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おおぐし じゅんじ

大串 潤児

歴史学 教授

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大町市旧社(やしろ)村兵事文書

2009年7月30日、信濃毎日新聞の記者に案内されて大町市文化財センターを訪れました。目的は、同書に保存されている「大町市旧社村 兵事文書」の調査です。

まずは大町市旧社村地区の集落踏査からスタートします。国宝・仁科神明社で著名な古来からの村落です。途中、忠魂碑(再建)を見学、出征兵士見送りが「ここまで来た」、という村境を越え、大町市街に向かいます。

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旧社村忠魂碑。戦前の揮毫者名は削られ、新しく揮毫者が彫り込まれていた。


旧社村兵事文書の所蔵先は、大町市文化財センターです。既に目録も整備されていて、所長の島田哲男さんにも大変お世話になりました。

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大町市旧社村兵事文書。


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この史料群の本格的分析は後に待つほかはありませんが、私が見たかぎりこの史料群の特徴は、(1)明治期以来の史料群であること、(2)一部欠損 はあるが日中全面戦争期以降の「動員日誌」が残されていること、(3)若干ではあるが、朝鮮人徴兵に関する記録があること、とまとめられましょう。
この史料群は『信濃毎日新聞』2009年1月1日付けがすでに報道をし、山本和重(東海大学・軍事社会史)がコメントを寄せています。

なお、近年、大町市では在野で地域史発掘にとりくんでおられる伊東昇さんらにより戦時期に昭和電工大町工場で労働していた朝鮮人の人びとの歴史が 明らかにされつつあります(『信濃毎日新聞』2008年10月10日)。兵事文書にも、昭和電工大町工場「職工」が動員されていく様が記録されています。 『大町市史』の成果を前提にしても、地域社会から労働力をうばっていくその具体相がこの兵事文書により明らかになり、戦時期大町地域の社会史もまた別の角 度からの検討が求められているといえます。


あわせて旧八坂村兵事文書の一部(未整理)、『動員日誌』を見せて戴きました。

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旧八坂村「動員日誌」。

信濃毎日新聞記者・菊池さんの取材記事は、「戦時動員の残像」1~5(『信濃毎日新聞』2009年8月12日~16日にまとめられました。

近年、各地の兵事文書が記録として発掘され、調査・分析が行われています。黒田俊雄編『』(桂書房1988年)・富山県砺波郡旧庄下村兵事文書の 紹介・分析をかわきりに、『東村山市史』・『上越市史』・『真岡市史』などはその代表的な成果です。長野県内でも佐久市旧平賀村、駒ヶ根市旧赤穂町などの 兵事文書が知られていましたが、今回、大町市旧社村兵事文書の発見によって、上伊那郡旧上片桐村兵事文書(中川村)の存在も明らかとなりました。
また、2009年8月10日にはTBSでセミドキュメンタリー番組として滋賀県大郷村(長浜市)兵事文書に基づいた構成と兵事係の証言で「最後の赤紙配 達人」が放送されました。戦後64年たって、敗戦時に焼却されたと思われていた各地域の兵事文書が発見され、記録・分析の俎上に上りつつあります。

こうした動向の詳細な一端は山本和重「東村山村(町)兵事関係書類について」『東村山市史研究』第15号(2006年3月)をご覧下さい。

電車の窓を全開にし、夏の夜風を浴びながら、久しぶりの充実した調査に快い気分となりました。

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