教員紹介

いとう つくす

伊藤 尽

英米言語文化 教授

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学会 研究

第82回日本英文学会(二日目)

さて、二日目。元町の神戸プラザホテルを出て六甲道へ。そこからタクシーに乗ろうとしたのだけれど、なかなかタクシーが来ない。と、同じように目の前で時計を見ながら待っている女性がいる。

この時間、この風情。学会関係者かな、と思っていると、ようやく一台タクシーがやって来た。

先に女性が乗り込む様子だったのだけれど、ふと気がついて、僕に声をかける。

「英文学会にいかれますか?」

渡りに船とはまさにこのことで、相乗りして会場へ。 バス停は長蛇の列だったから、本当に助かった。

有難う! □□先生! またいつかお会いしましょう!

 

さて、二日目の白眉は『ベーオウルフ』のシンポジウムだ。

個人的には□□先生も御関心のあった「大学英語教育の検証」シンポジウムや、以前、児童文学会のシンポジウムで御一緒した菱田信彦先生の司会をなさるアラン・ガーナーの研究発表(東京大学大学院 瀧内陽さん)や、「『蝿の王』における悪の諸相」(東北学院大学大学院 小林亜希さん)、山形大学の小田友弥先生の「ワーズワースの『湖水地方案内』の革新性」に、とても興味惹かれたけれど、今日は致し方ない。

僕が司会を務める研究発表は11時半からなので、時間に余裕をみても、『ベーオウルフ』のシンポジウムの春田節子先生の御発表だけは聴くことができる。ちょっと書店で用事を済ませてから、会場へ迷いながら進む。

 

春田節子先生の「Beowulfと女性の視点」は、まさに春田節の御発表で、聴いているだけで楽しく、かつ深く考えさせられた。

まず、Beowulfという作品の中に占める女性の重要性は、看過することが出来ないほど大きな部分を占めているが、多くの男性批評家は、あまりそのことに重きを置いていないという前提がある気がした。gender理論華やかだった20世紀ならばともかく、落ち着きを取り戻した21世紀の今日、もう一度その意味を問い直すということは意義があると思われる。特に春田先生独特の言い回しで、「肉食系男子」そのもののGrendelやDragonに象徴される「戦争」と、女性が安心して子どもを産み育てることが出来る「戦争のない社会」という対比を詩の中に読み込むことの妥当性は、実際に主人公Beowulfに子どもがいない、という物語上の進行とも密接に関わりをもつはずで、ひいては、『指輪物語』の中の女性問題を扱う、今論文指導をしている大学院生にも話すべき内容を含んでいる。

 

と、すっかり春田先生のお話に心を奪われたところでタイム・リミットだ。次の千葉大学の小倉美知子先生の御発表が始まってしまったが、ここで席を立ち、僕の後ろに座っておられた関東学院大学の多ヶ谷先生に黙礼して部屋をあとにした。

 

僕の司会は、最近山形大学に就任なさった嶋田珠巳先生による「アイルランド英語のアイデンティティ:文法的自律性と話者意識」という御発表を紹介するものだ。ちょうど部屋に入ると、その後で御発表なさる東京大学の寺澤盾さんがいらっしゃった。既に嶋田先生はいらしているが今は席を外しているというので、しばらくおしゃべりをしていると、嶋田先生御本人の登場。打ち合わせをするが、既に僕が調べてきたネット上での様々な情報に間違いはないか、補足することはないか、など。発表の内容自体には問題はないので、司会者が理解しておくべき事柄などをチェックした。

 

Language contactの問題は、現在の僕の研究にとっての中心課題でもあり、話していると共通の興味についつい話がそれる。

9月に行われるノルウェーの学会についての情報が、今回最も刺激的であった。

 

嶋田先生の御発表は時間通りに終わりながら、情報が満載で、フロアからの質問もあとを絶たない。時間が気になるところだが、なんとか1分程度の超過で終了した。

 

続いては、寺澤盾さんの御発表 ’Man and Woman in the History of English'。ちょうど、今年の英語史の授業の教科書の執筆者でもあるため、この発表を聴いた翌日の英語史の授業でも、寺澤さんの発表について学生たちに紹介した。特に、昨年秋に出版され、英語学資料室にも購入して貰ったばかりのOED Thesaurusの使い方について、これを使うとどのように研究に有効利用できるかという見本を示して下さった。

タイトルは英語だったが、日本語での御発表。これはなぜかという質問に寺澤さんはさらりと「英語史に於ける男と女」とすると、何だかあまりに艶めかしすぎるでしょう、と答えられた。会場は爆笑である。ユーモアと機知に富んだプレゼンテーションは相変わらず冴えていらっしゃる。いろいろと勉強になるなぁ。

 

寺澤さんの御発表のあと、友人たちと懇談するなどしてから、徐々に帰途につく人がいる。私も松本までの列車の接続が気になるところ。チケットをとりに急ぐ。生憎と中途半端な時間になったが、とりあえず新神戸から新幹線に乗ろうとする。が、何を思ったのか、1時間前の列車がホームに来ていて、それに間違って乗ってしまった! 指定席に他の人が座っておられたので、自分の間違いに気がついた次第。仕方ないから次の京都で降りて、本来の列車を待とうと思う。

と、京都駅構内で、なんと早稲田のY先生に偶然お会いしてしまった。瓢箪から駒というか、転んでもただで起きない自分の性分が出たのか、列車を間違えなかったらお会いできなかったことを考えると、面白い邂逅である。これも縁というものだろう。

 

名古屋からしなのに乗り換えたルートは初めての経験。しなのは「揺れるぞ〜」といろいろな人から脅されていたので、びくびくしながら乗ったが、快適な旅立った。やはり信濃路の山並みは美しい

 

雨が降り始めた松本の夜に帰着。少々疲れたが、明日の授業に土産話がいっぱいある。いろんなことを学生諸君に伝えたいな、と重いながら帰宅した。

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