教員紹介

つじ りゅうへい

辻 竜平

 教授

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2.授業関係

「幸福」ゼミへの思い

 後期に入り,「幸福」ゼミという共通教育の授業が始まりました.経済学部と繊維学部以外の学部から少しずつ人が集まり,十数名というちょうどよい大きさのゼミになりました.
 理科系の学部から学生が来てくれるだろうかと少し心配していましたが,予想をはるかに超えるといってよいほど理科系の学部から学生が集まってくれて,とてもうれしい驚きでした.
 「幸福」について考える学問というと,直感的には倫理学や哲学あたりを思い浮かべる人が多く,ちょっとおませな学生なら経済学あたりを思い浮かべるかもしれません.しかし,日本語のタイトルは「『幸福』」ゼミ」となっていますが,英語のタイトルは,"Seminar on Happiness: Sociological Perspective"となっており,「幸福」について社会学的に考えてみようというゼミです.

 ところで,社会学は,これまで,社会の中であまり「役立つ」ことを重視してきませんでした.どうすれば人々をより幸福にさせることができるのか,といった実践的な研究は,あまり進められてこなかったように思います.なぜそうなったかについて,私の師匠である関西学院大学の髙坂健次先生は,「ミドルマンのすすめ」という論文(2000)で,「ヴェーバーの呪縛」と「マルクスの呪縛」があったからではないかと述べておられます.おそらくそうであったのだろうと感じるところはあります.
 ところが,おそらく阪神・淡路大震災が状況を変えたのではなかったでしょうか.「われわれは,社会を見る方法を考えているだけでよいのか,社会に実践的に関わっていくためにはどうすればよいのか」という思いが,社会学者の中に芽生えたのではないかと思うのです.1999年の関西社会学会で「社会学は役に立つか?」というタイトルのミニ・シンポジウムが開かれ,さらに関西学院大学では,「『人類の幸福に資する社会調査』の研究」というタイトルで21世紀COEプログラムを進めていきました.その拠点リーダーを務めたのが,私の師匠だったのです.
 私自身は,このCOEプログラムと直接関わることはほとんどありませんでした.しかし,師匠の志のようなものは,何となく感じながら遠巻きにそれを眺めてきました.放送大学の教科書として『幸福の社会理論』が出版されたのは,昨年(2008年)のことでした.この本を読んで,大いに刺激を受けました.1つ1つの話は,これまでどこかで聞いたことのある話であると思いましたし,学部生向けの教科書なので,それほど深く踏み込んだ内容にはなっていないように思いますが,全体として伝わってくる精神というものを感じることができる本だと思いました.
 さらに,昨年信大に着任して間もなく,横断型基幹科学技術研究団体連合の「分野横断型科学技術アカデミック・ロードマップ」を策定する委員となり,社会学が役立つか,役立つためにはどのようなことが必要かと考える機会がありました.
 そんな折,共通教育科目(いわゆる教養)の授業担当の依頼がありました.上のアカデミック・ロードマップの委員の先生方は,ほとんどが工学系の方で,何度も合宿を重ねながら,かなり踏み込んだ議論をすることができました.自分の考え方を改めたり,より深化させる機会となりました.そこで,理科系の学生を巻き込んで,『幸福の社会理論』について考えていくことができたら,どんなアウトプットが出せるだろうかと思い,このようなテーマでゼミを持つことになったのです.これまで,理科系の学部学生たちとふれあうことはほとんどなかったので,彼らから学ぶこともあるだろうと期待しているところでもあります.このようなテーマでゼミを開くのは,おそらく今年が最初で最後です.今後このゼミがどのような展開をするのか楽しみです.

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