生物多様性に配慮した植生管理




近年、外来種の侵入や植生遷移の停滞による希少な在来草本の減少が問題となっています。本研究では外来種や木本の刈り取り・抜き取りが在来草本に与える影響や、訪花昆虫相、在来−外来種間の競合関係などに着目し、効果的な植生管理手法について提案しました。


画像の説明 野辺山高原におけるサクラソウ湿生群落に対する刈り取りの影響

サクラソウは北海道から九州まで分布し、湿り気の多い場所に生育する多年生草本で、自生地減少等により個体数が減少しており、現在、環境省版レッドリストで準絶滅危惧種に指定されている。調査地である信州大学農学部AFC野辺山ステーション構内には、サクラソウ湿生地が存在しているが、乾燥化の進行、木本種の定着によって植生遷移が進行している。 そこで本研究では、サクラソウの生育を阻害していると考えられる競合種を刈り取る植生管理を継続的に行い、保全のための管理手法の検討を行った。その結果、刈り取りによる管理によって、木本種の優占度が減少し遷移が抑制されたことでサクラソウの分布が拡大することが明らかとなった。

(前田沙織)
画像の説明 野辺山高原における絶滅危惧種アサマフウロの訪花昆虫相

生物の保全において、他家受粉を行う種の花粉媒介者の把握は繁殖環境の保全を考えるうえで必要とされる情報の一つである。アサマフウロ(Geranium soboliferum Komar.)は、本州の中部地域などに局所的に分布するフウロソウ科の多年草で、近年開発等による自生地の減少から環境省版RDB(2007)では絶滅危惧TB類(EN)に指定されるなどしているが、保全策の検討に必要とされる本種の生態に関する研究は少ない。本研究では、野辺山地域に調査範囲を広げて同様の訪花昆虫調査を行い、本種の地域的な訪花昆虫の組成を調査し、どのような訪花昆虫相が本種の送粉を担い、繁殖を支えているのかについて考察する。

(近藤綾希子)
画像の説明 野辺山高原における外来植物が在来希少種アサマフウロ群落に及ぼす影響

アサマフウロ(Geranium soboliferum Komar.)は、フウロソウ科の多年草で、本州中部の限られた地域における湿地や草原に分布する希少植物であり、現在は環境省RDBで絶滅危惧IB類(EN)に指定されている。長野県南牧村に位置する野辺山高原内においてもかつては多く自生していたが、戦後に大規模な農地開発が行われたため、分布範囲が狭められている。その一方、その土地改変より、ハルザキヤマガラシ等の外来植物が定着・優占しやすい環境になっている可能性がある。これらの種は、在来希少種、農作物、牧草等との競合やアレロパシー作用による悪影響の可能性が指摘されている。そのため、今後これらの外来植物がアサマフウロ群落へ侵入・定着することが懸念される。本研究では、野辺山高原において、アサマフウロ等の在来希少種と外来植物分布状況を把握し、両者間の競合関係を解明することを目的としている。

(西澤太貴)
画像の説明 霧ヶ峰高原における外来種オオハンゴンソウの群落特性と分布地の現状

オオハンゴンソウは北米原産のキク科の多年生草本であり、鑑賞目的に導入されたものが野生化し、全国に分布するようになった。本種は繁殖力が強く、在来草本の生育を脅かすことから、環境省により特定外来生物に指定されている。近年、稀少な草本類が多く分布する霧ヶ峰高原においても本種の侵入・定着が確認され、在来生態系への影響が懸念されている。 霧ヶ峰に侵入・定着したオオハンゴンソウの生態学的な管理を検討するため、本研究ではオオハンゴンソウ群落の特性と分布地の現状を明らかにすることを目指す。現在、オオハンゴンソウの分布に影響を与える環境要因について解析中である。

(落合尚子)
画像の説明 霧ヶ峰高原における外来植物侵入定着群落に対する刈り取りおよび抜根管理に関する研究

霧ヶ峰は採草地として利用されていた半自然草原が分布し、多くの草原性草本植物の多様性を維持していきた。しかし近年、生産活動の変化に伴う草原の減少や開発に伴う外来植物の侵入が在来植生に影響を与えている。 本研究では、2008年から外来種の駆除と在来植生の復元のために北米原産の外来種であるヘラバヒメジョオンやメマツヨイグサに対して刈り取りや抜根の管理について検討した。これまでの成果からヘラバヒメジョオンは年2回、メマツヨイグサは年1回の刈り取りで効果があることが明らかになった。

(宮本隆志)




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