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平成30年度「山岳環境保全学演習」を実施しました

お知らせ演習林系の実習

ガイダンス・講義(9月11日):ゆりの木研修室にて
ガイダンス・講義(9月11日):ゆりの木研修室にて
分水嶺にて(9月12日):登山道が稜線に達する場所
分水嶺にて(9月12日):登山道が稜線に達する場所
天気図作成(9月13日):西駒山荘にて(講師:宮下氏)
天気図作成(9月13日):西駒山荘にて(講師:宮下氏)
将棊頭山登山(9月13日)
将棊頭山登山(9月13日)
ゴミ拾い活動(9月13日):西駒山荘周辺にて
ゴミ拾い活動(9月13日):西駒山荘周辺にて

1.演習名
「山岳環境保全学演習」

2.実習目的
山岳環境保全に必要な基礎知識と技術を,西駒ステーションから木曽山脈・将棊頭山(1,250 m~2,730 m)をフィールドとして集中実習により習得する。

・代表的な高山植物の観察を行い,希少な高山植物群落の保全について学ぶ。
・高山帯から亜高山帯を経て山地帯までの,植物の垂直分布帯を踏査し,信州の自然の多様性について体感する。
・高山環境に生息する昆虫類や鳥類の観察,野生動物のフィールドサインの識別方法など,フィールドワークの基礎を学ぶ。
・コンパスを使用した地図の読みや,山岳気象への対処(天気図の作成を含む)など,登山の基礎知識を学ぶ。
・山小屋で宿泊し,登山者による環境負荷の観察(登山道の状態,し尿・ゴミ処理など)を体験して,自然保護と人の利用を含めた山岳環境の保全について見識を深める。

3.実施日程
平成30年9月11日(火)~9月14日(金) 3泊4日

4.実施場所
農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター(AFC)
西駒ステーション, 木曽山脈(中央アルプス)西駒山荘,将棊頭山周辺

※コース設定の理由:
バス・ロープウェイ利用を利用して木曽駒ヶ岳山頂を経由し,稜線を縦走するコースは,体力的に楽である反面,一気に高山帯に到達することによる体への負担や,実習に不向きな稜線上の環境(岩場,強風,低温等の危険性)が懸念される。そこで昨年度から,時間をかけて体を慣らしながら自力で登山するコースと設定している。

5.担当教員・講師
教員2名(荒瀬輝夫准教授,小林 元准教授)
ティーチングアシスタント5名(信州大学農学部4年生)

6.参加人数
全28名(当日欠席2名)
他大学8名:帯広畜産大学1名,山形大学1名,筑波大学1名,静岡大学3名,慶應義塾大学1名,日本大学1名(うち静岡大学2名が当日欠席)
信州大学20名:理学部2名,工学部2名,農学部16名

7.実習スケジュール
(1)当初の計画
  1日目スケジュール.jpg

2日目スケジュール.jpg3日目スケジュール.jpg4日目スケジュール.jpg

(2)実習中のスケジュール変更
実習の前週(9月4~5日)には台風21号の接近にともなう風雨により,信州大学農学部においても,構内での倒木による通行止め,演習林の学生宿舎(西駒,手良沢山)での停電など,多大な被害が発生していた。また,本演習に先立って宿舎や山麓部の登山道・沢の安全確認は行ったものの,コース全線については網羅しきれていない状況にあった。さらに,実習中(9月11~14日)には,本州南岸を台風22号が通過中であり,台風からの雨雲の影響を常に考慮しながらの行動となった。 そのため,往路を当初予定の西駒演習林内経由の「信大ルート」(沢の渡渉が必要)から,すべて陸路の一般登山道「大樽ルート」に変更した。登山往路の1日目(9月12日)は,予想通り濃霧や雨に時折見舞われたものの,下山の翌13日は早朝から天候に比較的恵まれたため,予定どおり,下山コースを西駒演習林内経由の「島さんルート→信大ルート」として演習を実施した。

演習内容の変更点は以下のとおりである。

【2日目】
演習3(鳥類観察)を中止し,出発時刻を繰り上げ(往路が長距離のルートになったため)。
西駒の鳥類相,鳥類調査法などについては,最終日に資料を配布・概説した。

【3日目】
演習10を「将棊頭山登山」,「聖職の碑の見学」および「山小屋周辺のゴミ拾い活動」に変更(濃霧が晴れて天候が回復したため)。
資源植物については,コケモモ・ガンコウラン・シラタマノキなどの食用になる高山生の液果類を中心に,下山時に 随時説明した。

8.成果と今後の課題・展望

(1)実習の成果
実習の課題レポートとして「天気図の作成と概説」「山岳環境の保全」について提示したところ,履修者全員がレポートを提出し,全員合格と評価された。今年度は実習終了後の締切日までに後日提出させるのではなく(昨年度までは後日の提出としていたため,期限までにレポート提出がなく不可となった学生がいた),まだ記憶の鮮明な演習中の最終日にレポートを作成・提出させたことが効果的であったと思われる。 例年,山麓の桂小場宿舎から西駒山荘まで登ることによる体力消耗や,体力差による隊列の分断が懸念されるところである。しかし,概ね一定の歩行速度で約1時間おきに休憩を入れる配慮や,雨天時には進行を止めて早めに雨具を装備するよう呼びかけるなどの配慮により,疲労困憊・体調不良などの問題は発生せず,ほぼ予定通りの登山および演習スケジュールを進めることができた。

