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中石 斉孝 先生(経済産業省 大臣官房審議官)の講義が行われました

中石 斉孝 先生(経済産業省 大臣官房審議官)の講義が行われました

2018. 04.18

  • 現代産業論

 平成30年4月18日、平成30年度現代産業論 (産業論特論) 第1回の講義として、経済産業省 大臣官房審議官(経済産業政策局担当) 中石 斉孝氏から「第4次産業革命と人材・働き方改革」と題して講義が行われました。

 まず、日本の現状として、これまでアベノミクスの成長戦略(大規模な規制改革等)を推し進めたことにより、農業輸出額や雇用面は大幅に増加、企業収益は過去最高に上るなど成果を上げてきた反面、国内投資や消費は力強さを欠き、先進国共通の課題のほか少子高齢化や人口減少など、日本の中期的課題が山積していると述べられました。
 この講義では、こうした「崖っぷち」にある日本の現状を明らかにするとともに、今後の企業や人材開発がどうあるべきかを話していただくと述べられ、講義が始まりました。

 日本の総人口は2010年頃を境に減少に転じており、中でも生産年齢人口が急速に減少する一方、高齢人口は増加していきます。そうした中、労働生産性(GDP/就業者数)は一貫して低い状況で推移しており、日本経済の成長を維持・拡大させるには労働生産性の増加が最重要です。労働生産性は、資本装備率とTFP(人材の質やイノベーション)に分解できますが、現状の日本では、設備投資が伸び悩んで設備の老朽化が進む一方、研究開発費や教育訓練費も伸び悩んでいます。こうした状況を踏まえ、生産性革命・成長好循環を実現するため、「労働生産性年2%成長→賃金年3%上昇(→消費拡大)→設備投資2020年までに10%増→労働生産性2%成長→...」の循環をマクロ目標として挙げられました。

 次に、企業経営の面から、欧米企業と比較すると日本企業は収益性が低く、その一因として低収益セグメントを抱えこむ傾向にあることを示され、解決策としてM&Aの活用により新陳代謝を促進する必要性を述べられました。また、コーポレートガバナンス改革のこれまでの成果についてお話いただいた上で、現在は「報告書の洪水」が起こっており、企業内部で多大な事務コストを消耗しているため、今後は総合的な開示の充実と長期投資の促進が不可欠であると述べられました。企業経営の課題として、人的資本の形成のため、女性・外国人を含め、多様な人材が活用されるダイバーシティの確保が重要であると示されました。

 また、世界各国では、IoT、ビッグデータ、AI、ロボット、シェアリング等を基礎とする第4次産業革命が進展しており、革新的な技術や新しいビジネスモデルを自国に引き込む国際競争が激化しています。日本も早急に対応しなければ、新たな技術の社会実装に後れをとるとともに、国内の有望な技術・人材を流出する可能性が高く、規制のサンドボックス制度など、新技術・ビジネスモデルの迅速な社会的実証の支援環境を整備することが不可欠である旨を示されました。

 第4次産業革命に対応するためには、新たな時代が求める人材の育成が不可欠です。先端IT人材(ビッグデータ、IoT、人工知能に携わる人材)は2020年に約4.8万人と大きく不足することが見込まれており、対応策としてIoT人材育成のための教育の拡充が図られています。こうした中で、日本の大学においては、欧米では通用しない「文系・理系」の分断が固定化していること、高学歴化(修士・博士)を忌避する考えが広まっていること等に懸念を示されました。反面、人工知能では代替されない職業(例えば創造性、協調性が必要な業務等)も数多くあり、今後の社会においては、専門職比率を高めることが労働生産性の向上につながること、具体的には、グローバル人材として活躍するための英語力の向上と、理工系の高度人材育成が特に重要であると述べられました。また、今後求められる人材像として、全ての年代が「社会人基礎力」(大量の情報の中から解決策を導き、多様な人々と協働する力)と「リカレント」(キャリア途中での学び直し)の必要性を意識すべきだと話されました。

 第4次産業革命や企業経営改革が進む中、従来の日本型雇用システムの前提であった「勤務時間による管理」、「年功序列」、「総合職」、「終身雇用」といった前提(一斉・横並び・徒弟・相互拘束)は崩れつつあり、企業のメンバーシップでなく「ジョブ型」、終身雇用でなく「キャリアパス型」、勤務時間でなく「成果主義・自己管理の労務」、OJTでなく「リカレント教育」の雇用システム(個人・成果・社会ベース)へと大きく変容しつつあります。これに対応して、2017年12月策定の新しい「経済政策パッケージ」の人づくり革命部分においては、幼児教育や高等教育の無償化等に加え、今夏に向けた検討継続事項として、リカレント教育の抜本的拡充や大学改革等が挙げられている旨、御紹介いただきました。
 
 最後に、人生100年時代の中、生涯を通じた高付加価値労働の実現が必要であること、そのためには個人が組織にとらわれず自分の生き方を考え、社外活動を含め、幅広い選択肢を視野に入れてキャリア開発をすることの重要性を強調されました。
政府担当部署の幹部による講義に、これから社会で活躍が期待される学生たちは熱心に耳を傾け、大変有意義な授業となりました

  • 経済産業省 大臣官房審議官 中石斉孝氏
  • 講義風景

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