細菌検査のすすめ方
H16.6.9
H.Sakai
《細菌検査の意義》
発熱をきたす疾患の中で、抗菌薬が不要であるウイルス感染、膠原病、悪性腫瘍、薬剤熱などの非感染性疾患を鑑別する事。
《感染症に伴う発熱の特徴》
1) 発熱期間:発熱期間が長いほど感染症が原因である可能性が 高いが、長くても1ヶ月以内で改善することが多い。1年以上の発熱で感染症が原因であったのはわずか6%程度である。
2) 発熱程度:感染症による発熱では一般的に40℃以上の発熱は
まれであり、そのような場合は悪性高熱、薬剤熱などについて
の評価が必要である。逆に35.5℃以下の低体温は、重篤な細菌
感染症の指標である。
3) 熱型:細菌感染症では、一般的に日差1℃以上のいわゆる弛張
熱の熱型をとることが多い。37℃以下にならない稽留熱では、
重症感染症の場合もあるが、全身状態の良い場合は薬剤熱な
ども疑う。
4) 発熱時の悪寒戦慄、頻脈、多量の発汗、全身倦怠感などの不随
症状は、感染症の発熱の可能性が高い。(cf:比較的徐脈は
腸チフス、レジオネラ、結核、クラミジア感染症、薬剤熱、β
ブロッカー、洞不全症候群が原因の場合も多い)
《本当に抗菌薬が必要か》
抗菌薬が必要な発熱は細菌感染症のみであり、あたかも解熱剤のごとく抗菌剤を投与するのは慎むべきである。しかし、明らかに感染巣が不明であっても、臨床所見から敗血症的な状態が疑われた場合は検体を採取後、empiric therapyとして抗菌剤投与もやむを得ない。
Cf:敗血症の特徴は、発熱(弛張熱)、顔面皮膚症状、意識障害、頻脈、呼吸数増加、消化器症状、関節症状、など多岐にわたる
《起因菌の検出》
以上の事を前提に細菌感染症であることを証明していく。
1,検体の採取
病歴ならびに臨床所見より、感染巣と考えられる部位より検体
を採取する。対象となる検体は、喀痰、尿、便、膿、髄液、胸水、
腹水、関節液などである。特に喀痰採取の際は口腔内の常在菌が
混ざらないように気管内吸引などを用いる。尿は中間尿かカテー
テルより採取する。
2,塗抹標本の作製
3,染色
4,検鏡
*グラム染色検査の意義*
・ グラム染色は、その染色性(陽性、陰性)および形態(球菌、桿菌)をみることにより起因菌を推定できる。
・ 細菌同定は数日かかるがグラム染色は直ちに起因菌を推定できる。
・ 白血球に貪食されている細菌があれば、それが起因菌である可能性が高い。
・ 培養で同定されにくい嫌気性菌もスメア上では確認可能である。(弱拡大対物×10)
【血液培養】
菌血症、敗血症を疑うような高熱あるいは低体温、悪寒戦慄、低血圧、頻脈、白血球増多、説明のつかない顆粒球減少症、突然変調をきたした老人や腎不全患者や糖尿病患者、免疫抑制剤使用者などの発熱、変調は血液培養の適応とされている。
*血液培養の意義*
・ 菌血症、敗血症の診断のゴールドスタンダード
・ 血液以外の検体が得にくい感染症の診断(cf:感染性心内膜炎、化膿性骨髄炎)
・ 検出菌から感染臓器の予想ができる(cf:緑色連鎖球菌の反復検出マ亜急性心内膜炎
・ 感染の規模、重症度の予想が立ちやすい
[採取のタイミング]
発熱や悪寒が発生する1~2時間前に血液中の菌量は最大になっているといわれている。実際にはその症状をみたらできるだけ早く採取することである。最も大切なことは抗菌薬投与前に行うことである。
[採取する血液量]
一般的に血液培養ボトル液に対して1:5から1:10がすすめられている。50mlの血培ボトルには5~10mlの血液量が適している。成人菌血症における血液中の細菌数は1~10cfu/mlと少量のため1回採取量は最低10mlとしたほうが良い。
[採取セット数]
コンタミネーションを考慮にいれ最低2セットの採取が原則。採血間隔は最低15~20分間隔
[コンタミネーション]
コンタミネーションは臨床判断を非常に混乱させる。血培を行う場合は細心の注意を払う。
@ 酒精綿、10%イソジンにて皮膚消毒。乾燥後採血。
A 滅菌手袋の着用
B ボトルの注入口の酒精綿での消毒(可能ならば注入部と針先を火炎滅菌)
C 尚、動脈、静脈で陽性率は変わらないので採血は痛くないほうで
参考文献:medicina vol.36 no1 1999-1 P6-17