教室の研究状況
信州大学医学部歯科口腔外科

学会報告

第55回日本口腔科学会総会

当科における院内感染予防対策

藤森 林、栗田 浩、大塚明子、小林啓一、田中廣一、倉科憲治

当科では平成12年4月よりOrganization for safety and asepsis proceduresのガイドラインにそって歯科外来感染対策マニュアルを作成し、感染予防に当っている。環境整備等については、感染症対策ユニット、口腔外バキューム装置の配備、可能な限りディポーザブル製品の導入、治療用器材などの個々の滅菌パック化等を実施した。
 歯科外来において完全にユニバーサルプレコーションに則った診療は困難なため、移行段階として、まずリスクの高いHIV・HBV・HCV・梅毒等の感染症患者はレベル2、明らかな感染症のない患者は、レベル1とした。また、観血的処置では、明らかな感染症が無くてもレベル2をとるように努めるとした。
 さらに処置内容により汚染防止策を決めた。すなわち、観血的、非観血的に関わらず、飛沫感染の可能性が高い処置ではフルカバーを行うとした。観血的で飛沫感染の可能性が少ない処置では、触れる部位のカバーまたはラッピングを行うとした。
 以上の点をふまえて、現在、外来にて実際に行っている内容としては、個人的防護具(グローブは、1患者あるいは1行為に1セット使用するなど)、始業時の準備(ウォーターラインのフラッシュ、片付け漕の準備など)、患者の治療前(術者により必要な器具の準備等を行う)、治療中の注意点(汚染域と非汚染域の明確化など)、技工(印象物の消毒、石膏の練和溶液など)について、それぞれ規則を設けた。特に、片付けについてはレベルごとに順序を決め、それぞれの滅菌や消毒を定めた。
 以上、我々の外来にて行っている感染予防対策を紹介したが、まだ徹底されない部分もあり、様々な困難もあるため、スタッフの教育訓練をすすめ、ユニバーサルプレコーションに則った対策に近づける様、努力していきたいと考えている。

嚢胞状を呈した顎下部唾液腺癌の4症例

大塚明子、栗田 浩、張 淳美、小林啓一、倉科憲治

 唾液腺悪性腫瘍は腺様嚢胞癌、粘表皮癌がその多くを占めるがこれらはいずれも充実性であり、嚢胞状を呈するものは少ない。今回われわれは嚢胞状を呈した顎下部唾液腺癌の4例を経験したので報告した。
 性別は男性1例、女性3例、年齢は39歳から84歳。主訴は全例顎下部の腫脹で、圧痛が3例に認められた。2例では顎下部病変と連続していると思われる腫脹が口底にみられ、粘膜との癒着を認めた。
 CT・USにて病変は境界明瞭な嚢胞様を呈したが症例により壁の肥厚や厚さ不均一、不整などの所見や内部に隔壁様構造、石灰化物などもみられた。また造影CTにてenhanceがみられたのは1例のみであった。
 臨床診断は1例が嚢胞、3例が腫瘍で、治療は全例に手術が行われた。術中病理診断にて悪性腫瘍の診断を得、3例は口底郭清(口底粘膜、舌下腺、顎下腺、顎舌骨筋を含む)、1例は顎舌骨筋、下顎骨辺縁切除を含む腫瘍切除を行った。摘出物は3例では明らかな嚢胞様の腔を有し、1例は大部分が充実性でごく一部に壊死を伴う腔がみられた。
 病理組織学的診断はadenoid cystic carcinoma 2例、squamous cell carcinoma with focal mucoepidermoid carcinoma 1例、Adenocarcinoma, NOS1例であった。
 術後放射線照射(50〜70.2Gy)が全例に行われ、1例には化学療法も行われた。
 経過は、術後6カ月から10年4ヶ月現在、全例再発転移を認めていない。(1例は8年9カ月後に口底に扁平上皮癌を認め、再手術を施行。)
(まとめ)今回、われわれは嚢胞状を呈した顎下部唾液腺癌の4症例を経験したので報告した。4例中3例は臨床所見および画像所見より悪性の可能性を予測できた。嚢胞状を呈する腫瘤でも悪性である可能性を念頭に置いて処置すべきと思われた。

下顎頭外側極の吸収性変化と矢状断面像における下顎頭OA変化との関連

栗田 浩、大塚明子、小塚一芳、畔上卓也、小林啓一、倉科憲治

 顎関節円板は下顎頭の内側極および外側極に付着しており、その付着部の変化は関節円板と下顎頭の位置的関係の変化をもたらすと推察される。われわれは下顎頭外側極上方隅角部の変化に注目し、この部の吸収性変化と関節円板前方転位と有意な関連が見られること、また、円板転位が重度になるほどこの部の吸収が高頻度に出現することを報告した。しかし、この外側極の吸収と通常の矢状断面像で観察される下顎頭の変形性変化との関連は不明である。そこで本報告では、両者の関連について検討を行い報告した。
[対象] 1994年から1999年12月の間に当科を初診し、顎関節症との診断でMRI撮影を行った138例217関節。
[方法] 下顎頭外側極の吸収の有無は、眼窩-下顎頭方向単純X線写真上で判定した。また、MRI矢状断面像(関節中央部)において下顎頭皮質骨の変形性変化(吸収性変化、増生成変化)の有無を判定した。
[結果]
・ 矢状面における下顎頭OA変化が観察された67関節中28関節(42%)で外側極の吸収がみられた。いっぽう、矢状面でOA変化が観察されなかった128関節中では、34関節(27%)で外側極の吸収が観察された。外側極の吸収と矢状断面OA変化の両者が同時に観察された率は28%であった。
・ 外側極の吸収と矢状断面OA変化の種類(吸収性or増生性)との関連はみられなかった。
・ 復位性円板転位を持つ関節では、外側極の吸収および矢状断面OA変化は各々単独で見られる傾向があり、非復位性転位を持つ関節では両変化を併発する関節が多くなる傾向がみられた。
 以上の結果から、外側極の吸収と下顎頭矢状断面で観察される骨変化の関連は明らかではなかった。


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Department of Dentistry and Oral Sirgery, Shinshu Univbersity School of Medicine