教室の研究状況
信州大学医学部歯科口腔外科

学会報告

第10回日本有病者歯科医療総会(横浜市)

肝移植患者における歯科治療ー臨床統計的検討ー
        小嶋由子、栗田 浩、酒井洋徳、田中廣一、倉科憲治

 信州大学医学部付属病院では、第1外科教室において1990年6月より2000年9月までに135例の生体及び脳死肝移植が行われている。今回我々は肝移植患者の歯科治療について臨床統計的検討を行ったので報告した。
 対象は1990年6月から2000年9月までに当科を受診した肝移植患者、男性23名、女性43名の66名で、肝移植患者の48%を占めていた。
 年齢別では10歳未満が36%と最も多く、平均年齢は25.5歳であった。
 全員が当院外科あるいは内科よりの紹介であり、肝移植に至った肝疾患は胆道閉鎖症が最も多かった。
 肝移植日と当科受診日の関係では、術前1ヶ月の紹介が60%、術後では、半年以降の紹介が57%と多かった。歯科受診の理由は、術前では術後の歯性病巣感染予防目的のスクリーニングが70%を占め、術後では、う蝕治療希望、補綴物脱離など多岐にわたっていた。治療内容は術前では病巣感染の原因となる歯の抜歯、保存修復、口腔衛生指導が多く、術後は保存修復、補綴等であった。
 肝移植患者の歯科治療上の注意点として、術前の患者は、一般に出血傾向を有している。また、低アルブミン血症のため、薬物の副作用の増強、毒性の増加がみられる。従って、担当医との連絡を密にし、止血や投薬に対して十分配慮する、歯性病巣感染の原因となる根尖病巣や歯肉炎等をコントロールする事等が必要である。術後は6ヶ月以内に拒絶反応が起きやすく、また免疫抑制剤を投与されているため易感染状態にある。これらを考慮し、術後に歯科治療を開始する時期は半年後からというのが一般的であると考える。

他科の化学療法中に当科を受診した患者の臨床的検討

       栗田 浩、小嶋由子、酒井洋徳、馬場浩雄、田中廣一、倉科憲治

 各種疾患の治療のため、抗腫瘍薬、免疫抑制薬、副腎皮質ステロイド、抗血栓薬などの化学療法が広く用いられている。これら化学療法を受けている患者においては、副作用として易感染性、止血異常、創傷治癒不全などの問題がある。これら患者においては治療前よりのオーラルケアが必要とされる。しかし、実際には治療前よりのオーラルケアが充分行われず、化学療法中に口腔内や歯科的疾患により歯科口腔外科を受診する患者も散見される。そこで今回われわれは、化学療法中に歯牙および口腔内疾患のために当科を受診した患者の現状に関して調査を行ったので報告した。
<対象>1999年4月から12月に当科を初診した外来患者1,320名。
<方法>カルテの記載事項から、化学療法中または開始予定患者の患者数、化学療法の内容、歯科口腔外科的主訴/治療内容、化学療法と当科受診との時間的関係を調査。なお、今回調査対象とした化学療法は、抗腫瘍薬、副腎皮質ステロイド(長期)、免疫抑制薬、抗血栓薬の4種類である。
<結果>
1,当科新来患者のうち、他科化学療法施行中の患者は6.3%、化学療法開始予定の患者は1.7%を占めた。
2,化学療法薬の内訳は、抗腫瘍薬が最も多くほぼ半数を占め、次いで副腎皮質ステロイド、抗血栓薬の順であった。
3,化学療法中に受診した患者の歯科口腔外科的主訴および治療内容は、歯性炎症が最も多く約1/3を占め、次いで歯痛・歯牙う蝕、義歯関連・修復物脱離の順であった。
4,当科受診と次回の化学療法(主に抗腫瘍薬)までの期間は、7日未満の症例が多かった。


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Department of Dentistry and Oral Sirgery, Shinshu Univbersity School of Medicine