教室の研究状況
信州大学医学部歯科口腔外科

学会報告

第44回日本口腔科学会中部地方部会
(2001/9/29 岐阜県穂積町)

口腔粘膜病変におけるJG(歯科用ヨードグリセリン)染色の有用性

○栗田 浩

 扁平上皮におけるルゴール呈色反応の臨床応用は1928年Schillerが子宮頸部の早期癌発見を目的としてSchiller'sテストを提唱したことに始まる。現在でもルゴール染色法は、上部消化管内視鏡検査などで早期癌や表在性の病変の発見などに広く用いられ、その有用性が認められている。口腔領域においても古くから本検査法が用いられたが、その有用性を十分検討することもなくあまり用いられなくなった。口腔内は直視可能であり、ルゴール染色を用いなくても病変の検出は可能であるとの多くの臨床医の判断によるものと思われる。
 口腔粘膜癌の多くでは癌病巣の周囲に異型性を示す上皮の広がりを有していることが知られている。この異型上皮は癌切除後の局所再発の原因となったり、多中心性の癌の発生と深く関連があるとされている。この様な異型上皮は通常視診のみでは見落としてしまうことがあったり、その広がりを正確に取らえられないことも多々経験する。ルゴール染色はこの様な病変を明瞭に検出できることから、病変の広がりの診断においてルゴール染色の応用が期待される。
 われわれはこれまで、歯科用ヨードグリセリン(以下JG)液を用い口腔粘膜病変におけるルゴール染色法の有用性の再検討を行ってきた。今回はこれまでの研究成果をまとめ以下の項目について報告した。
1, 正常口腔粘膜および口腔粘膜病変の染色性
 正常非角化口腔粘膜と炎症上皮はJG染色陽性(呈色反応あり)を示し、正常非角化口腔粘膜と異型および扁平上皮癌ではJG染色陰性(呈色反応無し)を示した。JG染色を応用する際には病変周囲正常粘膜の上皮のJG染色性を考慮する必要があると思われた。
2, 染色機序
 JG染色の機序は上皮の角化度のみでは説明できなかった。JG染色性と上皮内グリコーゲンの存在とは関連があると思われた。
3, 口腔粘膜異型上皮の範囲の診断における精度(被覆粘膜における検討)
 JG染色による病変の境界と病理学的な境界との差は平均で1mm以下であった。病変を過小評価した際の差の最大は2.1mmであり、JG非染色域から5mmのフリーマージンをとれば病変の取り残しの可能性がないと思われた。
4, 口腔粘膜異型上皮の範囲の診断における有用性(視診のみによる診査との比較)
 JG染色を用いた方が視診のみによる診断より検査者間の信頼性が高かった。視診のみによる診断はJG染色を用いた際より病変を過大評価する傾向がみられた。

舌に発生した粘表皮癌の1例

○中塚厚史 畔上卓也 大塚明子 栗田 浩 倉科憲治

 粘表皮癌は唾液腺の導管由来の腫瘍で、耳下腺が好発部とされている。小唾液腺由来では口蓋に多いといわれており、舌に発生するのはまれである。今回、我々は舌に発生した本腫瘍を経験したので報告する。
 患者は、57歳男性で2001年4月27日に右側舌縁の接触痛を主訴に当科を受診した。現病歴は、2001年4月上旬より右側舌縁部に食事時に接触痛を自覚するも、自制内であったため放置。その後、疼痛が徐々に増悪したため4月21日近歯科医院を受診し当科を紹介され来科した。全身所見は体格中等度で栄養状態は良好であった。口腔外所見は、右側上内深頸領域に小豆大の圧痛のあるリンパ節を1個認め、右側顎下部に小豆大の圧痛のないリンパ節を1個認めた。口腔内所見は、右側舌縁に圧痛のある潰瘍を認め、周囲に長径38mm短径25mmの硬結を認めた。接触障害、構音障害は認められなかった。MRIにおいて、右側舌縁に25×18mm大のenhansed lesionを認め、右顎下部にリンパ節の腫大を認めた。右側舌悪性腫瘍疑いに初診時生検を行い高分化型扁平上皮癌の診断を得た。5月21日、右側全頸部郭清術、舌可動部半側切除術、左側前腕皮弁による再建術を施行し、摘出物の病理組織検査にて低分化型の粘表皮癌と診断された。術後24日目より術後放射線治療開始し、総量63gy照射し、8月21日より化学療法1クール施行した。現在まで経過良好である。

口腔外科処置におけるインフォームド・コンセント
−長野県下病院歯科・口腔外科におけるアンケート調査−

○ 小塚一芳・大塚明子・栗田 浩・倉科憲治

 今回我々は長野県下病院歯科口腔外科22施設に対し、口腔外科処置におけるインフォームド・コンセントに関するアンケート調査を行った。22施設にアンケートを実施し、当院を含む22施設、全てより回答が得られた。その結果、@普通抜歯の際、同意書を取る施設は0施設、A埋伏抜歯の際、同意書を取る施設は2施設9%、B外来手術の際、同意書を取る施設は6施設27%であった。また、必要性は感じていても、業務の煩雑化を懸念して行っていないとの意見も見受けられた。同意書は我々の外来業務の効率化を図り、患者のインフォームド・コンセントの助けになるばかりか、説明の証としても役立つ。医療トラブルの増加する今日、より確実に医師と患者の信頼関係を強め、医療の合法性を確保する意味で、同意書の効果的な用い方を検討してゆく必要があると考えられました。


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Department of Dentistry and Oral Sirgery, Shinshu Univbersity School of Medicine