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信州大学医学部歯科口腔外科

学会報告

第53回日本口腔科学会総会

口腔癌手術後の舌骨の位置に関する検討〜第2報 舌骨の位置変化と摂食能との関連〜

        上原 忍、栗田 浩、大塚明子、高見澤紳治、小林啓一、田中廣一、倉科憲治

 摂食とくに嚥下において、舌骨の位置は重要とされ、舌骨が嚥下に適した位置に存在することにより円滑な嚥下が行われる。第53回口腔科学会総会においてわれわれは、口腔癌手術前後の舌骨の位置変化について検討し、舌骨は口腔癌手術後に前下方へと移動する傾向が認められることを報告した。今回われわれは、口腔癌手術前後の舌骨の位置の変化が、手術後の摂食能の変化とどのような関連があるのかについて検討したので報告する。
[ 対象 ] 1986年から1996年までに当科を初診した口腔癌一次症例のうち根治的手術施行例22例(男性11例、女性11例、平均年齢59.9歳)。全ての症例において頚部郭清術を施行した。
[方法] 舌骨の位置の変化は、手術前後のCTを用い頭位の変化が舌骨の位置に影響を及ぼさないと言われるセラと第3頚椎前縁最下点を結んだ線と、第3頚椎最下点を通りこれに垂直な直線とを基準線とした座標により、舌骨前縁最下点の前後的および上下的位置の変化について計測した。摂食能は手術後の摂食物の形態変化で評価した。
[結果]舌骨は口腔癌手術後前下方に移動する傾向が認められ、摂食能と舌骨の前後的移動量に関して有意な相関関係が認められた。しかし、摂食能と舌骨の上下的移動量に関しては、有意な相関関係は認められなかった。 

当科における高齢口腔悪性腫瘍患者の臨床統計的検討

         高見澤紳治、栗田 浩、大塚明子、上原 忍、田中廣一、倉科憲治

 高齢者の口腔悪性腫瘍の特徴を検討するため、初診時年齢70歳以上(71例)を高齢者とし、70歳未満(124例)の口腔悪性腫瘍患者と比較し臨床統計的に検討したので報告する。
<対象>1982年1月から1997年12月までの過去16年間に、当科にて治療を行った全口腔悪性腫瘍一次症例、195例とした。<検討項目>性比、既往疾患、Performance Status,発生部位、組織型、多重癌、臨床病期、治療法、治療態度、死因、治療成績の以上11項目とした。
<結果>1,性別は女性に多く、男性の1.8倍であった。2,既往疾患保有率は63%と高かった。3,PSGradeの1以上が81%と多数を占めた。4,発生部位は頬粘膜、下顎歯肉に多く発生する傾向を認めた。5,組織型では唾液腺癌の発生頻度が低い傾向であるのを認めた。6,重複癌の発生頻度が高い傾向を認めた。7,扁平上皮癌の治療法は外科療法単独、または、放射線、化学療法の2者併用療法が多く選択される傾向を認めた。8,治療態度別では絶対的根治的治療が行われる率が低かった。9,死亡原因は他病死が多い傾向であったが、有意差は認めなかった。10,5年累積生存率は56%で70歳未満より低かったが、有意差は認められなかった。11,高齢者において 臨床病期のStage。とStage間に有意差を認めた。12、非絶対的根治治療例の5年累積生存率は絶対的根治治療例より低かったが有意差は認めなかった。

顎関節症患者のMRI所見の年齢的変化

        大塚明子、栗田 浩、上原 忍、高見澤紳治、張 淳美、今井恭一郎、清水俊英、小林啓一、倉科憲治

今回われわれは顎関節症患者の年齢による病態の差を明らかにするため、MRI所見の年齢的変化を検討した。対象は1991年から1998年に当科にてMR撮像を行った顎関節症患者158例187関節である。20歳未満(42例51関節)、20歳から49歳(98例115関節)、50歳以上(18例21関節)に分類し、関節円板の動態、形態、転位量、可動性、下顎頭皮質骨の変化、骨髄信号の変化、joint effusion の有無について比較した。
関節円板の形態は復位のない関節円板前方転位(以下AWOR)症例において50歳以上は20歳未満と比較し後方肥厚部の肥厚が少なく塊状が多くみられた。また後方肥厚部の肥厚は20歳から49歳との間にも有意差がみらた。関節円板転位の程度はAWORにおいて20歳未満および20歳から49歳では中等度転位例が多く、50歳以上では高度転位例が多かった。復位のある関節円板前方転位(以下AWR)症例では20歳未満は中等度転位例が多く、20歳から49歳では軽度転位例が有意に多かった。関節円板の可動性の有無は各群間に有意差を認めなかった。下顎頭骨皮質の変化はAWORにおいて増生性変化が20歳未満と比較し50歳以上で多くみられた。骨髄信号の変化はAWRにおいて20歳未満と比較し20歳から49歳に骨髄信号正常の症例が有意に多かった。joint effusionはAWOR、AWRともに20歳未満で多い傾向であった。

顎関節円板前方転位と側頭骨関節面形態

         栗田 浩、大塚明子、高見沢紳治、今井恭一郎、清水俊英、松澤智由貴、倉科憲治

 関節円板前方転位のひとつの要因として、側頭骨の関節面形態が考えられている。しかし、側頭骨の関節面形態は円板転位の病因か?あるいは、円板転位後の適応変化か?いまだ不明な点が多い。そこで本報告ではMRI画像を用いて、側頭骨の関節結節、関節窩の形態の分類を行い、側頭骨関節面形態と円板転位、および、関節症の進行度(クリック発生からの期間、他の関節変化など)との関連を検討した。
[対象] 1991年7月から1998年10月の間に当科を初診し、顎関節症との診断でMRI撮影を行った159例231関節。
[方法] 側頭骨の関節結節、関節窩の形態を、Box、Sigmoid, Flattening, deformityの4型に分類した。関節面形態の分類結果と@円板の有無および転位様態、Aクリック発生からの期間、B円板転位の程度、C円板形態、D下顎頭の変形(単純X-P)との関連を検討した。
[結果] 側頭骨関節面形態と関節円板転位の有無との関連は見られなかった。しかし、円板転位の様態別にみると、復位を伴う転位関節ではSigmoid typeが多く、Flattening typeが少なかった。側頭骨関節面形態と、クリック発生からの期間、関節円板の変形、円板転位量との関連は見られなかった。しかし、下顎頭の変形と、側頭骨関節面の平坦化との関連が示唆された。


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