【研究成果】


樹木の樹冠構造と個体成長に関する研究

 人工林においては,土壌の養水分不足により,斜面上部の樹木サイズが下部の樹木サイズより小さくなることが知られている。しかしながら,サイズが変わることで樹木を形作る幹や樹冠の形状はどのように変化するか明らかでない。本研究では,ヒノキ壮齢木の幹の形と葉量分布が,斜面上部と下部でどのように異なるか調べた。斜面上部のヒノキは下部のヒノキに比べて,幹の直径成長が樹高成長より相対的に劣ることから,樹幹の形状比は大きくなっていた。また,斜面上部のヒノキは下部のヒノキより樹冠長が短く,葉の保持量が少なかった。樹冠内での葉の空間配置は斜面上部と下部で異なり,上部のヒノキは葉を樹冠の表面に集中して配置させていたのに対し,下部のヒノキは樹冠の内側まで葉を密に配置していた。このような葉の空間配置の違いは,斜面上下間で新葉の展開と旧葉の枯死脱落のパターンが異なることによって生じているものと考えられた。

 野村遼介・樅山友里絵・小林 元:斜面の異なる位置に生育するヒノキ壮齢木の樹冠構造と樹幹形.第118回日本林学会大会学術講演集(CDロム),P2f19,2007

 樅山友里絵: 斜面の異なる位置に生育するヒノキ壮齢木の樹冠構造 一次枝および二次枝の分岐特性の比較.H18年度信州大学卒業論文

 

 


人工林の二酸化炭素吸収機能の評価に関する研究

 森林調査簿のデータをもとに,信州大学演習林の森林が吸収,蓄積する二酸化炭素量を計算した。信州大学の森林は毎年1,889tonの二酸化炭素を吸収し,合計150,498tonの二酸化炭素を蓄積していた。この二酸化炭素吸収量は,信州大学が化石燃料の使用によって1年間で排出する二酸化炭素量のおよそ5%に相当し,農学部の年間二酸化炭素排出量にほぼ匹敵していた。

 小林元・荒瀬輝夫・木下渉・野溝幸雄・浅田賢史・熊谷市雄信州大学演習林における炭素蓄積量および炭素吸収量の試算:信大AFC報告5:133-135,2007

 

 

 

 


  ●人工林における施業効果の検証に関する研究

 手良沢山ステーションのヒノキ人工林において,施業計画の基礎資料を作成することを目的に,32の固定試験地を設定し林況の調査を行った。手良沢山ステーションのヒノキ人工林においては,相対幹距が20を越える林分が多く,形状比も平均して90と大きな数値を示しており,間伐不足の林分が多いことがわかった。

 小越剛:手良沢山演習林ヒノキ林分の林況と間伐試案.H19年度信州大学卒業論文

 日本の人工林の多くは戦後の拡大造林期に一斉に植林されており,その後長い間,除間伐等の育林が適切に施されていない。そのような手入れ不足の高齢人工林においては,間伐による樹木成長の向上について疑問視する見解がある。本研究では手良沢山ステーションにおいて,林齢や間伐方法の異なるヒノキ人工林を対象として調査を行い,間伐の樹木成長に及ぼす効果の検証を行った。調査の結果,60年生以上の高齢ヒノキ人工林においても間伐を行うことで樹冠長が長く保持され,間伐による直径成長を期待できることが明らかとなった。

