血液凝固検査 3・31 武井哲兵
<止血の成り立ち>
1.一次止血の機序
外傷などにより血管が破綻して出血が起こると血管内皮細胞の下にある膠原繊維が露出し、そこに速やかに血小板が粘着する。これをきっかけとして活性化した血小板から生理活性物質が放出され、これにより血小板同士が凝集して血小板血栓が形成される。ここまでの機構を一次止血という。
2.
二次止血の機序
一次止血を補強するように凝固系が作用してフィブリンを形成するまでを二次止血という。それには内因系凝固と外因系凝固がある。最終的には線溶系という過程をたどる。
(内因系凝固)・・・血管内に存在する因子によっておこる凝固反応である。
機序
・血管が損傷して出血が起こると、血液中の第XII因子が血管の内皮細胞下にある
膠原繊維に接触して活性化(XIIa)がおこる。
・ 活性化されたXIIaはXI因子を加水分解し活性化(XIa)する。
・ このXIaはIX因子を加水分解し活性化(IXa)する。この反応にはカルシウムイオン(Ca2+)が必要。
・ IXaは第VIII因子、リン脂質、Ca2+とともに第X因子を加水分解して活性化(Xa)する。
・ Xaは第V因子、リン脂質、Ca2+とともに第II因子(プロトロンビン)に働いて活性化しトロンビン(IIa)となる。
・ トロンビンは血漿中に大量に存在するフィブリノゲンに作用して不安定フィブリンを生成する。
・ 不安定フィブリンは活性化されたXIIIaによって安定化フィブリンとなる。
・ このフィブリンは不溶性のタンパクで線維状に析出して凝血塊を形成する。
(外因系凝固)・・・血管外に存在する組織トロンボプラスチンに由来する凝固反
応である。
機序
・血管が損傷して出血が起こると、血管外の組織液中の組織トロンボプラスチンが
血液中に入り、第VII因子と結合して活性化(VIIa)する。
・VIIaはCa2+の存在下で直接、第X因子を活性化する。その後は内因凝固系と同
様にフィブリンの形成に至る。
(線溶系)・・・血液凝固の結果として出現したフィブリン塊は線溶系のプラス
ミンにより分解される運命にあり、このプラスミンはフィブリン
以外にフィブリノゲンをも分解する働きをもつ。フィブリノゲン
がプラスミンにより分解された場合を一時線溶、フィブリンがプ
ラスミンにより分解された場合を二次線溶という。
<検査の種類>
@ 出血時間
これにより一時止血が正常に行われているかどうかを判断する。
測定法・・・Duke法、Ivy法
Duke法:耳朶をランセットないしメスで穿刺するとともにストップウォッチを始
動させ30秒ごとに血液を濾紙に吸わせ血液が付着しなくなるまで時間
を測定する。基準値(2〜5分)
Ivy法:Duke法の欠点をいくつか改良した測定法で耳朶ではなく比較的血管の分布
が均一な前腕をランセットで穿刺する。また上腕にマンシェットを巻いて
40mmHgの圧をかけて静脈圧および毛細管圧を高め、穿刺の痛みに対
する血管の収縮反応を抑制した方法。基準値(2〜5分)
出血時間の延長する疾患
血小板減少症:ITP、TTP、再生不良性貧血、巨赤芽球性貧血、急性白血病、SLE、
肝硬変、放射線照射、薬物による血小板減少(化学療法など)、
DIC
血小板機能異常:血小板無力症、SLE、多発性骨髄腫、慢性骨髄性白血病、
薬剤(アスピリン、インドメタシンなど)
A APTT、PT
APTT:活性型部分トロンボプラスチン時間のことで内因凝固系のスクリーニング
検査として用いられる。第XII因子やXI因子などを活性化する活性化剤
を被検血漿に加えてフィブリンが析出するまでの時間を測定するものであ
る。基準値(25.5〜39.8秒)
PT:プロトロンビン時間のことで外因凝固系のスクリーニングに用いられる。被検血漿にカルシウムイオンと組織トロンボプラスチンを加えてから、フィブリンが析出してくるまでの時間を測定するものである。基準値(11.5〜15.0秒)
APTTの延長する疾患
血友病A・B、先天性第Xii因子欠乏症、先天性第XI因子欠乏症、肝硬変、
ヘパリン治療中
PTの延長する疾患
先天性第VII因子欠乏症、肝硬変、ワーファリン服用中
APTT、PTともに延長する疾患
先天性無フィブリノゲン血症、先天性異常フィブリノゲン血症、先天性プロトロンビン欠乏症、先天性第V、X因子欠乏症、DIC
B TT(トロンボテスト)
トロンボテストはビタミンK依存性凝固因子である第II、VII、X因子とIX因子の低下をとらえ、経口抗凝血薬(ワーファリン)の治療管理に用いられている。
