教室の研究状況
信州大学医学部歯科口腔外科

学会報告

第28回日本口腔外科学会中部地方会(2003.6.15 名古屋市)

口腔外科治療を契機に発見されたHIV感染の3例
○宮原貴彦 中塚厚史 飯島 響 栗田 浩 倉科憲治

 歯科あるいは口腔外科治療を契機にヒト免疫不全ウィルス(以下HIV)感染が発見されたという報告は少ない。今回我々は、口腔外科治療を希望して当科を受診し、HIV感染が判明した3例を経験したので報告した。
 症例1:患者は52歳男性で、主訴は右側オトガイ部の疼痛および腫脹であった。患者は左手背蜂窩織炎、両側内因性眼内炎および不明熱が継続していた。患者にHIV感染の自覚は無かったが、免疫不全を疑い、ウェスタンブロット法(以下WB法)を施行した結果、HIV感染が判明した。
 症例2:患者は59歳男性で、右側頬部の疼痛を主訴に当科を受診した。右側頬粘膜に水疱があり、摂食困難であり、発熱も認めたため、帯状疱疹を疑い、緊急入院となった。患者はHIV感染の自覚が無かったが、入院時スクリーニング検査の結果、HIV感染が疑われ、WB法による検査でも陽性の結果を得た。
 症例3:患者は54歳女性で、左側術後性上顎嚢胞の手術目的で当科入院となった。入院時、全身的・局所的にHIV感染を疑わせる所見はなく、患者も自らがHIV感染者であることを知らなかった。しかし、スクリーニング検査でHIV感染が疑われ、WB法による検査でも陽性の結果を得た。
 今後、HIV感染者の増加が予測され、自らもHIV感染者であることを知らない患者が歯科あるいは口腔外科を受診する機会が増加すると考えられる。十分な問診、的確な症状の把握、スクリーニングの徹底、universal precautionの概念に基づいた感染対策などを講じる必要がある。

原発不明頚部リンパ節転移癌の1例
○ 瀧沢 淳、宮澤英樹*、小林啓一、栗田 浩、倉科憲治

 原発不明頚部リンパ節転移癌は、頭頚部癌症例の約1〜2%を占め、原発巣が不明のまま治療を開始せざるを得ない場合がある。今回われわれは、原発不明頚部リンパ節転移癌の1例を経験したので報告した。
症例:73歳、女性。
初診:2001年11月27日。
主訴:左側顎下部の腫脹。
既往歴:交通外傷、ピリン系薬剤アレルギ−。
家族歴:特記事項なし。
現病歴:2001年10月下旬、左側下顎第一大臼歯に違和感を自覚し、近歯科受診。左側下顎第一大臼歯からの排膿を認め、抜歯施行。その後より左側顎下部の腫脹及び疼痛を自覚。腫脹が減退せず、抜歯窩の治癒遅延もあったため、紹介にて近病院歯科口腔外科を受診。抗生剤投与されるも、顎下部の腫脹に変化ないため、精査加療目的で2001年11月27日当科紹介初診。
現症:左側顎下部に直径約22mm、び漫性、弾性硬、非可動性、表面皮膚は正常の腫脹を認めた。自発痛、圧痛、知覚障害等はみられなかった。左側下顎第一大臼歯部抜歯窩に治癒遅延が認められた。左側下顎第二小臼歯、第一大臼歯部の頬側歯肉に腫脹、発赤、圧痛を認めた。左右舌下小丘からの唾液の流出は良好であった。X線写真で抜歯窩部に異常な骨の吸収像は認めなかった。
処置および経過:2001年12月10日全身麻酔下に左側下顎第一大臼歯部歯肉生検、左側下顎第二大臼歯抜歯術、左側顎下リンパ節摘出術を施行した。病理診で、歯肉部は炎症細胞浸潤を伴う肉芽組織、リンパ節は中分化型扁平上皮癌のリンパ節転移であったため、頭頚部CT、胸部CT、気管支鏡検査等により精査したが、原発巣は不明であった。2002年1月31日左側全頚部郭清術施行、郭清組織中に転移リンパ節は認められなかった。2月12日から両頚部、上・中・下咽頭に放射線治療(計57.6Gy)を施行した。治療後1年2ヶ月経過した現在、無再発生存中である。


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