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もりやま しんや

護山 真也

哲学・芸術論 教授

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ヘルムート・クラッサー博士の思い出

2014年3月末日、オーストリア科学アカデミーのヘルムート・クラッサー(Helmut Krasser, 1956-2014)博士が逝去されました。享年57歳。アジア文化・思想史研究所の所長としてインド・チベット仏教研究に多大な功績を残された博士の早すぎる訃報に接し、深い悲しみを感じずにはいられません。

2002年、ウィーン大学へ留学した私を温かく迎えてくれたのも、クラッサー博士でした。すでにDharmottaras kurze Untersuchung der Gueltigkeit einer Erkenntnis: Laghupramanyapariksa(1991, Wien)を公刊され、仏教認識論研究のホープとして名前を馳せていた人物です。さぞや気難しい性格ではなかろうかと心配したのですが、本当に気さくで親しみやすい人柄。昼食のパスタを抱えて廊下を歩いていたら、「モリヤマサン、イタダキマース」と笑顔で声をかけてくれました。 2007年までのウィーン滞在中、授業でも授業後の飲み会でも、何度となく会話を交わし、議論をし、そして強く励まされたことを覚えています。皮肉めいた口調のその奥にはいつも、弱者への優しさが溢れていました。

クラッサー博士の教授資格論文(Habilitation thesis)に基づく、Sankaranandanas Isvarapakaranasanksepa(2002, Wine)は、インドの神学論争を研究する私にとっては欠かすことのできない先行研究です。最近、進めているラトナキールティ著『主宰神証明の論駁』和訳研究についても、彼と議論したいことは数多くありました。

今年の国際仏教学会議(IABS)の開催地ウィーンにて――きっと真夏のホイリゲでワイングラスを傾けながら、――再会できることを楽しみにしていたのですが、もはや叶いません。彼が遺した多数の論文、そして著書を繰り返し読みながら、対話を続けていくしかないのでしょう。行間に、彼の独特の身振り、そして笑顔を思い出しながら…。 Lieber Helmut, Nochmal vielen Dank!

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