 大村拓郎:手良沢山ステーションヒノキ人工林における間伐効果の検証.H20年度信州大学卒業論文


●地球温暖化に伴う亜高山帯から高山帯にかけての炭素貯留量の変動および森林動態予測に関する研究

 西駒ステーションは信州大学の発足に際し,演習林用地として県有林から移管された。西駒ステ−ションは移管以前に択伐が行われたといわれているが,いつ行われたかその記録は残されていない。本研究では西駒ステ−ションの現在の林況を調査し,さらに年輪年代学的手法を用いることによって,過去の択伐の時期と頻度を推定した。調査の結果,西駒ステーションのオオシラビソ・シラビソ林は,過去に戦前と戦後の2回,択伐が行われたことが明らかになった。択伐後のオオシラビソ・シラビソ林の発達段階は標高によって異なり,樹高成長に優れ,広葉樹も多く侵入する標高の低い林分では,被陰によって後継樹の更新が阻害され,立木の本数密度は低く抑えられていた。一方,樹高成長が抑制され,強風等によって風倒木が頻繁に発生する標高の高い林分では,林床の光環境が明るく保たれ,後継樹が次々と更新することで,多くの小径木が成立し,立木密度が高い林分が形成されていた。

 吉村太一:西駒ステーションのオオシラビソ・シラビソ林における過去の攪乱履歴と現在の林況.H20年度信州大学卒業論文

 

 

 

 


  ●樹木の成長を決定する環境因子の抽出とこれに応答する樹体の生理メカニズムの解明

 林地に急傾斜地の多い我が国では,斜面位置によって土壌の養水分状態が異なり,樹木の成長に顕著な差を生じさせる。本研究では斜面上部と下部のヒノキ光合成を着葉状態で測定し,土壌の養水分がヒノキの成長にどのように影響するか調べた。斜面位置によるヒノキ光合成速度の差は,土壌の乾燥が弱まり樹体の水ストレスが緩和された時期に大きく広がった。このときの光合成速度の差は葉に含まれる窒素量の差によって生じていた。このことから,斜面位置によるヒノキの成長差は土壌の栄養状態により大きく影響されるといえた。一方,土壌が乾燥すると斜面下部のヒノキは大きく気孔を閉じ,上部との光合成速度の差を小さくしていた。すなわち,土壌乾燥は斜面位置による樹木成長の差を小さくする方向に作用していた。土壌が湿潤な斜面下部はリター等の有機物分解が活発であり,斜面上部との間に地力の差を生じさせる。このように,土壌水分は土壌栄養状態に影響することで樹木に成長差を生じさせる間接的な要因となるが,直接的には樹体の水ストレスを通じて斜面位置間の樹木成長の差を小さくする方向に作用するといえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瀬雅生・小林 元:斜面の異なる位置に植栽されたヒノキ若齢木の光合成と蒸散および木部圧ポテンシャルの日変化.第120回日本林学会大会学術講演集(CDロム),Pa3-10,2009


  ●木曽五木の物質生産と環境応答機能に関する研究

 サワラ 

 樹木の樹冠構造はその種の生活史と密接に関係している。本研究ではサワラの樹冠構造を同属のヒノキと比較して,その生活史特性を考察した。調査の結果,サワラではヒノキより樹冠部の高い位置で一次枝の肥大成長,伸長成長が低下すること,また,ヒノキよりも多く一次枝が枯死することが判明した。このような両種の一次枝の成長様式の違いは,サワラとヒノキの光環境に対する感受性の種間差を反映していると考えられる。すなわち,サワラ樹冠はヒノキ樹冠より陽樹的な振る舞いを示すといえる。

 小林元・日置美知子:ヒノキとサワラの成長および 樹冠構造の比較 .第120回日本森林学会大会学術講演集(CDロム),A31,2009

 

 

 

 

 ヒノキとサワラは同じヒノキ科ヒノキ属に属する近縁種である。ヒノキは実生でのみ更新するが,サワラは実生以外でも栄養繁殖によって更新し,両樹種の更新様式は異なる。サワラは伏条枝に由来する栄養繁殖パッチを形成するが,この更新様式の詳細については不明な点が多い。本研究では間伐後10数年を経過した壮齢人工林で,ヒノキとサワラの更新様式を比較した。サワラの後継樹個体はヒノキより小さいサイズで衰弱,枯死しすることから,サワラにはヒノキに見られるような大きなサイズの後継樹は見あたらなかった。このように後継樹の枯死サイズが異なることの原因として,両樹種の耐陰性の違いが挙げられる。一般に個体サイズが大きくなるにつれて,個体の生存に必要な受光量も増大すると考えられるが,ヒノキより小さいサイズで衰弱・枯死の始まるサワラは,ヒノキと比べて耐陰性が低い,より陽樹的な性向を示すといえる。

