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おおぐし じゅんじ

大串 潤児

歴史学 教授

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日本史を学びたい人びとへの読書案内2012―おおぐし編

歴史学はどういう学問か?

  今年も進級分野を決める時期となりました。人間情報概論で「歴史学とは何か」を学び,「日本史概論」「世界史概論」で,「日本史」「地域史」そして「世界史」の基礎を学んだうえで,さらに勉強を深めて欲しいと思います。   日本近現代史を勉強したいと思っている皆さんには,以下のものをお勧めします。2年生進級前にぜひ一読して下さると嬉しく思います。   まずは,「歴史学とはどういう学問か」を教えてくれる良い本として二宮宏之『マルク・ブロックを読む』(岩波書店、2005年)です。歴史学はどういう学問かということについてはたくさんの本が書かれていますが、1人の歴史家の人生を通して、この問題を考えることも1つの方法だと思います。     マルク・ブロックは、20世紀を代表するフランスの歴史家。農村史や人びとの「心の歴史」(「心性史」)に大きな成果をあげました。また1人の市民としても真摯に生き、ナチスドイツへの抵抗運動(レジスタンス)に参加しいのちを落としています。    「パパ、歴史は何の役にたつの?」という子どもの問いかけにもていねいに答える、そんな歴史家でした(『新版 歴史のための弁明』岩波書店、2004年)。

原点を問いなおす

  次に紹介するのは古関彰一『日本国憲法の誕生』(岩波現代文庫2009年)です。日本国憲法の制定過程を、日本vsアメリカ(占領軍)という枠組み、つまり「国家」を主語として見る見方をさけ、男性や女性、憲法制定過程にかかわった人びとという視点から描いた名著です。   現在のわたしの生活を基本的なところで支えている社会のしくみは日本国憲法に表現されています。また、さまざまな人権侵害に対して、わたしたちは憲法にもとづいてその救済をはかることができます。   また、第9条は世界的にも注目を集めている条項です。   東アジアのなかで日本がどのような道を進むべきか。貧困と格差のなかで人びとはどのように「生きる権利」を主張していくのか。「おとこ」と「おんな」の関係はどのようにあるべきなのか?子どもたちはどのように育っていくのか? 改めて日本国憲法誕生の瞬間に立ち会いながら考えてみるよい本です。   日本とアメリカ占領軍という軸では決して日本国憲法制定の過程は明らかにならない。国をこえた人びとの連携と対抗のなかで日本国憲法はかたちづくられていくのです。

民衆は戦場でどのように出逢うことができるか?

  近現代、20世紀日本の行動を理解するためには、東アジア地域の民衆史に学ぶ必要があると思います。そんな20世紀国際政治=帝国主義の問題と、地域民衆文化史をつなぐよい作品があります。吉澤南『海を渡る〝土兵〟、空を飛ぶ義和団-民衆文化と帝国主義』(青木書店2010年)です。   1900年の東アジアをゆざぶった義和団についての本です。義和団に参加した中国民衆の思想・心情、民衆意識をていねいに分析した重要な本です。   また、義和団鎮圧のために派遣された東アジアに展開する「帝国主義多国籍軍」。その中心が日本軍だったわけですが、多くの帝国主義諸国は植民地民衆を軍事力として動員していました。民衆同士が「敵」として、戦場で出逢わなければならなかったことの重大な意味、そして、そのことの歴史的な意義についての筆者の問題提起は鋭いものです。   20世紀の戦争は「戦争特派員」などを通じて世界性を持つことになります。アフリカで作戦に従事した軍隊が中国に派遣されてきます。その時、どのような偏見や暴力が生まれてしまうのか。吉澤さんの問いは深刻です。   吉澤さんが亡くなってしまったので、未完に終わった作品ですが、彼の以下の著作ともども「日本史」を勉強する人も、ぜひいちどはふれてほしい歴史家の著作です。 ・吉澤南『戦争拡大の構図』青木書店1986年 ・吉澤南『私の中のアジアの戦争』朝日選書1986年(現在、有志舎から復刊) ・吉澤南『個と共同性(わたしとわたしたち) アジアの社会主義』東京大学出版会1987年 ・吉澤南『ベトナム戦争』吉川弘文館1999年

原子力という問題

  福島第1原発事故の意味を歴史学として考えるためにはいくつかの前提があります。第1に、日本の近代がかたちづくってきた地域社会編成の力学です。第2に、15年戦争の1つの帰結としての広島・長崎への原爆投下です。世界はこの時から「原子力」をどのように「利用」するのか、という「問い」を抱えてきました。   荒井信一さんの『原爆投下への道』(東京大学出版会1985年)は原子爆弾はどのように開発され、なぜ日本に投下されることとなったのか。日本の社会は原子力を、また「被爆経験」をどのように受け止めてきたのか。その原点ともなる過程を明らかにしたいまや基本的な文献です。   日本の戦後史は、様々な意味で「原爆投下への道」からスタートしたのです。   

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