顔面神経麻痺

顔面神経麻痺に対する手術
 顔面神経麻痺は顔の表情を作る表情筋が何らかの理由で麻痺し、顔の片側の表情が作れなくなった状態です。①眉毛が下がって眼が開けられない、②下まぶたが下がって眼が閉じられない、③口角に力が入らず笑顔を作れない、食事が口から漏れる、④口元が歪む、といった症状で日常生活に不自由が生じます。原因にはウイルスによるもの(ラムゼイ・ハント症候群)、耳下腺腫瘍や一部の脳腫瘍によって起きるもの、外傷(けが)によって起きるもの、原因を特定できないもの(ベル麻痺)があります。薬物療法やリハビリテーションを行っても表情筋の動きに回復の見込みが低い場合や、腫瘍の摘出や外傷によって顔面神経が切れてしまった場合に、手術による治療の対象になります。

 顔面神経麻痺は発症後1年を境に、急性麻痺と陳旧性麻痺に分かれ、時期によって手術方法が大きく異なります。急性期には表情筋の動きが回復する見込みがあるため、①神経縫合(切れた神経自体をつなぐ)、②神経移植(長さが足りないため他の部位から神経を移植する)、③神経移行(顔面神経以外の神経を表情筋につないで動かす)、を行って表情筋自体の動きの回復を目指します。

 一方、陳旧性麻痺の場合は表情筋が萎縮(いしゅく)してしまって、回復不可能な状態にあるので、次のいずれかの方法で日常生活を不自由にしている症状(眼が閉じられず角膜に傷が付く、笑顔を作れない、など)を治療します。1つ目は「静的再建術」といって、ずれた眉毛や下眼瞼、口角の位置を元に戻して固定する方法です。比較的小さな手術で済みますが、効果が弱い場合や、表情の自然さが劣る場合があります。眼の開き具合を調整するために、麻痺とは反対側の上まぶたに手術を行う場合もあります。2つ目の「動的再建術」は①筋肉移行術(側頭筋という咬むための筋肉)や、②筋肉移植術(広背筋という背中の筋肉)を行って、自分の意志で眼を閉じたり口角を上げたりできるようにする方法です。大きな手術ですが効果が高く、より自然な表情を作れるようになります。術後にリハビリテーションを行って、移動した筋肉を上手に動かせるように練習します。

 信州大学形成外科では麻痺の原因、発症時期、症状の種類、麻痺の程度、本人の希望などを考慮して、上記の術式を組み合わせて、最適と考えられる治療法を選択します。顔面神経麻痺に対して手術による治療を希望する方は、耳鼻科、脳神経外科、神経内科、リハビリテーション科などの主治医に相談し、診療情報提供書(紹介状)を持参の上、受診して下さい。


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