教員紹介

はやさか としひろ

早坂 俊廣

哲学・芸術論 教授

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中国関係

「転がる香港に苔は生えない」のか?

20年前のわたし(浙江省温州にて)

 ちょうど20年前の話です。1997年6月末、10ヶ月間の在外研究を終え、中国から日本に帰国しました。恐らくそれが無ければ今の自分の研究生活は無かったであろうというぐらい、充実した在外研究でしたが、一つだけ「失敗したなあ」と悔やんだことがありました。帰国日を自分で自由に設定できたのに、「6月末」(27日だったか28日だったか、今では記憶が曖昧です)にしてしまったことです。そうです。あと一週間ほどでも中国に滞在していたら、「香港返還」に沸く中国の様子を実見できたのに、そのことに気づいていなかったのです(少しかっこつけて書いてしまいましたが、行く前にはそもそもそのことを知りませんでした)。 中国滞在中には、連日TVで「賀香港回帰」「雪百年国辱」といった調子の報道(「賀」は「祝賀」、「雪」は「すすぐ」の意)が繰り返されていましたので、その日はさぞや盛り上がったことでしょう。「いや、日本でTVを見てたほうが、よっぽど多くの情報が手に入ったのだから、これでよかったんだよ!」と自分を慰めましたが、なんたらの遠吠えでしかありません。
 そんな愚か者とは異なり、20年前のあの日を見るために、香港に「帰った」日本人女性がいました。星野博美さんという方が書かれた『転がる香港に苔は生えない』(文春文庫)には、1997年7月1日「返還」前後の香港の様子が描かれています。これは、大学時代に香港で留学生活を送った著者が久しぶりに帰った香港で実際に見聞きした出来事を記したノンフィクションであり、当時の香港の雰囲気はもとより、日本人と香港人の発想の違いがよく分かる比較文化学的にも興味深い作品なのですが、読み物としても一級品で、登場人物がみな色々な意味で「気になる」「素敵な」人たちばかりでした。それは、何よりも、著者ご自身の人間的魅力、度量の大きさによって引き出されたものなのでしょう。星野さんには他に『謝々!チャイニーズ』(文春文庫)『愚か者、中国をゆく』(光文社新書)という中国物の作品がありますが、そちらも、「会ってみたい」人たちで満載です。
 さて、この7月1日で香港返還20周年となります。「香港に苔は生えない」のかどうか、私も注視し続けたいと思います。

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