教室の研究状況
信州大学医学部歯科口腔外科

学会報告

第14回日本顎関節学会学会総会
(2001年7月26-27日 神戸市)

生下時よりクリッキングを認めた3症例

大塚明子、栗田 浩、酒井洋徳、上原 忍、小塚一芳、倉科憲治

 顎関節雑音は、一般成人で20〜30%、小児では7〜50%と報告されているが、乳児における顎関節雑音の報告は極めて少ない。今回われわれは生下時から顎関節雑音を認めた3症例を経験したので報告した。

 症例1 生後5日、女性。主訴:両側顎関節雑音。現病歴:H12年5月4日出生後より哺乳時に顎関節雑音があることに母親が気づき5月9日当科初診。家族歴:特記事項なし。既往歴:出生時より無呼吸症候群。現症:全身所見;生下時体重2600g。哺乳障害は認めず。口腔外所見;顔貌は左右対称で形態異常は認めず。哺乳時両側顎関節にクリッキングを認める。処置及び経過:哺乳状態良好であったため経過観察し、6月20日再診時、クリッキングは消失。症例2 生後23日、男性。現病歴:生後3日目、母乳開始した際右側顎関節の雑音に気付く。当初母乳の哺乳困難であったため当科初診。現症:開閉口時右側顎関節にクリッキングを認める。処置および経過:初診時、哺乳困難なく、他の異常も認めないため経過観察とした。症例3 生後3ヶ月、ペルー人女性。現病歴:出生直後より下顎を動かした際の顎関節雑音に母親が気づき、症状続くため当科初診。口腔外所見:両側顎関節にクリッキングを認める。処置及び経過:経過観察のみ。

 乳児における顎関節雑音は多くの場合疼痛等を伴わず経過観察のみ行われているが、原因、病態、経過等不明な点が多く、今後も長期にわたり経過観察が必要であると思われた。

顎関節内障に伴う下顎頭の形態変化−下顎頭長軸角の変化−

○栗田 浩,大塚明子,小嶋由子,上原 忍,倉科憲治

顎関節内障の進行に伴い顎関節構成硬組織にも何らかの形態変化が生じていると考えられる。今回われわれは水平断面像における下顎頭の形態変化に注目し、下顎頭長軸角と関節円板前方転位、および、下顎頭外側極後上方隅角部の吸収との関連を検討し報告した。
対象:1994〜2000 年までに顎関節症の診断で顎関節のMR撮影を行った患者のうち、資料の整った133 例213関節。
方法:顎関節のMR水平断面像において、Westessonらの方法に準じ下顎頭長軸角を計測。また、MR矢状断画像上にて顎関節円板の転位状態および転位の程度を評価した。下顎頭外側極後上方隅角部の吸収の有無は、眼窩-関節頭方向単純X線写真上で評価した。
結果:@円板転位の状態と下顎頭長軸角との間に統計学的に有意な関連が見られた。すなわち、非復位性の円板転位を持つ関節では、復位性の転位を持つ関節より下顎頭長軸角は有意に大きかった(Scheffeユs f-test, P<0.05)。A下顎頭長軸角と円板転位の程度との関連は見られなかった。B下顎頭外側極後上方隅角部の吸収がある関節では無い関節より有意に下顎頭長軸角が大きかった(Studentユs t-test, P<0.05)。
まとめ:非復位性の円板転位を持つ関節では下顎頭長軸角は大きいと考えられた。また、下顎頭外側極後上方隅角部の吸収と下顎頭長軸角の変化とは関連があると思われた。

顎関節症患者の自覚痛と圧痛の関連

○ 小嶋由子、栗田浩、上原忍、大塚明子、倉科憲治

 顎関節部の痛みの指標として自覚痛と圧痛がよく用いられている。それぞれ痛みに関与している神経機構は異なると考えられ、また、正確には検査している部位も異なっていることから、それぞれ顎関節の痛みの異なった面を反映していると思われる。しかし、これまで臨床的に両者の関連について検討した報告はほとんど見られない。そこで今回我々は顎関節症患者において、患者の自覚痛と圧痛計を用いて検査した顎関節部の圧痛閾値との関連について検討したのでその概要を報告した。
対象:1999〜2000年に当科を受診した顎関節症患者のうち、片側症例で検討資料の整った49名(男性12名、女性37名、平均年齢33.0±18.5歳)。
方法:初診時の問診にて顎関節部に関する疼痛をVisual Analogue Scale(以下VAS)を用いて評価した。また、顎関節部の圧痛はデジタル圧痛計(新光電子社製、NPA-1)にて下顎頭外側極付近の疼痛閾値を検査した。
結果:VASによって評価した自覚痛と、圧痛閾値の値には統計学的に有意な相関がみられなかった。自覚痛および圧痛閾値と臨床症状との関係では自覚痛と開口量で有意な負の相関がみられたが、症型間、雑音の有無では相関関係が認められなかった。


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