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信州大学医学部歯科口腔外科

学会報告

第12回 日本顎関節学会総会

顎関節症治療非奏効例と奏効例の比較
     ○大塚明子、栗田 浩、上原 忍、高見澤紳治、張 淳美、今井恭一郎、清水俊英、倉科憲治

 顎関節症の治療成績は30〜90%と報告により様々であるが、残り数十%の症例は症状を有したまま治療を終了している。当科においても治療に苦慮する症例が時折みられ、それらの症例に対する治療に何らかの工夫が必要と思われる。そこで今回われわれは顎関節治療非奏効例について再検討するため、奏効例との比較検討を行ったので報告した。
 1988年1月から1998年12月に当科を受診、治療を行った顎関節症患者413例を対象とし、治療終了時の開口量、疼痛、日常生活の支障の有無、食物摂取状態の4項目から治療効果判定を行った。症例全体の奏効率は82.1%であった。性別、年令は奏効群、非奏効群間に差がみられず、片側性か両側性かついては両側性症例が奏効群11.2%、非奏効群28.4%で非奏効群が危険率1%で有意に多かった。症型分類では型が占める割合が奏効群21.8%、非奏効群6.8%で非奏効群が有意に少なく、「型は奏効群22.7%、非奏効群37.8%で非奏効群が有意に多かった。平均病悩期間、平均治療期間は奏効群がそれぞれ318.7日、122.6日、奏効群が535.7日、165.3日でともに非奏効群が長い傾向であったが統計学的有意差はみられなかった。初診時の平均開口量は奏効群37.7mm、非奏効群34.7mmで非奏効群の開口量が危険率5%で有意に少なかった。Visual Analog Scaleによる疼痛の程度は奏効群42.6、非奏効群40.0で両群間に有意差はみられなかった。治療法別の施行頻度はスプリント療法が奏効群82.6%、非奏効群91.9%で、有意差が認められたが、その他の治療方法では施行頻度に差はみられなかった。スプリント療法を行った症例において、両群間で使用したスプリントの型に差はみられなかった。

手動加圧疼痛計を用いた顎顔面の加圧疼痛閾値の評価
        −正常ボランティアにおける検討−

       高見澤紳治、栗田 浩、大塚明子、今井恭一郎、清水俊英、倉科憲治

 顎顔面領域の圧痛検査は顎関節症の臨床において広く用いられ、手指を用いた圧痛検査は検者間の再現性に乏しく、判定至適基準が存在しないため、客観的評価が困難とされている。そこで疼痛の客観的評価を得るため、加圧疼痛計は数多くの研究者らにより開発検討されている。しかし手動加圧疼痛計の再現性について検討された報告は少なく圧痛検査に有用であるかは不明である。今回われわれは、健常者を対象に手動式加圧疼痛計が顎顔面の加圧疼痛閾値の測定に有用かどうか、検者間の再現性について検討したので報告する、また各部位の加圧疼痛閾値を評価し、基準部位を選択検討したので報告する。[対象と方法]顎顔面領域に自覚的無症状のボランティア30名(男女各15名)とした。手動加圧疼痛計は五十嵐医科工業株式会社・製造の京都疼痛研究所式7型を使用し、皮膚接触面積を1Cにし測定した。測定部位は前額中央部、右側頬骨部、オトガイ正中部の3カ所を基準部位とし、左右の下顎頭外側部、咬筋中央部、側頭筋前部筋束部の計6カ所、合計9カ所とした。検者間の再現性について、3名の検者間に有意差をKruskal-Walisの検定を用い検討した。また測定部位間の相関関係を、Kendallの順位相関を求め基準部位を選択検討した。[結果]全測定部位に検者間の有意差は認められなっかた。各測定部位の加圧疼痛閾値の平均値は、下顎頭外側部、咬筋中央部、側頭筋前部筋束部において左右差がなく、側頭筋は基準部位を除いた他の部位より高値を示した。また基準部位は全ての部位で統計学的に、有意な正の相関関係を認めた。[結論]手動加圧疼痛計は検者間の加圧疼痛閾値の有意差がなく、再現性があると思われた。各部位の加圧疼痛閾値の平均値は1.9〜2.7kgに分布していた。基準部位の選択を試みた結果、右側頬骨部は同側の下顎頭外側部と強い相関があり、基準部位としては他の2つの部位と比較し、ふさわしくないものと思われた。

復位可能な前方転位関節円板と復位不能な転位円板
    −円板転位量の比較−関節内側面と外側面で転位量に差があるか?

       栗田 浩、大塚明子、高見澤紳治、今井恭一郎、清水俊英、倉科憲治

 顎関節円板の前方転位は復位を伴うものと、復位を伴わないものに大別される。一般に、病状の進行とともに復位を伴う状態から復位を伴わない状態に移行すると考えられている。本報告ではMRI画像を用いて、関節円板の位置を計測し、復位を伴うもの、伴わないもので転位量に差が見られるか否か検討した。また、転位量が同程度であれば復位の有無の違いは関節の内側または外側面での転位量の違いが関与しているとの仮説を立て、その検討を行った。
[対象]1991年7月から1998年10月の間に当科を初診し、顎関節症との診断でMRI撮影を行った159例231関節。
[方法]円板位置の計測:閉口時矢状断MRI画像において、関節結節最下点(T)から外耳孔最上点(P)を結ぶ直線TPを引く。線分TPから関節円板後方肥厚部後縁から線分TPに垂線をおろし、その交点をCとする。距離TC、TPを測定し、関節円板の位置を比(TC/TP)として表した。計測は関節頭長径を3等分し関節外側、中央、内側の3つの深さで計測した。対象関節を円板転位の見られない関節、復位を伴う関節、および、復位を伴わない関節の3群に分類し、それぞれの深さで円板の位置の比較を行った。
[結果]全症例を対照にした検討では、復位を伴わない関節円板は全ての深さで復位を伴う円板よりも前方に位置していた。復位を伴う関節、伴わない関節ともに関節内側、外側間で転位量で有意差は認めなかった。転位量が同程度(中等度)の円板のみで比較した

結果では、内・外側で両群間に円板位置の有意差を認めた。
[結語]今回の検討から、円板転位量が軽度〜中等度の関節では、関節内側、外側における転位量の差が復位の有無を左右する因子となっている可能性が示された。

 

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Department of Dentistry and Oral Sirgery, Shinshu Univbersity School of Medicine