ワーファリンは肝臓でのビタミンK代謝を阻害し正常な血液凝固活性をもたないPIVKAを生成する。PIVKAは凝固阻害作用をもっておりトロンボテストはこのPIVKAの凝固阻害作用およびビタミンK依存性凝固因子活性の低下を反映するものである。基準値(70〜130%)
*TTが30〜50%あれば止血に問題ないとされている。
低値を示す疾患
ワーファリン服用中、第II、VII、IX、X因子の欠乏症、PIVKAの増加、肝障害
ビタミンK欠乏症
C HPT(ヘパプラスチンテスト)
肝障害によって合成低下が起こる凝固因子(第II、VII、X因子)の総合的な検査法である。凝固因子の阻害作用をもつPIVKAの影響を受けずに凝固因子を反映する。基準値(70〜130%)
低値を示す疾患
血液凝固因子の欠乏、ビタミン欠乏、肝障害
D FIBG(フィブリノゲン)
フィブリノゲンは凝固血栓を形成する中心的な役割を担う以外に、出血の際の血小板凝集、炎症や外傷における創傷治癒に関与している。したがってフィブリノゲン測定は出血傾向のあるときや、血栓形成傾向のあるときのスクリーニング検査として、あるいは創傷治癒遅延のあるときなどに意義がある。
基準値(155〜300mg/dl)
低値を示す疾患
無、低フィブリノゲン血症、重傷肝障害、DIC、大量出血、線溶亢進、血栓症など
高値を示す疾患
炎症、悪性腫瘍、妊娠など
EFDP
FDPはフィブリノゲンやフィブリンがプラスミンにより分解された産物である。
FDPが検出されたということは生体内に線溶系が起こっていたか、もしくは起こっていることを意味する。
基準値(血液 10ug/ml未満)
高値を示す疾患
DIC・多発性塞栓症などの血管内に血栓が形成されたとき、ウロキナーゼの大量投与により血管内にプラスミンが過剰に活性化されてFDPの産生が過剰の場合
F Dダイマー
FDPの増加は線溶が亢進したことを察知できても一時線溶、二次線溶のどちらが亢進しているのか不明である。それについてさらに詳しく測定したものがこれである。安定化したフィブリンが分解されるといくつかの過程を経過して最終的にDダイマーが生成される。したがってこのDダイマーを測定すれば二次線溶亢進の有無がわかることになる。
基準値(血液 0.2〜1.3ug/ml)
高値を示す疾患
FDPと同じ
G AT-III、TAT
凝固の過程で役目を終えたトロンビンは生理的阻害因子であるアンチトロンビンIII(AT-III)と結合してトロンビン・アンチトロンビン複合体(TAT)を形成して不活性化され不必要な凝固、すなわち過凝固状態になるのを調整されている。
AT-IIIは出血傾向のあるときや、血栓形成傾向のあるときの検査として用いられる。特にDICでは抗血栓療法としてヘパリンが用いられるが、AT-IIIが減少してきている状態下ではその治療効果が期待できないため、AT-IIIの補充療法が必要となる。AT-IIIの測定はDICの治療において欠かせない。
TATが検出されたということは、生体内において凝固亢進が起こっているか、起こっていたことを意味する。
血中で生成されるトロンビンは微量で、しかも即座にAT-IIIと複合体を形成するため、トロンビンを直接検出することは困難である。したがってTATの検出が直接検出できないトロンビン形成の間接的証明になる。
基準値(AT-III:70〜130% TAT:0.1〜1.8ng/ml)
AT-IIIが低値を示す疾患
先天性AT-III欠乏症、DIC、肝硬変、肝癌、大手術、重傷感染症、重度の外傷
TATが高値を示す疾患
DIC、重症肝炎、大手術、重症感染症、重度の外傷
(補足)
DIC(播種性血管内凝固症候群)
なんらかの原因により生体内に血液凝固機転が亢進して、末梢血管に広範な血栓の形成を認め、その結果生じる凝固異常に伴う出血性素因をみる一連の症候群をいう。
本症候群を合併してくる基礎疾患としては
感染症、悪性腫瘍、白血病、広範囲の火傷、不適合輸血など
これらの疾患ぎ引き金となり惹起される。
検査所見・・・血小板減少、赤血球の破砕化、出血時間・PT・APTTの延長
フィブリノゲンノの減少、血液凝固因子の減少、AT-IIIの低下、
TATの上昇
治療・・・誘因となる基礎疾患の治療、ヘパリンの使用により血液凝固阻止
新鮮血・血小板の輸血、フィブリノゲンの静注など
参考文献:検査データの読み方、一目でわかる臨床検査、
異常値の出るメカニズム、歯科医のための内科学