教室の研究状況
信州大学医学部歯科口腔外科

学会報告

第17回日本口腔腫瘍学会総会

口腔癌手術後の摂食能に関する臨床的検討〜軟組織再建方法による比較〜

      大塚明子、栗田 浩、今井恭一郎、馬場浩雄、小林啓一、峯村俊一、田中廣一、倉科憲治

 近年、口腔癌の治療においても治療成績の向上とともにQOLの向上が求められており、口腔機能に関してさまざまな検討がなされてきているが、摂食能に関して、治療方法等との関連は明らかではない。そこで今回われわれは摂食能を年齢、stage、切除範囲、再建方法により比較検討した。
 対象は1982年4月〜1996年12月に舌、口底、下顎悪性腫瘍切除術、大型皮弁による即時再建術を施行した53症例である。評価方法は術前および退院時にどのような食事を摂取していたかを調査し、主食、副食それぞれ5段階に分類、術前と退院時の食物形態の変化により−4点から4点の点数を付けその平均点数を症例ごとのスコアーとした。
 全症例の平均スコアー-1.04±1.11であった。年齢別では41〜50歳のスコアーが低く、stage別ではstage。、「のスコアーが低下していた。頚部郭清の範囲別では患側全頚部郭清術、健側保存的郭清術施行例、下顎および舌の切除範囲別ではそれぞれ区域切除症例、および部分切除、亜全摘出術、全摘出術症例のスコアーが低下していた。再建皮弁別ではD-P皮弁、遊離前腕皮弁のスコアーが高く、広背筋皮弁、遊離腹直筋皮弁のスコアーは低下していた。切除範囲と再建皮弁の関連では舌非切除症例、部分切除症例は遊離前腕皮弁のスコアーが高く、可動部亜全摘では大胸筋皮弁のスコアーが高かった。

上顎洞に発生した髄外性形質細胞腫の1例

       今井恭一郎、小林啓一、大塚明子、栗田 浩、田中廣一、倉科憲治、峯村俊一

 形質細胞腫はB細胞系の形質細胞に由来する腫瘍であり、このうち髄外性形質細胞腫は形質細胞腫の約4〜5%を占めるのみで希な疾患である。今回我々は、上顎洞に原発した髄外性形質細胞腫を経験したので報告する。

【症 例】66歳、男性

【主 訴】右頬部の腫脹と疼痛

【現病歴】初診1か月前、右頬部の腫脹と疼痛を認め、近歯科医院受診。薬物療法にて症状軽減する。4日後、右上5自然脱落。1週間後、同歯科医院にて右上4抜歯を行うも治癒不全が認められ、再掻爬するも症状軽減しないため当科受診。

【既往歴】胃潰瘍、高血圧症

【家族歴】特記事項なし

【現 症】

◆全身所見:身長150B、体重52L

◆口腔外所見:右頬部腫脹及び圧痛著明。所 属リンパ節に腫脹を認めない。

◆口腔内所見:右上45部歯肉に境界明瞭、 表面 平滑、弾性軟で暗赤色、易出血性  のmassを認める。

◆画像所見:CTにおいて右上顎洞に上顎骨 前壁、後壁、内側壁すべてに骨破壊を伴う large massを認め、上方は眼窩内へ の侵入を認める。骨シンチ、Gaシンチで 右上顎部に異常集積を認める以外異常所見 を認めない。

◆臨床検査所見:蛋白免疫電気泳動、免疫グ ロブリン分画、骨髄穿刺等異常所見を認め ない。 

【処置及び経過】

 右上顎悪性腫瘍の臨床診断より1998年6月1日入院。全身検索及び生検より髄外性形質細胞腫と診断した。6月16日より7月21日まで術前外照射(2Gy/day、Total50Gy)後、7月27日右上顎洞開洞術を行い、8月20日右上顎骨拡大全摘出術を施行した。術後経過良好で、再発、転移、多発性骨髄腫への移行を認めない。

 

口腔癌に対する術前治療としてのCDDP少量連日投与・放射線併用療法と放射線単独照射の効果の比較 2、局所制御率、転移抑制効果、生存率への影響について

栗田 浩、大塚明子、小林啓一、田中廣一、倉科憲治、田村 稔

 Cisplatin(CDDP)は、放射線の増感作用を持ち、放射線治療の併用薬として用いられている。われわれは口腔癌にCDDP少量連日投与を併用した術前放射線治療において口腔癌原発巣における放射線照射の抗腫瘍効果の増強が得られることを報告した(癌の臨床43:734-738、1997)。今回はそれら症例の追跡調査を行い、局所制御率、転移抑制効果、生存率への影響について検討を行ったので報告する。

 対象は1992〜1996年の5年間に術前放射線治療→予定根治手術を計画したStage〜「の口腔扁平上皮癌新鮮例(CDDP併用群、放射線術前単独照射群、各10例)である。1993年以降術前治療にはCDDPの併用を基本方針としているが、単独群は種々の理由から抗腫瘍薬の併用を断念した症例である。

 放射線治療は術前30〜40Gyを目標に、1日1回2Gyで週5回施行した。CDDP併用群では原則として照射終了後30分以内にCDDP5mg/bodyまたは5mg/m2をone shotで静注した。その後、術前治療終了約2週間後に予定した根治手術を施行した。術後必要により、adjuvant chemotherapyまたは術後放射線治療が一部の症例で行われた。

 追跡期間(1998年9月20日現在)は最短9ヶ月、最長55カ月、中央値25カ月であった。

 【結果】原発巣の再発は両群ともに1例づつ認めた。照射野内での頚部再発および後発転移は両群ともに2例であった。照射野外(反対側)への頚部転移は、併用群で1例、単独群で2例であった。遠隔転移は併用群で1例、単独群で2例であった。生存率では両群間に有意な差は認めなかった。

 以上の結果より現時点で、CDDP併用による局所制御率、転移抑制効果、生存率の向上は見られていない。

累積生存率

 


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