教員紹介

もりやま しんや

護山 真也

哲学・芸術論 教授

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GOMANG ACADEMY OPEN SYMPOSIUM 2015報告

ダライ・ラマ法王をお迎えして

4月5日、友人の野村正次郎君が運営する文殊師利大乗仏教会が主催するシンポジウム「伝法の未来を考える」(東京・ロイヤルパークホテル)に参加してきました。ダライ・ラマ第14世テンジン・ギャンツォ法王を来賓として迎え、仏教研究者・チベット研究者が集う学際的な集まりです。

プログラム

挨拶:長野泰彦(日本チベット学会会長) 第1部 回顧:日本における仏教思想の共同研究の基盤 福田洋一(大谷大学) チベット仏教研究の過去と未来―東洋文庫からゴマン・アカデミーへ 斎藤明(東京大学)中観思想研究の最前線 桂紹隆(龍谷大学)日本の仏教論理学研究 武内紹人(神戸市立外国語大学)チベット文明の普遍性―古文献研究の視点から 第2部 現代仏教学の研究方法とその発展 リー・コリンズ(元Apple)Unicodeとデジタル大蔵経 岩尾一史(神戸外国語大学)日本におけるチベット学の新潮流―学際的研究チームの構築を目指して 根本裕史(広島大学)チベット仏教研究の三つの視点―論理学・修道論・詩学 結語 ダライ・ラマ法王による総括

第1部では、福田先生、斎藤先生、桂先生がそれぞれの研究を回顧しつつ、『バウッダ・コーシャ』(仏教事典)の編纂やジネーンドラブッディの『集量論注』第3・4・6章の梵文テキスト校訂、『方便心論』の英訳などのことをダライ・ラマ法王に紹介され、法王からコメントが返される、という流れでした。武内先生は、中央アジア史研究の観点から、チベット語が中央アジア地域で公共語として使用されていた例を提示され、それに対してダライ・ラマ法王は自身がモンゴルでチベット語で筆談していた経験を語られてました。 第2部では、コリンズさんがチベット文字や日本の悉曇文字を含む、様々な文字のユニコード化と、あらゆる言語に対応したデジタル大蔵経を構築する未来を語られ、若手研究者を代表して岩尾さんと根本さんが発表しました。岩尾さんは、若手研究者を中心とした若手チベット学研究者の集いの輪が広がっていること、2011年には日本で第3回若手チベット学研究者会議が開催され、100名以上の参加者があったことなど、チベット学研究のネットワーク構築に向けた若手研究者たちの取り組みを紹介しました。根本さんは、チベット語でツォンカパ著『縁起讃』についての研究発表を行い、ダライ・ラマ法王から激賞されました。

ダライ・ラマ法王からのメッセージ

(個人の要約で、聞き誤りや誤解などがあることを御容赦ください) 日本でチベット仏教・チベットの研究がこれだけの長い期間にわたり継続されていることに心より感謝します。 チベット仏教は、日本では最初「ラマ教」として紹介されたようですが、この呼称は誤りです。私たちの仏教は、インドのナーラーンダー大僧院の伝統を継ぐものであり、それ以外ではありません。チベット仏教内部に、ゲルク派、サキャ派など様々な派がありますが、その源は等しくナーラーンダーにあります。そのことをどうぞご理解ください。 さて、仏教僧として私がいつも考えていることは、「人間性(humanity)とは何か」ということです。現在、技術が長足の進歩をとげましたが、それは私たちに平和を与えるものではありません。私たち人間にとって必要なものは技術ではなく、知性(intelligence)です。そして、感情の波に流されない訓練をすることで、知性をはたらかせなければなりません。そして、その知性を鍛えるとともに、慈悲の心をもつようにしていくこと、他者を思いやる心をつねにもつこと、これがなにより大切です。 21世紀の現在、様々な方面から仏教は注目されています。一つには、「仏教心理学」、あるいは「仏教の心の科学」といった点で、仏教の研究がなされています。仏教のテキストの中には、私たちの心―知性でもあり、感情でもある―を分析した文言がちりばめられています。それらを抜き出し、私たちの心を研究しているのです。 その次に「仏教哲学」があります。私の知る限り、仏教の思想、特に中観派の考え方などは、量子力学の考え方と共通するところがあります。量子力学を知っていることは、中観派を学ぶ上で役に立ちそうです。もちろん、量子力学は「宗教」ではありませんが…。 最後に、「仏教」があります。宗教としての仏教です。日本には仏教の伝統がありますから、今さら言うまでもありませんが、その伝統を守ることが大切です。今、そのような宗教としての仏教の必要性はますます増しています。心の病を抱えるたくさんの人たちがいます。心の鍛錬をする宗教教育が欠けているからです。子供たちに、どの宗教にもあてはまる「世俗の倫理」(secular ethics)を伝えなければなりません。心が平和にならなければ、真の平和は訪れないということ。そのためには慈悲の心をもってまわりに接することが肝要である、ということです。 私とここにいる年輩の先生方は、20世紀の人間です。今回、最後に発表されたお二人は21世紀の仏教を担う方々です。若い方々には未来のための機会(opportunity)があります。知性をもって行動し、自らの行為の責任(responsibility)をしっかりと受け止めるようにしてください。未来は皆さんの手にかかっています。みなさんの活躍により、心の平和が訪れるように、そしてそれが未来の平和につながるように願っています。

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