遺伝子検査 H16.6.23 武井哲兵
1.遺伝子検査の意義
培養困難な病原微生物の同定検査,抗生物質加療中や感染初期の病原微生物の検出,移行抗体が疑われた際の抗原検出,病原微生物の感染源調査,親子鑑定などの個人識別,さらに白血病・固形腫瘍の遺伝子レベルの病型診断や遺伝病の確定診断など従来の臨床検査では得られなかったさまざまな有用な情報が遺伝子検査により得られることがある.また迅速に結果が得られるので,培養に時間のかかる細菌の検出には威力を発揮する.さらにDNAは保存条件によっては安定しているため,パラフィン切片,凍結生検材料,骨など過去の検体から検査ができる場合がある.
2.主な遺伝子検査(検査については外注でおこなう)
@結核菌群核酸同定検査
結核症の診断には結核菌を検出することが不可欠である。結核菌は一般の細菌に比べて増殖するのが遅く、培地を用いた培養に4〜8週以上を要し、その上に菌の同定を行うためにはさらに数週間以上を必要とし、検査結果の確定までに要する日数の長いのが難点であった。
この検査法は、結核菌内に数千コピー存在する16S rRNAを溶菌処理にて抽出し、これを鋳型として逆転写酵素により一旦2本鎖DNAを合成する。さらにこの2本鎖DNAからRNAポリメラーゼにてRNAを合成させることをよって菌特異的な核酸部分を増幅することにより従来より短時間で検査結果の確定に至る。
AHCV検査
HCVの存在の有無を確認することを目的としており、主にインターフェロン治療により体内のウィルスが消失されたかどうかの情報を得るために実地される検査である。
BHTLV1 検査
HTLV-
I(ヒトT細胞向性ウィルス1型)の検査の目的は,白血病・リンパ腫などの血液疾患や脊髄症を含む種々の病態におけるHTLV-Iの関与の検討や,献血者や妊婦のスクリーニングによるキャリアの発見と輸血や 母子間の感染の予防およびHTLV-Iウイルスの地域的な漫淫度と,その感染経路の解 明のための疫学調査などに用いられる。
CHIV—1検査
HIV-I抗体は、AIDS患者およびキャリアから高率に検出される。感染経路は性交渉、麻薬の回し打ち、輸血、母子感染などである。まずスクリーニング検査を行い、その後、確認検査としてウエスタンブロット法(WB)などの確認試験で最終判定する。確認試験で陽性の場合、HIV感染者と考える。HIV抗体はウイルスに対して中和抗体としての活性が乏しいため、抗体陽性はすなわちHIVの共存状態と考える。もし確認試験で判定保留の場合は数カ月後に再度採血し抗体検査をするか、必要に応じてPCRやHIVの培養・分離を試みる。
DHIV-2検査
HIV-1と極めて類似しており、AIDSを引き起こす病原体である。まだ日本での感染の報告はない。検査の方法についてはHIV-1と同様の手順で行っていく。
E癌の経過観察
癌遺伝子の増大の程度によって予後を推定する。
*PCR法:ノーベル賞をとった遺伝子核酸増幅法の一つ。遺伝子DNAの一部を、ポリメラーゼを使うことにより100万倍にも増幅する。
* WB法:ゲル電気永動によって分子量にしたがい分離したタンパク質を転写膜に写し取り、
さらに転写膜上で抗原抗体反応によって特定のタンパク質を発色させてその存在を
肉眼的に観察する方法。 日本でよく知られているBSE検査でも用いられる。
<遺伝子検査の歯周治療への応用>
歯周病に応用されている遺伝子検査として,細菌検査と宿主の歯周病の感受性検査があげられる.歯周病原性細菌の同定は従来培養法で行われていたが,現在では,DNAプローブやPCR法による遺伝子検査が主流となっている.歯周ポケット細菌をペーパーポイント等で採取したものを検査会社に送付するだけであり,培養法に比べ,迅速簡便でかつローコストである.
宿主の歯周病の感受性の遺伝子検査として,欧米ではIL-1遺伝子型の検査が商業的に実用化している.IL-1は炎症に関与したサイトカインである.これをコードする遺伝子に変異があり,重症の歯周病の患者には変異した遺伝子をもつ人の割合が多いことが知られている.患者の血液あるいは唾液から,遺伝子型が決定できる.商業的な実用化には至っていないが,歯周病の疾患感受性の遺伝子診断に応用できるいくつかの候補遺伝子が研究されている.