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いとう つくす

伊藤 尽

英米言語文化 教授

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Tolkien 研究

日本イギリス児童文学会 第40回研究発表大会

一橋大学で、先週末に開かれた日本イギリス児童文学会(JSCLE)には、立教大学名誉教授吉田新一先生が久しぶりに御講演をなさる、と聞いていたので、こちらも久しぶりに出席。

ずっと逃げ回っていたけれど、遂に観念して、学会員として入会を果たした。

 

大学院の先輩でもある大妻女子大学の安藤聡先生や、以前のJSCLEでのシンポジウムで司会をして戴いた川村学園の菱田信彦先生と久しぶりの再会を果たし、ずっとメイルや私信だけのやりとりだった専修大学の成瀬俊一先生とお会いすることができ、旧交を温めることができたのはやはり喜びだった。

 

吉田新一先生は、J. R. R. トールキンの『農夫ジャイルズの冒険』の翻訳者であるばかりか、日本人の大学生用の教科書まで編纂されていらした方だけれど、期を一にして「『農夫ジャイルズ』の英雄とユーモア」という題で、神戸大学の大学院生である藤原典子さんが研究発表をなさると聞いて、これも楽しみにしていたのだ。

会場に着いてみると、なんと日本中世英語英文学会の小路先生と新居先生がいらした。やはり『農夫ジャイルズ』の研究発表がお目当てと聞くと、この作品が如何に中世英語文献学者にとって魅力的かという事実を改めて確認してしまう。

 

研究発表は、このバーレスク的な作品を真面目に真正面から捉えて「新しい英雄像の構築」を主張するものだった。特に結論部分で主張されていたことの核となる部分にあった、理想の英雄像そのものではない「平民」の中にある徳が英雄や王になるに相応しい部分を備えているという点については、大いに賛同したいと思った。これから更に作品理解を深めていかれる計画らしく、将来が楽しみだ。

ただ、二点ほど気になる部分があった。最初の一点は、ウェスト・ミッドランドに生きた中世のfamerという存在をまるで下層階級であるかのように捉えていた点で、発表後にお話をする機会を得たので、少々私見を述べさせて貰った。

中世のミッドランドの農民は大土地所有の豪農である。中世末期から産業革命期まで続くイングランドのenclosureが、イングランドの風景や社会階層の構成をすっかり変えてしまったことは、高校時代の世界史で習ったときよりも、中世の文献学を学び始めてようやく腑に落ちたことだ。

トールキンは、階級の違いよりも、王の周りにいた「都会的な貴族」と「地方の農夫」とを対照的に描いたのである。

このことが『ガウェイン卿と緑の騎士』を編纂するに当たってのトールキン自身の心にずっと存在したことは間違いない。

 

さて、研究発表のあとは、吉田先生による「アルファベット絵本」についての御講演である。

 

兎に角、凄い数のアルファベット絵本についてお話を聞くうちに、このジャンルの絵本の奥深さを知り、目から鱗が落ちた。

 

その後、松本に帰る前に、以前からの馴染みの古書店 G書房 に寄ったが、吉田先生の講演の影響もあって、アルファベット絵本の優劣を見極める批判的な眼で見つめる本もいくつかあった。いやいや、講演の趣旨は、絵本は「やはり楽しむもの」だったのに。

これだから付け焼き刃的な知識は危険である。もっとじっくりと「アルファベット絵本」とつきあわねば、と思った次第。

 

結局、大好きなPettson och FindusとCarl Larssonのカレンダーを購入。どちらもドイツ語版であるのは残念ではあるけれど、

来年の1月からどちらかを研究室に飾るつもりだ。

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