タデ科ソバ属植物(Fagopyrum spp.) 育種研植物図鑑


Fagopyrum esculentum Moench

   
普通ソバ
蕎麦、buck wheat


 中国雲南省からヒマラヤ周辺が起源とされている。日本で栽培されているソバもこの種である。異型花柱性自家不和合のため、花柱の長い花と短い花があり、同じタイプの花の花粉が受粉しても受精しない。このため虫媒により受粉する。子実には血管の脆弱性を矯正する作用のあるルチンを含む。花は白いが、ヒマラヤ周辺の高標高地帯などでは赤い花を咲かせる。

Fagopyrum tataricum (L.) Gaertn.

  
ダッタンソバ
韃靼蕎麦、苦蕎麦、tartary buckwheat

 普通ソバと同様の地域が起源とされている。自家和合性で自家受粉できる。花の色は緑色っぽい白で、普通ソバより小さい。子実のルチン含量が普通ソバの数十倍〜百倍あり、ルチンの関連物質ケルセチンの影響で、そのソバ粉製品は苦味を呈し、黄色みがかった色になる。
Fagopyrum cymosum Meisn.
  
シュッコンソバ
宿根蕎麦、赤地利蕎麦
 普通ソバと同様の地域が起源とされている。宿根性のため多年生である。ルチンを多く含むため薬用として我が国に導入された経緯があるが、定着しなかった。ヒマラヤ周辺諸国では茎葉は野菜として半野生状態で利用している。栽培二種に比べて湿潤な条件に適している。種子の脱粒性が強い。
  

Fagopyrum homotoropicum Ohnishi

 
 中国雲南省西北部において京都大学農学部の大西近江教授が発見した野生種。小さな脱粒性の強い種子をつける。自家和合性であることから、普通ソバへの自家和合性導入のための実験系統として利用されている。
Fagopyrum leptopodum Diels
 一年生で小形の野生種。普通ソバと同様に異型花柱性で他殖性。中国雲南省北部・西部に分布し、畑地と山林の間の日当たりの良い乾燥した荒れ地等に自生する。
Fagopyrum lineare Sam
 F.leptopodumと形態が似ているが、葉が線形という点で異なる。異型花柱性で他殖性。中国雲南省昆明市周辺の一部の県に分布する野生種。
Fagopyrum statice Gross
 F.leptopodumと形態が似ているが、塊根を持ち多年生になる点で異なる。中国雲南省昆明市周辺の一部の県に分布する野生種。
Fagopyrum urophyllum Gross
 ソバ属植物の中で唯一の木本多年生の大型野生種。異型花柱性で他殖性。中国雲南省昆明市周辺および雲南省西部の耳海周辺の諸県、四川省の一部に分布する。
Fagopyrum gracilipes Dammer
 中国秦嶺山脈南斜面から四川省、雲南省、貴州省、さらにはブータンにまで分布。野生種であるが、前記の中国の各地域では畑地雑草となっている。同柱花で自家和合性を示す。細い茎は直立または匍匐する。
Fagopyrum pleioramosum Ohnishi
 F.gracilipesに似ている野生種で、分枝が多くて長く匍匐する。。中国四川省の眠江の上流域で、畑のふちや路傍に自生する。異型花柱性であるが、しばしば自家受精する。
Fagopyrum capillatum Ohnishi
 F.gracilipesに似ているが、同種より草丈が高く直立する。野生種であるが畑雑草でもある。中国雲南省永勝県、麗江県に分布。異型花柱性で他殖性。
Fagopyrum callianthum Ohnishi
 中国四川省眠江上流域に分布する。異型花柱性であるが自殖性。分子は少なく、葉は長三角形で厚く光沢がある。

 参考・引用文献: 広瀬 1994 ソバ属の交雑親和性に関する育種学的研究
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