査への参加同意の得られた20例。
 方法:上記20例を術後、low-C群(グルセルナRを使用)10例、high-C群(通常調整の経管栄養剤E-3を使用)10例の2群に振り分け経管栄養を行った。血糖値の推移、栄養管理状況、副作用等を調査し、両群の比較を行った。
 結果:術後6日間の平均血糖値においてlow-C群はhigh-C群にくらべ、ほぼ全期間低値で推移していた。また、low-C群では、術後高血糖の発生は有意に抑制されていた。一方、両群で栄養状態の評価に差はみられなかった。

歯科口腔外科領域におけるCefoselis(CFSL)の組織移行と臨床効果の検討

○飯島響、栗田浩、酒井洋徳、大塚明子、小林啓一、倉科憲治

 新しいセフェム系抗生物質であるCefoselis(CFSL)の歯科口腔外科領域での有効性を検討するために、口腔外科手術時に採取した組織への組織移行と、術後投与による術後感染予防効果を検討したので報告する。
対象:2001年3月から8月までに当科を受診し、調査に同意し、全身麻酔下に手術を受けた11症例。
方法:組織移行についてはCFSL(1gを生理食塩水100mlに溶解)を手術開始前から静脈内に約60分かけて点滴投与し、点滴終了時、術中、術後の3回の採血と手術部位を採取し、HPLC法にてCFSLの血漿および組織内濃度を測定した。術後感染予防効果は術後3〜6日間、CFSL(1gを生理食塩水100mlに溶解)を1日2回静脈内に点滴投与し、術後感染および有害事象の有無より有用性の判定を行った。
結果:術中に血漿:3.00〜26.90μg/ml, 歯肉:1.28〜7.16μg/ml, 顎骨:1.41〜4.62μg/ml,嚢胞壁:3.73〜15.95μg/ml のCFSLの移行が認められた。術中の組織/血漿濃度比の平均は歯肉68.5%, 顎骨:24.8%, 嚢胞壁:65.3%であった。術後感染予防効果については11症例中10症例で有用性ありとの判定を得た。
まとめ:CFSLは手術部組織への良好な組織移行性を示すとともに、術後感染予防における効果にも優れ、口腔外科領域での有用性が期待される薬剤である。

外来口腔外科処置におけるインフォームド・コンセント−全国大学病院歯科口腔外科における同意書聴取実施アンケート調査−

○ 藤森 林・小塚一芳・大塚明子・小林啓一・栗田 浩・田中廣一・倉科憲治

 インフォームド・コンセントを得る効率的方法の1つとして“同意書“が有る。今回我々は、全国大学病院歯科・口腔外科に対し、外来口腔外科処置における同意書の使用に、関するアンケート調査を行った。目的は、外来口腔外科処置における同意書の使用状況を把握し、有効な使用方法を検討することである。対象は、全国大学病院歯科口腔外科113施設とした。
 質問は四項目で、質問1として、現在の同意書の使用状況を、普通抜歯、埋伏抜歯、外来手術の処置別に調査した。質問2として、同意書を取る必要性を感じるか否かを、質問3として、今後同意書を取る予定があるか否かを、処置・内容別に調査した。最後に質問4として患者とのトラブルを防止する工夫を記載して頂いた。
 75施設(回収率66.4%)より回答が得られ、結果は以下の通りであった。
1:現在同意書は、普通抜歯で26%、埋伏抜歯・外来手術で約半数の施設で活用されていた。
2:普通抜歯で約半分、埋伏抜歯、外来手術で約8割の施設で、同意書の必要性を感じていた。
3:約9割の施設が今後同意書を活用する予定、あるいは検討中と解答した。
 今後同意書の使用は増加すると考えられるが、全ての患者で使用することを考えている施設は少なく、多くの施設は、合併症が予想される場合、有病者などの一部の患者を対象に、同意書を使用していく予定との結果であった。当科では、同意書を、効率よく、わかりやすく患者に説明し、さらにそれを理解し同意したかを確認する一助として位置づけている。そのため、普通抜歯は、全身的に悪影響を及ぼしやすい有病者などの一部の患者で、偶発症の可能性が高い埋伏抜歯及び外来手術では全ての患者で同意書を使用している。今後さらに同意書の形式や、有効なインフォームド・コンセントの取り方などについて検討していく予定である。

歯科における院内感染予防に関するアンケート調査結果
−歯科衛生士へのアンケート調査−

○栗田 浩、畔上卓也、中塚厚史、宮澤英樹、小林啓一、倉科憲治

 近年院内感染に対する関心の高まりとともに、歯科診療室における感染対策についても関心が高まりつつある。われわれ歯科医療に携わるものにとって避けて通れない課題であり、早急の対策が必要である。これまでにわれわれは、現在の歯科診療室における感染対策の現状を把握する目的で、開業歯科医師を対象に院内感染対策に関するアンケート調査を行い第54回の本学会において報告した。今回、同様の調査を歯科衛生士を対象に行ったので、その概要を報告する。
 対象:長野県歯科衛生士会主催の感染対策講習会に参加した58名の歯科衛生士。
 方法:会場での配布によるアンケート調査。
 調査項目:@回答者の年齢、および、臨床経験年数、A針刺し事故の経験の有無、BB型肝炎に対する抗体の有無、C院内感染予防対策(眼鏡等の着用、手袋の着用、マスクの交換、器具の洗浄・滅菌)の実施状況、など
結果:
1. 針刺し事故の経験は、47%があると回答した。
2. 針刺し事故後の対処法について、19%が「よく知っている」、60%が「少し知っている」と回答した。
3. 治療中の眼鏡/ゴーグルの使用率は47%であった。
4. 治療中のグローブの使用率は83%であったが、患者毎に交換している率は21%であった。
5. マスクを患者毎に交換している率は10%で、ほとんどの歯科衛生士は性能が低下したマスクを使用している可能性がある。
6. 患者毎にハンドピースを交換している率は48%であった。
7. 器具の洗浄において、超音波洗浄器の使用率は62%であった。
8. 器具の滅菌に関して、オートクレーブの使用率は93%、ガス滅菌器の使用率は22%であった。


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Department of Dentistry and Oral Sirgery, Shinshu Univbersity School of Medicine