教員紹介

豊岡 康史

とよおか やすふみ

豊岡 康史

歴史学 准教授

研究分野 中国近世・近代史

現在の研究テーマ


おもに政治・経済・国際関係について検討しています。これまでは、18世紀末から19世紀初頭にかけて、中国南部~ベトナム海域で活動した海賊と、その海賊問題に対処していこうとする清朝のあり方について検討してきました。成果は、豊岡康史『海賊からみた清朝:18-19世紀の南シナ海』(藤原書店、2016年)にまとめてあります。海賊たちの活動、社会経済的は背景とともに、当時の清朝政府が社会問題にどのように取り組んだのか、ときに真面目に、ときに色々なことを誤魔化しながら行政・政治をすすめていったのかを明らかにしてきました。最近では、下記の通り、もう少し大きな枠組みで検討を進めています。

1.清朝政治史


 中国という巨大な国家はどのようにしてその政策を策定し,実施しているのでしょうか。現代では共産党独裁といい、前近代には皇帝独裁であるといわれてきました。しかし「独裁」とは何でしょうか。「独裁」する立場にある人は,なんでも好き勝手に出来るのでしょうか。国家の政策というのは、なにに規定されて決まり動いてゆくのでしょうか。17 世紀から 20 世紀までを視野に入れつつ、清朝という王朝における政策決定過程(特に対外政策)について検討を行っています。

 とくに最近、中心的に取り上げているのが、「嘉慶維新」という政治改革です。1799年初頭、乾隆帝という60年以上の長きに渡って清朝に君臨した皇帝が死んだ直後、息子の嘉慶帝(嘉慶は当時の年号です)は、父親の治世にたいする反省に基づいて、さまざまな政治改革を行います。その中で彼は、「万機親政(すべて皇帝が決める)」をたびたび強調します。皇帝が最初から「独裁」出来る立場であるならば、自分がなんでもやるのだ、なんてわざわざ主張するのはおかしいですよね。なぜこんな事を言いだしたのでしょう。その背景には、政策決定システムにかかわる様々な要素がうごめいています。これらを整理して、当時の政治変動を跡づけるのが、わたしの研究課題のひとつです。

2.清朝経済史


 中国は多くの人口と巨大な経済を抱える大国であり、その東アジアのみならず、世界経済に対する影響力はよく知られています。では、その影響力は昔から一貫して存在してきたものなのでしょうか。じつはついこの間まで、中国経済は、ちょっと貿易赤字が増えるとあっという間に不況に突入する脆弱なものであると自他共に認識されていました。では、その脆弱性はどこからきていたのでしょうか。いまでもあるのでしょうか。米価変動や国際貿易収支などの分析を通じて、長期的な経済構造変動の検討を進めています。

 よく、「〇〇王朝は衰退した」と書かれる歴史の本を見かけます。しかし、「衰退」とはなんでしょうか?上の話題と重なりますが、乾隆帝の時代の清朝は最大の版図を抱え、その勢いはピークに達したとされます。そして、乾隆帝の死とともに、清朝領内では反乱が多発し、さらにアヘン戦争に巻き込まれ、清朝は「衰退」の道をまっしぐらに突き進んだとされます。乾隆帝が死んだのは1799年。清朝が滅びるのは1912年のことです。足掛け114年も衰退し続けたんですね!すごーい!

 このように「衰退」という言葉で、歴史事象を説明してもちっとも意味がないことが分かるでしょう。では、この時期には何があったのでしょうか。当時の物価の記録を並べてみていると、19世紀に入って少ししてから、1850年代まで低落傾向に入っていることがわかります。つまり19世紀前半は確かに景気が悪いのです。これはなぜなのでしょうか。少し知っている人は「アヘン密輸が増えて貿易赤字が増えて、デフレになったからだろう」といいます。でも、アヘン密輸が増えるのは1820年代。物価が低落を始めるのは1810年代なのです。順番がおかしい。このころ、実際には何があったのか解明してゆくのが、わたしの研究課題のひとつです。

 

 

研究から広がる未来と将来の進路

 歴史学は、結果がすでに出ている人間の行動や社会の動きを分析する学問です。東洋史学はアジア諸地域についての理解を深めるものですが,同時に,歴史学という学問手法を通じて,人間社会一般が持つ傾向なども幾分理解できるでしょうし,限りある材料を駆使して,自分の主張に説得力を与えてゆく技術も身につくでしょう。歴史学にかかわる知見は,成熟した社会の構成員に必要な要素のひとつとなっています。

主要学術研究業績

『海賊からみた清朝:十八~十九世紀の南シナ海』(藤原書店 ,2016 年)
  18-19 世紀、中国沿海で活動していた海賊について、彼らの素性という社会経済的な側面のみならず、彼らを討伐しようとする清朝政府、あるいはイギリス、マカオのポルトガル人などがつむぎだす国際関係について分析を加えています(あんまりロマンのない話です)。18・19世紀のマカオの話題を扱った日本語の本はとても珍しいと思っています。
『銀の流通と中国・東南アジア』(共編著,山川出版社,2019 年)
  アヘン戦争前夜、中国は不況に苦しんでいました。そのメカニズムは長らくアヘン密輸に伴って銀流出がおこり、その結果、貨幣としての銀が不足して高騰し、銀デフレに陥ったとされてきましたが、近年、そこに疑義が示されています。では19 世紀前半の中国経済に何が起こったのでしょうか。国際学術会議で交わされた議論を軸に、1世紀を超える清朝経済史研究の成果を総括しています。表紙は銀の元素記号です。

所属学会と学会での活動

史学会、東洋史研究会、社会経済史学会、中国社会文化学会、歴史学研究会、中国文史哲研究会、信大史学会、The Association for Asian Studies (AAS)

経歴

2002 年:千葉大学文学部史学科卒業。
2010 年:東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。
 日本学術振興会特別研究員 PD、東京大学人文社会系研究科研究員、武蔵大学・駒澤大学・筑波大学・法政大学などの非常勤講師を経て、2014 年から現職。

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