分げつに関するレポート(12/8提出期限)の解説

レポート課題について解説します。分げつ図(PDF版)を参照して下さい。

このレポートの狙い

  1. 一粒のイネの種からどれ位のコメが収穫できる可能性(ポテンシャル)があるのかを知ってもらう。
  2. そのためには、分げつが最大どれ位出るのかが分かる必要があり、分げつの出方の仕組みを理解してもらう。

1.分げつが同伸葉同伸分げつ理論通りにすべて出現すると仮定し、主茎第12葉が出葉した時の分げつ図を描きなさい。

問題文にしたがって分げつ図を描くと、1次分げつが10本、2次分げつが28本、3次分げつが20本、主茎(主稈)が1本となり、茎数はなんと59本にもなる。
たった一粒の種から、59本もの穂が出るということになる。

ただし、現実にはこの59本のすべての分げつが発生する訳ではない。
講義でも話したように、日本で栽培されている品種を通常の栽培条件で栽培した場合には、3次分げつは出ないことが多い。

また、鞘葉節と第1葉節の分げつは弱勢で、稚苗育苗のように苗が混み合って生長する条件では発生しないのが普通。移植適期の苗である葉齢3.2の苗は、第4葉が展開中だから、同伸葉同伸分げつ理論にしたがえば、第1葉節の1次分げつ(1号分げつ)が発生するはずだが、実際には稚苗移植用の苗では1号分げつは発生しない。このように、本来発生するはずの分げつが発生せずに終わることを、分げつが休眠するという。

鞘葉節からの分げつ発生がないとすると、1次分げつが-1本、 2次分げつが-7本、3次分げつが-10本になるので、1次分げつ9本、2次分げつ21本、3次分げつ10本で茎数は41本になる。第1葉節からの分げつも発生しないとすると、1次分げつがさらに-1本、2次分げつが-6本、3次分げつが-6本になるので、1次分げつは8本、2次分げつは15本、3次分げつは4本で茎数は28本になる。
が、3次分げつは、上述のように出ないことが多いので、稚苗移植栽培であれば主茎第12葉出現時点での現実的にありうる最大の茎数は24本と考えて良い。一方、直播栽培だと31本かそれ以上になる可能性が高い(育苗した時は休眠する下位節の分げつでも、直播の場合には発生する確率が高いので)。

つまり、栽培条件などによって「正解」は異なるが、24本というのを一応の標準と考えることする。

ここで、講義で解説したもう一つの関連事項、「非伸長節間の節でのみ分げつ発生する」、「分げつ発生しない伸長節間数は5〜6である」ということも考慮に入れるとどうなるだろうか。

主茎第12葉が止葉(穂の直下の最上位の葉のこと)であり、主茎の伸長節間数が上位5節間であるとすると、1次分げつは第6葉節分げつまでしか出ないことになる。1次分げつでも伸長節間数は主茎と同じ(上位5節間)なので、2次分げつの発生も、伸長節間数を考慮すると減る。1次分げつの発生が第2葉節以上の節からとすると、1次分げつは5本、2次分げつは3本で茎数は9になり、茎数は、一応の標準と考えることにした24本より大幅に少なくなる。

日本で栽培されるイネ品種では止葉は主茎の第15葉程度かそれよりもやや多い場合が多いので、実際には「主茎第12葉は止葉ではない」と考えられ、上記ほど茎数は少なくはなりませんが、一応の標準と考えることにした24本よりは少なくなる。


2.有効茎歩合が70%、一穂籾数が90粒、登熟歩合が90%だとすると、1粒のイネ種子から何粒の種子が収穫できるか?

問題1の解説に書いたように、茎数は栽培条件などによって異なるので、ここでは茎数をNとすることにする。

収穫種子数=N×0.7×90×0.9 という計算で良いと思われがちですが...

茎数には端数はなく、茎数は整数でなければなりませんから、N×0.7について、小数点以下を切り捨てて計算する必要があります。

Nを標準の茎数24とした場合は、24×0.7=16.8 → 16として、
収穫種子数=16×90×0.9=1296 粒 となる。

実は、日本でもっとも一般的な稚苗移植栽培を想定すると、鞘葉節〜第2葉節までの分げつは発生しないのが普通(第2葉節分げつが発生しないのは植え痛みの影響)なので、茎数は24-6となり、18本。収穫種子数=18×0.7×90×0.9=972 粒
 (ちなみに、問題1で単純に考えた茎数65本で計算した場合は3645粒)


3.上記の登熟籾の玄米千粒重が23gだとすると、1株あたりの収量はどれだけか?

1株あたり収量(g)=972×23÷1000=22.36
 (ちなみに、問題1で単純に考えた最大茎数65に基づけば、83.83g)


まとめると、稚苗移植栽培では、1粒のイネ種子から最大で24本程度の穂が出て、最大1000粒近いコメが収穫できる。つまり、播種した種の量の約1000倍が収穫できる訳で、イネ栽培では投資が最大約1000倍になって返ってくることになる。穂数は多めの見積もりになっているので、数字は大きめの見積もりになっているが、イネは投資効果(増殖率)が大きい点が優れた作物で、だからこそ世界の多くの人口を支えられている。

 ところで、稚苗移植栽培や直播栽培では種子(籾)は10aあたり3〜4kg使っている。玄米収量は500kg/10a位(籾重での収量に換算すると約600kg/10a)。つまり、投資効果は実際にはせいぜい200倍ということ。投資効果最大1000倍には遠く及びません!なぜでしょう?

計算が合わない要因として、穂数が大きめに見積もっていることの他に、一穂籾数が90、登熟歩合が90%という仮定(数値)が高すぎるのでは?と思うかもしれません。確かに多少高めの数字だが、それぞれ、一穂粒数80、登熟歩合70%で計算し直しても、投資効果200倍弱といった数字にはならない。この理由は各自考えてみるなり、調べてみるなりしてみて下さい。
ヒント:苗は混み合っていると分げつの休眠が起こる(稚苗育苗で分げつが休眠することを最初の方に書きました)。稚苗移植栽培では、苗はどんな風に移植されるか考えてみる。

補足:1粒のイネ種子から何粒収穫できるかというポテンシャルとしては、1粒が何千粒にもになる能力は充分にあります。一粒の種を大切に育てれば。つまり、一粒(一株)だけの場合と、集団の場合では発揮される能力が大きく変わってきます。