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つじ りゅうへい

辻 竜平

 教授

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3.研究活動

「中学生の人間関係の認知・評価と一般的信頼」

久しぶりに『理論と方法』に論文が掲載されました.タイトルは「中学生の人間関係の認知・評価と一般的信頼」です.また,実際には,2008年初頭にはデータは揃っていたのですが,諸事情から執筆まで時間がかかってしまい,ようやく出せたという感じがします.調査に協力していただいた中学校にもこれで何とかフィードバックをすることができるようになったので,ほっとしています.

この論文は,中学生の一般的信頼が,中学生の持つさまざまな人間関係のうちどのような関係から生成されてきているのかを明らかにすることが課題でした.
なぜ中学生かですが,すでに成人の一般的信頼にかんする研究はいくつも行われており,だいたい一貫した傾向を語ることができるようになってきたので,今度はその発達段階の途中である中学生に焦点を当て,その年代の人々が成人と同様の傾向を持っているかを明らかにしたかったというわけです.
成人については,一般的信頼の形成のされ方が,都市部と村落部で異なることがわれわれの一連の研究でわかってきています(もっとも包括的なものとしては,稲垣(2009)があります).簡単に述べれば,都市部では,山岸(1998)が示したような「信頼の解き放ち理論」的な過程から形成され,村落部では,山岸が否定している「還元アプローチ」的な過程から形成されているというものです.
つまり,今回の中学生の研究でも,都市部と村落部で成人と同様の傾向が出るかどうかを検討しようとしたわけです.

ところが,結果は都市部の中学校でも村落部の中学校でも「還元アプローチ」的な過程から形成されていることを示唆する結果が出たのです.ここからわれわれは,成人して社会のさまざまなことがらが自分と直接・間接に関係があることが実感されてはじめて,「信頼の解き放ち理論」的な過程で一般的信頼が再構築されるのではないかと解釈しました.

ところで,この論文の売りは何かというと,上のような知見を得たということの他に,方法を工夫したことにあります.具体的には,「トライアド・テスト」と呼ばれる方法を用いた測定を行ったことです.この方法は,もともと心理学者のケリーが50年代に開発した方法なのですが,社会学ではあまり知られていないようです.私自身は,93年にUC Irvineに留学した直後の学部生向けの授業で,心理人類学者のKim Romneyからこの方法を学びました.いつかこれを使った仕事をしてみたいなと思っていたのですが,ようやく念願が叶いました.ただ,当時に使っていた「トライアド・テスト」用のプログラムは,MS DOS上で動くもので,そろそろ移植するなりなんなりして,現代のプラットフォームで簡単に扱えるような形にしないといけない時期に来ているように思います.

今回の論文は,データ収集から論文執筆までに時間がかかってしまいましたが,書き始めると,意外と簡単にさらっと書けてしまいました.書いていて楽しかったです.
今年は,「経験社会学基礎」という授業で,「トライアド・テスト」やコレスポンデンス分析について教えています.自分で書いた論文をもとに教えられるというのは,いろいろな意味で幸せなことです.最近は雑用に日々追われていますが,1年に1本くらいずつは査読論文をきちんと出していきたいものです.

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印刷ミスについて:
印刷ミスがあることに気づきました.校正の段階では問題なかったのですが,印刷所で問題が生じたようです.すみませんが,以下のように補足をお願いします.
p.36 図1 「スタックしたデータのイメージ」の中で,「×」となっている部分は全て「N×N」,「人分」となっているところは「M人分」としてください.

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