森田元気:ヒノキとサワラの混植された人工林における両後継樹の更新比較.H20年度信州大学卒業論文

 

 

 コウヤマキ 

 コウヤマキは岩尾根のような他種が入りにくい場所に自生するが,その成長特性については不明な点が多い。本研究では,コウヤマキの成長特性を明らかにすることを目的とし,人工林におけるコウヤマキの物質生産と光合速度をヒノキと比較した。研究の結果,コウヤマキは生産効率の低い葉を多量に保持することによって,個体全体の生産を高めていることが明らかになった。コウヤマキが他の植物が進入出来ない岩尾根などに自生する理由として,光合成生産と物質分配特性の非効率さが挙げらた。

 写真は手前がコウヤマキ,後方はヒノキである。両樹種の樹齢は等しい。コウヤマキの個体サイズ(樹高と胸高直径)はヒノキと比べ小さい値を示したが,地上部現存量(幹と枝および葉の重量)の大きさは変わらなかった。コウヤマキにおいては光合成産物を同化器官である葉により多く分配するため,支持器官である幹や枝への分配が相対的に低下し,このことがコウヤマキの個体サイズの低下につながっていた。

 小林 元・吉田 藍:コウヤマキ若齢林における物質生産と光合成−ヒノキとの比較−. 第56回日本生態学会講演要旨集,P255,2009

 

 


 ●立木の腐朽診断と被害発生予測に関する研究

                                    

 木材の立木腐朽は材質腐朽菌によって心材部が侵されるため,外観から腐朽の有無を判定することは難しい。本研究では応力波を測定して,立木の心材部腐朽を非破壊で定量的に推定することを試みた。研究の結果,樹幹内部の腐朽の大きい個体では,応力波の伝播速度から高い正解率で腐朽の有無を判定できること,さらに,腐朽径の大きさも推定できることが明らかになった。また,応力波伝播速度のヒストグラムの分布型は,腐朽木の病状進展を林分レベルで診断する上で有効な指標となることを示した。

 小林元・ 古賀信也・田代直明・大崎繁・山内康平・鍜治清弘・内海泰弘・岡野哲郎:応力波測定によるカラマツ生立木の非破壊腐朽診断−腐朽径の推定−.中森研54:55-56,2006

 小林元・ 古賀信也・田代直明・大崎 繁・山内康平・鍜治清弘・内海泰弘・岡野哲郎:樹木医学研究カラマツ生立木の非破壊腐朽診断−応力波測定法と打診法の比較−.樹木医学研究11:9-12,2007

 小林元・ 古賀信也・岡野哲郎・田代直明:応力波伝播速度測定によるカラマツ生立木の非破壊腐朽診断−九州大学北海道演習林と信州大学野辺山ステーションにおける調査事例−.樹木医学研究12:119-124,2008

 

 


 ●木質バイオマス燃料の生産管理システムの開発

   

 薪ストーブ用木質燃料を,安価にかつ効率的に製造するための手法を開発することを目的として,薪の乾燥実験を行った。研究の結果,針葉樹の薪では春に乾燥をはじめた場合,数ヶ月でストーブ用燃料に適した含水率まで低下することがわかった。一方,広葉樹の薪では春に乾燥を初めても暖房を焚く季節までには含水率は充分に低下せず,広葉樹薪は1年以上乾燥させる必要があることがわかった。

 牛島俊平:薪ストーブ用木質燃料の品質管理に関する研究.H20年度信州大学卒業論文

 

 

 

 

 


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