教室の研究状況
信州大学医学部歯科口腔外科

学会報告

第46回日本口腔外科学会総会
(2001/10/25〜26 鹿児島)

口腔扁平上皮癌におけるmoesin発現とCD44発現の関連性

○小林啓一、畔上卓也、大塚明子、栗田 浩、倉科憲治

 moesinはERM(ezrin/radixin/moesin) ファミリーの一つで、N末側でCD44、ICAM-1などの膜タンパク質と結合し、C末側でアクチンフィラメントと結合することにより、細胞膜とアクチンフィラメントの架橋として機能している。また細胞内情報伝達系にも関与し、細胞の形態、接着、増殖にも重要な役割を果たしている。CD44は膜貫通型のタンパク質で、その遺伝子は20個のエクソンよりなる。特にエクソン6〜15は選択的にスプライシングされるため、CD44はアイソフォームをもつ。口腔扁平上皮癌(OSSC) においてCD44のアイソフォームと転移との関連性が多数報告されているが、統一された見解は得られていない。今回われわれはOSSCにおけるmoesinの発現とCD44の発現の関連性について報告した。対象は当科を受診したOSSC一次症例59例の標本と正常口腔粘膜で、これらを抗moesin mAb、抗CD44s mAb、抗CD44v6 mAb、抗CD44v7/8 mAbを用いて、免疫組織化学的に検討した。結果として、正常口腔粘膜においてmoesin、各種CD44のいずれも上皮細胞の細胞膜に強く発現していた。またOSSCにおいて、moesin、各種CD44のいずれも正常粘膜の上皮細胞と比較すると細胞膜の発現が減弱し、細胞質の発現の増強を認めた。しかしOSSCにおけるmoesinの発現と各種CD44の発現の統計的な相関関係は見られなかった。

舌癌Stage氈A頸部リンパ節後発転移に対する治療法に関する検討ー放射線治療例における検討ー

○酒井洋徳、栗田浩、大塚明子、小林啓一、田中廣一、倉科憲治、*鹿間直人(放射線医学講座)

 目的:舌癌Stage氈A症例で、放射線治療後の頸部リンパ節後発転移に対する治療後の経過を検討し、経過が不良となった要因についての検討。
 対象:1990〜96年の間に当院放射線科で、Stage氈Aの舌癌に対し放射線治療を行った後、頸部リンパ節後発転移をきたした24症例のうち、転移巣に対し根治治療が行われ、経過が判明した19例。
 方法:カルテまたは画像所見をretrospectiveに調査を行った
 結論:@19症例のうち6例で頸部転移巣が制御できず、制御率は68.4%であった。AN1症例では、全て頸部転移巣が制御された。B原発巣に再発を認めた5例中、3例でpull through operationを施行し、2例で頸部転移巣が制御がされた。C原発巣の再発がない14症例中3例が頸部非制御であり、そのうち2例で原発巣と頸部後発転移巣の間に再発していた。D頸部制御された14症例中7例に遠隔転移を生じた。

口腔癌患者の術後の不穏に関する臨床統計的検討

○大塚明子、栗田 浩、上原 忍、小塚一芳、畔上卓也、小林啓一、倉科憲治

 今回われわれは口腔癌患者術後の不穏の現状を明らかにすることを目的に、1996年4月から2001年3月までに当科にて口腔癌により全身麻酔下に手術を行った130例を対象に臨床統計的検討を行った。調査は診療録、看護記録をもとに各項目について検討した。不穏の有無については、DSMの診断基準を準用した。不穏は18例、13.8%にみられ、症状は環境認識の清明度の低下、不穏行動が多く、カテーテルの自己抜去もみられた。不穏の発生時期は術翌日から術後3日以内が多く、発生後1日から4日以内に消失していた。
 各項目別に不穏の有無を比較すると、不穏ありの症例は男性に多く、年齢は症例全体では差はみられなかったが、女性は不穏ありの症例が有意に高齢であった。術前の、喫煙歴、飲酒歴、手術歴で不穏の有無に有意差がみられた。手術内容は不穏ありの症例の多くは大型皮弁による再建術がなされていたが腫瘍切除術のみという症例もみられた。また手術時間は有意に長く、出血量も多かった。術後は個室管理の有無、留置カテーテルの数、睡眠状態で不穏の有無に有意差が認められた。不穏ありの症例に使用された鎮静剤は、ヒドロキシジン14例、ミタゾラム9例、フルニトラゼパム8例で、不穏発生後もハロペリドールは2例に使用されたのみであった。
 危険因子の多い症例では術後の不穏状態の発生を考慮して手術に臨む必要があると思われた。

顎関節内障に伴う下顎頭の形態変化
      −下顎頭短径および長径の変化−

○ 栗田 浩,大塚明子,小塚一芳,畔上卓也,小林啓一,倉科憲治

 顎関節内障は顎関節症の約2/3以上を占める主要な病態である。しかし、その発症のメカニズム、病態はいまだ不明な点が多い。顎関節内障の進行に伴い顎関節構成硬組織にも何らかの形態変化が生じていると考えられる。そこで今回われわれは、水平断面像における下顎頭の形態変化に注目し、水平断面像における下顎頭の短径および長径の変化と関節円板前方転位との関連を検討したのでその概要を報告する。

<対象>1994〜2000 年までに顎関節症の診断で顎関節のMR撮影を行った患者のうち、資料の整った133 例214関節。

<方法>顎関節のMR水平断面像において下顎頭の短径および長径を計測。またMR矢状断面像にて関節円板の転位状態、転位の程度、および、円板形態を評価。そして、顎関節の短径および長径と円板転位の病態(転位および復位の有無、転位の程度、円板形態)との関連を検討した。

<結果>円板転位を持つ関節では、転位の無い関節より下顎頭の長径および短径は小さかった。また、円板の転位量が大きくなるほど、また、円板の変形が進むほど、下顎頭の長径および短径は小さくなる傾向を認めた。しかし、転位および変形が重度になると、下顎頭の長径および短径が増加する傾向が見られた。


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Department of Dentistry and Oral Sirgery, Shinshu Univbersity School of Medicine