教員紹介

おおぐし じゅんじ

大串 潤児

歴史学 教授

教員 BLOG

一覧を見る
ゼミの活動

日本近現代史ゼミ 秋のフィールドワーク2012 社村兵事文書調査

秋の大町へ

伊東昇さん執筆の冊子「高瀬川の電源開発と地域syかい」

 2012年11月9日、恒例の日本近現代史ゼミ秋のフィールドワークを行いました。今年の目的地は大町市。文化財センターを訪問します。訪問の目的は ① 文化財センターに保存されている北安曇郡社(やしろ)村役場「兵事文書」の調査。 ② 伊東昇さん講演「高瀬川の電源開発と地域社会-大町がアルミ発祥の地となったわけ」  の2点です。ここ十数年の日本近現代史研究でもっとも成果が豊富であった分野は「軍隊・戦争と地域社会」というテーマですが、長野県においてもそうした問題を考える基本的な素材の1つとして「旧 社村役場文書」があります。普段、大学にいてはなかなか実感できないいわば「なまの史料」に出逢う機会です。   また、福島原発とも送電線でつながっている大町の電源地域。地域社会の側から東日本大震災を考える試みの1つとして大町の電源開発問題の歴史を講義していただきました。

旧社村役場兵事文書

兵事文書の閲覧

  敗戦時に焼却されてしまったと考えられていた兵事文書(徴兵・動員関係の役場文書)が全国各地で「発見」されるようになりました。その先駆的な仕事が富山県砺波郡旧庄下村兵事文書と元・兵事係(出分重信さん)のインタビューをまとめた黒田俊雄編『村の戦争』(桂書房1988年)で、NHKがドキュメンタリー番組も制作しています(小澤眞人『赤紙』創元社1997年)。その他、東京都東村山市、栃木県真岡市、新潟県上越市などで貴重な兵事文書が確認され、研究は格段に進みました(山本和重「自治体史編纂と軍事史研究--十五年戦争期の町村兵事書類を中心に」『季刊戦争責任研究』第45号、2004年)。   長野県内にも中川村や佐久市にまとまった兵事文書が残っていることが知られています。そんな折り、大町市にも元兵事係の方が大切に保存していた兵事文書があることが確認されました。   この「旧 社村兵事文書」は日常的に大町文化財センターで展示されており、地域の文化祭などでも展示が行われています。またこの兵事文書を用いたドキュメンタリー映画も制作されました(大本営最後の指令 遺された戦時機密資料が語るもの」長尾栄治監督2011年)。 ※旧社村兵事文書についてはリンク先も参照。

史料にふれあうこと

北安日日新聞 「戦線慰問と銃後強調特輯号」

  兵事文書の基本は「動員日誌」や動員関係の発・来翰の綴りなどの日誌・文書記録、「在郷軍人名簿」などの名簿類などですが、そうした文書綴りには軍事関係のみならず様々なものが綴られています。   引揚者の名簿も存在し、韓国から留学生が注目していました。   1945年1月に「補充兵 輜重兵 二等兵」として広島市宇品町に召集された兵士の令状(受領証)が綴られていました。彼の所属部隊は「暁 第六一四〇部隊」。同じ部隊にいた三宅正義さんの被爆体験記が『朝日新聞』「広島・長崎の記憶」(→リンク先)に掲載されています。   「暁 第六一四〇部隊」は陸軍船舶司令部(「暁 二九四〇部隊」)の隷下にあった部隊。戦時編制で「野戦船舶本廠」となっています。そして、広島宇品の「船舶司令部」といえば、丸山眞男が召集されていた部隊です。戦後思想を代表する知識人と、長野県の1庶民の「出逢い」もあったかもしれません。想像力をたくましくすることができるのも、やはり実際に史料を目にしているからこそです。   今回は、『北安日日新聞』「戦線慰問と銃後強調特輯号」1939年を確認しました。1928年に第三種郵便認可にかかるこの新聞、社村で発行されていたようですが、全号見つかると、大町・北安曇郡の戦中戦後が相当明らかになると思います。

大町市と高瀬川

伊東昇さんと記念撮影

  社村兵事文書調査に一区切りをつけ、伊東昇さんから「高瀬川の電源開発と地域社会-大町がアルミ発祥の地となったわけ」と題した講演をいただきました。伊東さんは、大町の自然・地理的特徴から高瀬川の地誌を紹介した後、鉄道敷設・電源開発・アルミニュウム開発の歴史をていねいに論じて下さいました。   明治期における電源開発の歴史、第一次世界大戦の影響(亜鉛工業の盛衰)、新興財閥・森矗昶と大町地域、地域での顕彰のされ方、など興味深い論点を多く提供していただきました。   また、技術者・藤森龍麿に注目し、彼の工場内文化活動(勤労青年教育への情熱)が戦時戦後を通じて昭和電工大町工場の文化運動(ブラスバンドや演劇活動)に大きな影響を与えたことなどおもしろい事例を指摘して下さいました。   福島と送電線で繋がっている高瀬川-大町。地域の中で東日本大震災・福島第1原発事故を考えるよい問題提起になったと思います。   旧社村兵事文書の閲覧については大町市文化財センターの島田さん、御講演いただいた伊東昇さんに御礼申し上げます。いつもフィールドワークの事務方として頑張ってくださる岩渕さんにも御礼を。   ※なお、フィールドワーク終了後、伊東昇さんを囲んでの懇親会を行いました。80歳をこえてもなおお元気な伊東さんといろいろな話しが出来、私も学生も大変な刺激を受けました。大町からのお帰り、皆様お疲れ様でした。

トップページ 教員紹介 大串 潤児 ブログ 日本近現代史ゼミ 秋のフィールドワーク2012 社村兵事文書調査

ページの先頭へもどる