アンケート集計結果から,履修者のおもな感想・意見をまとめると以下のとおりである。

①他大学および信州大学他学部の受講者
<各講義・実習の評価>
各講義・実習の評価:他学部・他大学.jpg

<演習参加後,興味関心が増大した事>(複数回答)
演習参加後,興味関心が増大した事:他学部・他大学.jpg

他大学および信州大学他学部の受講者の集計結果からは,(ア)~(オ)の各項目とも,概ね高評価(天気図作成を除くと,楽しさ・有益さとも満足度は90%以上)であったことが伺える。天気図作成は,迅速なラジオ音声の聞き取りと筆記,気象学的素養など,初心者にとって技術的に難しいことは否めず,「難しい」という意見が多かったように思われる。

アンケートの理由記述の代表的なものは以下のとおりである。非農学系の学生も混在する受講者の興味・関心を湧き起こし,一定の知識・経験を得るようにできたという点で,実習のねらい・目標は概ね達成できたものと評価される。

(ア)高山植物,野生動物
・標高の高さや気候の違いなど伊那特有の環境を知ることができた。
・私の大学では山・森林などを詳しく扱う授業があまりないので,とても勉強になる話を聞けて体験もできた。
・様々な高山植物やムササビ,鳥類や標高の違いによって変わる植物の振る舞いを見ることができて良かった。
(注:3日目の下山時に,登山道わきの樹木に設置された生態調査用の巣箱からムササビが顔を出している姿を全員が観察できた。)

(イ)登山道の維持管理
・荒廃が進んでいる箇所を実際に歩いて様子を見ることができた。
・台風の被害と維持管理の大変さを痛感した。

(ウ)天気図作図
・分かりやすく教えていただき楽しかった。
・天気図を作る大変さを知れた。
・難しかったが,登山者が遭難した時にラジオなどで情報を集め,天気を予測し行動判断をするのに必要な知識を得られた。

(エ)山小屋問題
・山小屋周辺のゴミの量に大変驚いた。ゴミや汚水問題などを考えさせられた。
・山小屋における諸問題と現状を知ることができ,体験することで問題が捉えやすかった。
・山小屋ではどのような不便さがあるか知ることができた。

(オ)講義(野生生物の生態と保護管理)
・興味のある分野だったので楽しかった。
・フィールドで直接体感しながら講義を受けられた。
・知らなかったことが多かった。

【演習参加後,興味関心が増大した事】
・標高の違いによる林相の変化を初めて観察することができて,とても興味を持った。
・植物の種類や特徴を知ることができて,少し同定ができるようになった。
・初めて天気図を書いて,登山への計画に対する責任を理解した。また山小屋での経験が山岳環境に対する主体的な意識に変化を与えた。
・いちばん印象に残っているのは,山小屋周辺に廃棄されたごみの問題,特に食品類のプラスチックごみが配布された袋いっぱいに集まったこと。

また,要望や改善点として,以下のような意見が寄せられた。これらは,野外での説明・指示の聞こえにくさや,体力消耗を伴いながらの実習であることなど,解決の中々難しい課題であり,実習内容や説明方法など,今後も継続的に改善することを心がけたい。

【演習の内容,指導等について】
・登山ということもあり,解説が少し少ないと感じた。なくなった内容があったのが残念。
・観察する余裕がなく,山を登るのに精一杯であった。
・説明が聞き取りにくかったので,無線機などで後ろまで聞こえるようにして欲しい。
・登山ばかりではなく,もう少し講義や学生内での意見交換を入れて下されば,他大学との意見交換もできて,より有意義なものになると思った。

【フィールド,施設,設備】
・宿舎,山荘ともに設備はとてもきれいで,整備されていた。
・下山の沢が危険だと思った。(注:下山ルートの沢の渡渉では,安全確保のため緊張した雰囲気での引率になった。)

②信州大学農学部の受講者
 <各講義・実習の評価>
各講義・実習の評価:農学部生.jpg

<演習参加後,興味関心が増大した事>(複数回答)
演習参加後,興味関心が増大した事:農学部生.jpg

学内(信州大学農学部)の受講者の集計結果においても,(ア)~(オ)の各項目とも,概ね高評価であり,「普通」以下の回答は天気図作成と講義のみに見られた(「不満」は天気図作成で1名のみ)。これは,普段から地元在住で自然に触れており,講義・実習演習などである程度知った内容を実地で観察・体験できたことが大きな理由と思われる。

アンケートの理由記述については,学外受講者と共通するものも多いため省略するが,具体的な動植物名や環境・土木工作物の名称を挙げて「実際に見られてよかった」のように記述している回答が学外者よりも目立っていた。

なお,学内受講者のほうがむしろ,生活面や施設・設備面についての要望を記述しており,「女子用の弁当の量が多いのでもう少し小さくして欲しい」「建物がほこりっぽい」「トイレがつまる」などの意見が寄せられた。学外の学生との共同生活を通じて,自分たちの学ぶ環境やサービスの問題点を自ら意識するようになった,ということかもしれない。

 

「将棊の頭」にて(9月13日).jpg
「将棊の頭」にて(9月13日):西駒演習林の最高地点(標高2,672 m)

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