つじ りゅうへい
辻 竜平
教授
教員 BLOG
一覧を見る『中野俣集落誌』が「第6回新潟出版文化賞」優秀賞を受賞.さらに...
去る5月1日,私が中越地震以来何度も調査に入っていた,旧栃尾市(現長岡市)の中野俣地区で出版された『中野俣集落誌』について紹介したが,この本が,このほど「第6回新潟出版文化賞」優秀賞を受賞することになったという報告を受けた.私としても,その末端を汚させていただいたので,とてもうれしい報告であった.
この本の第1章では,地元の住民の方のほぼ全員が,何らかの形で震災の体験を語っている.第2章は「自然と農業」,第3章は「歴史と風俗」,第4章は「伝説・昔話・遊びうた・伝統芸能」,第5章は「災害と政(まつりごと)」,第6章は「地域と学校」,第7章は「後生へ語り継がれる地域の偉人」というような章立てになっている.全部で340ページにも上る大著である.
非売品であるというような(たぶん)マイナスの要因があるにもかかわらず,本書はこのような賞を受賞することとなった.全く素晴らしいという他はない.かの地の人たちが,このような大著をまとめ上げたこと自体が驚きであったが,再びたいへんうれしい報告を受けることができた.震災後,精力的に復旧・復興に取り組まれた住民や,中野俣小学校の先生方の様子をずっと追ってきた私にとっては,まさにあの復旧・復興に向けて注がれた情熱が,このような形で実ったのだと思われ,心にしみるものがある.
さらに,震災後ここ数年,中野俣小学校が取り組んできた,自然環境への取り組み(学校のそばの池に来るカワセミの観察などの取り組み)が「第44回全国野生生物保護実績発表大会」において発表され,環境大臣賞を受賞した.これもまた大きな喜びと大きな驚きである.中野俣の地は,あの悪夢のような中越地震による震災から立ち直っただけでなく,不死鳥のごとくよみがえり,羽ばたいた.
私の分析では,かの地において,児童数わずか20数名ながらも存続している中野俣小学校の存在はあまりにも大きい.あの小学校を幾度となく廃校の危機から守ろうとしてこられた住民の熱意と,小学校の先生方の知恵がうまくブレンドされてこそ,このようなダブル受賞につながったのだと思う.
農村においては,小学校の廃校が当たり前のように行われてきた.しかし,それを守り抜いてきた中野俣地区の人々は,大いに賞賛されるべき賞を授与された.しかも2つも.今,中野俣小学校の取り組みは全国の頂点に立った.単に僻地の農村の小学校が珍しい取り組みをしているということだけで済ませてはならない.農村をいかにして元気にするか.1つのモデルケースがここにはある.もちろん,小学校存続のコストは大きいだろう.しかし,かの地を訪問すれば,かの地の住民の幸福を作り出す場として,小学校が作用している様子をいくらでも見ることができる.これから,中野俣小学校を視察に訪れる人たちも増えるだろう.その中で,全国一律で押し寄せた廃校の波をまぬがれた小学校を見て,本当にうらやましいと率直に思う人も多いと思う.教育関係者,地域活性化に取り組む人など多くの人に対して,中野俣地区と中野俣小学校は,地域と教育との相互作用のあり方について考えるよい機会をきっと与えてくれるはずである.