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やまだ けんぞう

山田 健三

日本語学 教授

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学部長室から

【学部長室から】「幽体離脱」のススメ

(2016-04-04 大学院入学ガイダンス研究科長挨拶より)

クロード・レヴィ=ストロース『野生の思考』

 研究科長のヤマダです。一言ご挨拶申し上げます。
 28,480日。人生80年として日数換算した数字です。人生は思いの外短いということを、この数字は教えてくれ、一日一日、一瞬一瞬を大事にしなくては、と思わせてくれる数字です。
 しかし一方で、人生は短いようで長くもあります。それは、常に前世代・次世代にもつながっているからでしょう。父母が語ってくれる青春時代の話は、自分の世代の現実と違っていますが、そこに歴史的断絶があったはずはありません。今の社会、今の時代は、前世代の遺産をベースに創り上げられていくものです。大きな変革・改革というのは、前世代までに創り上げて来た価値観・思想を急激に否定し破壊してしまうことが少なくありませんが、それでも、継承されるものはあります。
 大学院に進学された皆さんは、それぞれの研究領域で更に学びたい、究めたいテーマをお持ちかと思います。学部での卒業論文の成果を更に進めたい、という方もいるでしょうし、新たなテーマで修士論文に臨みたいという方もいるでしょう。修士課程は2年ということになっています。日数換算するとたった730日です(実際にはそれより短いのですが)。皆さん自身が充分満足できる修士論文を執筆し、それが厳しい審査に合格するために使える日数としては、とても頼りない数字です。長期履修制度を使用される社会人の方の場合、日数は最大1,460日に増えましょうが、勉学に使える時間数で考えると、おそらくさほど変わらないでしょう。
 しかし、このたったの730日。ゼロから独力で何とかしなくてはならないとしたら、極めて心許ない。しかし、そこが歴史の、遺産のありがたいところです。先学や先達が切り開いてくれた道が、どのような分野でも皆さんの前にはあるはず。それは心強いナビゲーターでもあります。この730日がグンと長く感じられます。しかしその切り開かれている道をなぞるだけでは、価値ある研究にはなりません。誰かが開発した研究方法をアダプトしただけのものを研究論文と称する人もありますが、およそ褒められたものではありません。そもそも切り開かれた道がゴールに達しているのであれば、もう道を切り開く必要はないので、研究はそこで終わっています。その同じ道を皆さんが辿って同じゴールに着いても、意味はありません。勉強にはなりますけど。
 皆さんが前に進もうとしている道、進まなければならない道は、途中までは先達さんが連れて行ってくれるでしょう。ありがたいことです。しかし、皆さんが目指しているゴールは、まだ誰も辿りついていないはずの場所で、もう先達さんはいませんし、そこは獣道さえない鬱蒼とした草叢だったり、大きな岩壁が立ちはだかるところであったりするわけです。頑張ってもがいてみても、時には、絶望感や孤独感に悩まされることもあるでしょう。そんな時には、肩の力を抜き気分転換をして、リフレッシュしてください。もがく→リフレッシュ→もがく→リフレッシュ。私の経験を振り返ると、この繰り返しが、少しずつ自分をゴールに連れて行ってくれた気がします。リフレッシュするためには、もがかなくてはなりませんし、もがくためにはリフレッシュが必要です。で、問題はリフレッシュの中身です。どんなリフレッシュが効果的なのか、ということです。息抜きのために趣味に興じることはもちろん大事ですが、それ以外に私がオススメするのは、次の2つです。
 一つは研究分野全体に視野を拡げてみることです。研究会や学会に積極的に参加してみること。信州は自然と文化に恵まれたとてもよい土地柄で、特に松本市は三ガク都(岳都・楽都・学都)を標榜していますが、同規模の他大学がないので、松本での研究会は必ずしも多くありません。しかし、松本は幸い、東京圏からも、名古屋圏からもさほど遠くないので、その気になれば、日帰り参加することはできます。
 もう一つは、他の研究分野を覗いてみることです。全く関係のないと思われる分野の思考方法が、大きなヒントをくれることがあります。研究者は、ある研究分野に精通しなくてはならない、という意味でオタク的に思われがちです。もちろんオタク的側面は必要です。しかし、前人未踏のゴールに辿りつくためには、皆さん自身が自分のしている研究を俯瞰するような視点に立つことが時には必要だと思います。一般にはこれを「客観視」というんですが、言うのは易いがなかなか渦中にいる自分を離れて眺めることなど、幽体離脱でもしないかぎり難しいものです。
 ところが、これ、他分野の研究を覗いてみると、比較的容易く「幽体離脱」できます。詳しい専門書より概説書・新書程度でいいでしょうし、何よりも同期や先輩の院生と駄弁り合うだけでも、時にいい刺激があるかもしれません。
 以上の2つが私の奨めるリフレッシュ法です。「いや、そんなのでは全然リフレッシュされない!」と思われる方もいるかもしれませんが、大学院に進学された皆さんは、楽しみとしての研究を知っているはずです。「勉強」ということばにまとわりつく、ある種の苦行的ニュアンスから脱して、真実に迫ろうとすることの楽しさを、ある程度感得されたはずです。そういった知的な楽しさは、皆さんが現在立ち向かおうとしている研究分野だけでなく、他にもゴロゴロしているはずです。皆さんはそれを拾い集めておけばよいのです。
 文化人類学者クロード・レヴィ=ストロースは、『野生の思考』の中で、古くから人類が持っていた「知的営み」の一つを「ブリコラージュ」と名付けました。本来の用途とは関係のないものをいろいろ集めて置いて、それらを組み合わせて必要に応じて組み立てる。そういったブリコラージュができる人を、ブリコルールと呼びます。
 皆さんが優れたブリコルールとして未開の研究分野を開拓していってほしいと願っています。期待を込めて、皆さんの大学院進学を寿ぎたいと思います。おめでとう。

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