教室の研究状況
信州大学医学部歯科口腔外科

学会報告

第21回日本口腔腫瘍学会総会(2003/1/30-31、沖縄)

ワークショップ
「口腔癌の外科病理:舌粘膜における上皮異形成ム診断基準の統一に向けて」
2,舌粘膜病変の肉眼的指標としてのヨード染色の有用性

栗田 浩

 口腔粘膜癌の多くでは癌病巣の周囲に異型性を示す上皮の広がりを有していることが知られている。この異型上皮の過小評価は癌切除後の局所再発の原因となったり、また、その過大評価は切除後の機能障害の一因となる。これら異型上皮の広がりを臨床の場で正確に診断することは口腔癌の治療に重要な因子である。
 われわれは、歯科用ヨードグリセリン(以下JG)液を用いた生体染色を口腔粘膜に応用し、その有用性の検討を行ってきた。今回は、上皮性異形成の診断におけるヨード染色の有用性について口腔粘膜特に舌粘膜病変について考察を加え報告した。
1,正常口腔粘膜および口腔粘膜病変のヨード染色性
 正常非角化粘膜と炎症上皮はJG染色陽性(呈色反応あり)を示し、正常角化粘膜と異型上皮および扁平上皮癌ではJG染色陰性(呈色反応無し)を示した。
2,異型上皮/悪性病変の診断精度
 舌粘膜病変における検討では、異型上皮の診断に関して精度は92%、感度100%、特異度78%であり、異型上皮は全てJG染色陰性を示した。
3,口腔粘膜異型上皮の範囲の診断における精度(被覆粘膜における検討)
 JG染色による病変の境界と病理学的な境界との差は平均で1mm以下であった。病変を過小評価した際の差の最大は2.1mmであり、JG非染色域から5mmのフリーマージンをとれば病変の取り残しの可能性がないと思われた。
4,口腔粘膜異型上皮の範囲の診断における有用性(視診のみによる診査との比較)
 JG染色を用いた方が視診のみによる診断より検査者間の信頼性が高かった。視診のみによる診断はJG染色併用時より病変を過大評価する傾向がみられた。

口腔扁平上皮癌における術前化学療法の効果とTS・DPD発現との関連

小林啓一、栗田 浩、大塚明子、田中廣一、倉科憲治

TS(Thymidylate Synthase)はDNA合成、細胞増殖に関与する酵素で5-FUの標的酵素の一つである。一方、DPD(Dihydropyrimidine Dehydrogenase)は5-FUの分解経路における律速酵素である。今回、われわれは術前化学療法(UFT+CDGP)を行った口腔扁平上皮癌症例におけるTS・DPDの発現と化学療法の効果との関連性を検討したので報告した。
【対象ならびに方法】対象は1999年8月から2001年11月までに当科にて術前化学療法(UFT+CDGP)施行後手術を行った口腔扁平上皮癌一次症例10例であり、性別は男性4例、女性6例、年齢は48歳から78歳(平均64.8歳)に分布し、原発部位は、舌3例、上顎歯肉3例、口底2例、頬粘膜1例、下顎歯肉1例であり、病期分類はstage4が5例、stage3が3例、stage2が2例であった。また化学療法後の原発巣における臨床効果はPRが4例、NCが6例であり、手術摘出標本における大星・下里の分類による組織学的効果はGradeaが4例、Gradebが3例、Grade氓ェ2例、Grade。が1例であった。方法は、試験切除標本ならびに手術摘出標本を薄切後、抗TSポリクローナル抗体と抗DPDポリクローナル抗体を用いて、LSAB法にて染色し、腫瘍細胞のTS・DPDの発現パターンと正常粘膜を基準とするTS・DPDの発現強度を3段階で評価した。
【結果】組織学的にGradeb以上の奏功を示した4例中3 例の試験切除標本において腫瘍細胞のTS・DPDはheterogenousな発現パターンを示し、Gradea以下であった6例中5例はhomogenousなパターンを示した。また、従来の報告と異なり、化学療法のの効果とTS・DPDの発現強度に相関関係を認めなかった。全例の手術摘出標本において、腫瘍細胞のTS・DPDはhomogenousな発現パターンを示した。


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