教室の研究状況
信州大学医学部歯科口腔外科

学会報告

第11回日本日本有病者歯科医療学会総会
(2002/2/23〜24 鹿児島)

口腔内常在菌(B群β溶連菌)により内因性眼内炎を生じた1例

        ○中塚厚史 小嶋由子 酒井洋徳 栗田 浩 倉科憲治

 眼内炎は感染経路により外因性と内因性に分けられる。外因性は外傷、術後に続発し起炎菌はグラム陽性菌が多く、内因性は血行性細菌感染であり起炎菌はグラム陰性菌と真菌が多いと言われている。今回、我々は重度歯周病により口腔内常在菌であるグラム陽性のB群β溶連菌から内因性眼内炎を生じた1例を経験したので報告する。
 患者は53歳、男性、初診日2001年2月8日、主訴は歯性病巣感染巣の精査依頼。現病歴は眼科初診1カ月前より体重減少を認め、初診1週間前より感冒様症状が出現した。初診前日両眼の視力低下を自覚し、徐々に増悪したため2月5日当院眼科を受診し歯性病巣感染巣の精査のため当科を受診した。初診時水晶体、硝子体、眼底は透見不可で両眼に硝子体混濁を認めた。初診時、体温38℃、白血球17420/m2、CRP 18mg/dl、血糖394mg/dl、HbA1c 11.6%であり高度の炎症反応とコントロール不良の糖尿病を認めた。また口腔内所見では舌に白苔を認め広範囲の歯肉腫脹、発赤を認め動揺度M2〜M3の歯牙が9歯存在した。抗生剤投与前の静脈血培養にてStreptococcus agalactiae(Group B streptococci)が検出され、また口腔内採取物より同菌が検出された。全身検索を行ったところ、肺炎、心内膜炎、肝・腎障害、蜂窩織炎などは否定的で歯周病以外の感染源は認められなかった。
 当院眼科入院後、インスリン導入、抗生剤投与を施行し、当科では原因歯の抜歯が行われた。また両眼に対し手術が施行された。抜歯後白血球、CRP、発熱は改善され、両眼の手術後左眼の視力は0.2まで回復し現在経過観察中である。

急性リンパ性白血病に対する化学療法前の歯科恐怖症患者における全身麻酔下での多数歯歯科治療経験

       ○酒井洋徳、栗田 浩、中塚厚史、小嶋由子、倉科憲治

 今回、急性リンパ性白血病に対する化学療法前に、口腔内に存在する32本の歯牙中、実に31本に対して加療が必要であり、かつ強度の歯科恐怖症であるため、全身麻酔下に集中加療した症例を経験したので報告した。
<症例>
19歳、女性
現病歴:急性リンパ性白血病に対して化学療法施行するにあたり、歯性病巣感染源となり得る歯牙の加療目的に当院内科より紹介受診。歯科恐怖症があり小学生時1度治療経験があるのみ。
現 症:身長147cm、体重47kg、会話時反応が乏しく精神発達遅滞を疑わせる。口腔外所見としては、下顎の劣成長を認める。口腔内所見としては、口腔内清掃状態非常に悪く、全顎に中等度歯肉炎を認める。歯牙の状態は健全歯が1本で、要抜去歯17本、抜随処置が必要な歯牙が14本であった。
経 過:全身麻酔下にて集中治療施行。その後急性リンパ性白血病に対し化学療法施行。現在当院内科入院加療中である。口腔内に新たな歯性感染病巣を認めていない。全身状態が良好となり次第補綴処置等の追加治療を施行していく予定である。
まとめ:今回の症例は、歯科恐怖症の既往があり、また多数歯の治療を短期間に行わなければならなかったため、全身麻酔下での集中歯科治療は有用でありました。治療後、口腔内に新たな病巣などは認めていません。

歯科衛生士に対する歯科診療室における危機管理に関するアンケート調査結果

        ○栗田 浩、酒井洋徳、中塚厚史、小嶋由子、成川純之助、田中廣一、倉科憲治

いわゆる有病者の歯科治療においては、歯科治療中および治療後に現有疾患の悪化や偶発症の発生など治療上の危険が高いとされている。有病者に対して最良かつ安全な歯科医療を供給することは、われわれ歯科医療従事者の責務であり、これら有病者に対して歯科治療を安全に行う上で、各診療室における危機管理体制を整えることは重要である。
 これまでにわれわれは、開業歯科医師を対象に歯科治療中および治療後の偶発症の経験や救急時の医療体制について、郵送によるアンケート調査を実施した。今回は歯科衛生士を対象に同内容の調査を行ったので、その概要を報告する。
 対象:長野県歯科衛生士会主催の感染対策講習会に参加した58名の歯科衛生士。
 方法:会場での配布によるアンケート調査。
 結果:(1)歯科治療中のトラブルの経験は55%が、治療後のトラブルの経験は19%があると回答した。また、内容としてはいわゆる脳貧血用発作が最も多かった。(2)救急時の対処として、自院で対処すると回答したものは31%、救急車の手配が29%、近医へ連絡するとしたものが24%であった。また、救急時に往診してくれる協力医がいると回答した率は57%であった。(3)救急薬剤の常備率は76%、酸素吸入装置の常備率は72%、血管確保器具の常備率は69%であった。しかし、約1/3の歯科衛生士はそれらの使用経験がないと回答した。(4)患者監視装置として、血圧計はほぼ全員が常備していると回答し、心電図、サチュレーションモニターなどは約半数が常備していると回答した。(5)針刺し事故の経験は、47%があると回答した。(6)針刺し事故後の対処法について、19%が「よく知っている」、60%が「少し知っている」と回答した。(7)HBVに対する抗体の保有率は79%であった。


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