教室の研究状況
信州大学医学部歯科口腔外科

学会報告

第19回日本口腔腫瘍学会総会

片側性口腔扁平上皮癌における対(健)側頸部リンパ節転移の検討

       栗田 浩、小林啓一、大塚明子、田中廣一、倉科憲治、田村 稔1、峯村俊一2
       1:長野市民病院歯科口腔外科 2:飯田市立病院歯科口腔外科

 頸部リンパ節転移のコントロールは口腔扁平上皮癌患者の予後を左右する重要な因子の一つである。その中でも、対側頸部リンパ節に転移をきたした症例の予後は不良で、対側に転移を生じる症例の予測、および、それに対する治療法の確立が必要である。そこで、今回われわれの経験した症例をretrospectiveに調査し、対側頸部転移の頻度、および、転移をきたす要因について検討を加え報告した。
【対象】1985年から1999年の15年間に当科にて入院加療を行った片側性(両側犬歯間の発生例、多発癌症例を除く)の顎口腔領域扁平上皮癌患者211例。
【結果】対側頸部リンパ節転移がみられた症例は34例で、頻度は16.1%(34/211)であった。初回治療時に対側頸部転移が明らかであった症例は14例で、13例はT4症例、他の1例は舌のT2症例であった。初回治療時にT4と診断された症例は51例あり、T4症例における初回治療時対側転移の頻度は25.5%であった。潜在的対側頸部転移を来したと考えられる症例は13例で、舌のT2以上が10例を占め、他は下顎歯肉および上顎洞原発のT4症例であった。原発巣の再発を伴う対側頸部転移は5例みられ、4例は患側頸部郭清術がすでに行われていた症例であった。
【考察および結論】
1)T4症例、および、舌T2以上の症例では対側頸部リンパ節転移に対する注意が必要である。
2)原発巣の再発が見られた症例で患側の頸部郭清が行われている場合、対側頸部リンパ節転移に関する注意が必要である。
3)今後、T4症例、および、舌T2以上の症例における対側頸部リンパ節転移の要因の検討が必要である。

口腔癌術後摂食障害に対してPEGを用いた胃瘻造設を行った3症例

 今回我々は、口腔癌術後に様々な理由により摂食障害を併発し、中長期的な栄養管理を必要とした3症例に対し経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)により胃瘻造設し、経胃管法による栄養管理を行った。理由として、生理的度合いの強い高カロリー栄養を長期間摂取可能であり、噴門弁機能の破壊が無く、審美性に富み、医療費も安価で在宅栄養療法として優れているとされているからである。またPEGは、従来よりの外科的胃瘻造設術と比べ、1.患者に対し低侵襲で施行可能、2.患者や家族の精神的負担の軽減、3.管理の容易性、4.リハビリテーション時の自立性の実現、5.無麻酔下にて在宅、外来交換が可能、6.抜去後当日よりの経口摂取可能等の利点を有するとされる。

症例1:患者79歳、女性  臨床診断:右口底扁平上皮癌(T3N2bN0)
治療経過:化学療法併用術前照射、根治的な腫瘍切除術、術後補助化学療法
胃瘻造設に至った理由:・仮性球麻痺による中枢性嚥下障害・誤嚥性肺炎

症例2:患者75歳、女性  臨床診断:右舌扁平上皮癌切除術後、右頚部リンパ節後発転移
治療経過:腫瘍切除術及び再建術、術後照射
胃瘻造設に至った理由:・放射線照射により引き起こされた口腔及び咽頭粘膜炎による疼痛

症例3:患者72歳、女性  臨床診断:右舌扁平上皮癌(T3N2bM0)
治療経過:術前化学療法、根治的腫瘍切除術
胃瘻造設に至った理由:・腹直筋皮弁の萎縮に伴う経口摂取障害

 3症例とも、良好な栄養管理をしえたので報告した。

多型低悪性度腺癌についての症例検討

       鎌田孝広、栗田 浩、大塚明子、小林啓一、倉科憲治

 多形低悪性度腺癌は近年認知された、予後の良い腺癌で、小唾液腺とくに口蓋に好発するとされている。組織学的には腺様嚢胞癌、多形性腺腫と類似しているため、以前は大多数が腺様嚢胞癌、多形性腺腫と診断されることが多かったと思われる。今回我々は、唾液腺悪性腫瘍の病理組織標本を再検討し、多形低悪性度腺癌の頻度を把握し、その特徴を明らかにすることを目的とし本研究を行った。
 対象は1985~2000年の16年間に当科にて入院加療を行った唾液腺悪性腫瘍23例で、方法は1991年のWHO分類に基づき、全症例の病理組織標本を再検討した。また結果は次項に示すが、腺様嚢胞癌と多形低悪性度腺癌の1年齢2性別3原発部位4TNM分類5発育速度6疼痛の有無7周囲との境界(画像)8治療法9経過について比較検討した。
 結果は腺様嚢胞癌と診断された11例中2例が多形低悪性度腺癌と考えられたが、今回の検討では、その他の癌腫では検討前と検討後の診断に変わりなかった。また、初めから多形低悪性度腺癌とされた1例は、今回の検討でも変わらず、都合23例中3例が多形低悪性度腺癌であり、腺様嚢胞癌のみに多形低悪性度腺癌がみとめられたことと、病理組織学的に腺様嚢胞癌と区別が付きにくい点を考慮し、多形低悪性度腺癌と腺様嚢胞癌を比較した。その結果、多形低悪性度腺癌の経過は全ての症例で良好であった。臨床像については症例数も少ないため、多形低悪性度腺癌の特徴的な所見は明らかでなく、今後さらに検討を重ねていく必要があると思われた。


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Department of Dentistry and Oral Sirgery, Shinshu Univbersity School of Medicine