平成30年度「自然の成り立ちと山の生業演習」を実施しました
1.演習名
「自然の成り立ちと山の生業演習」
2.演習の目的
本格的なフィールド演習の未経験な非農学部生にも,中部山岳域における
「自然の成り立ち」から森林作業と木材加工による「山の生業」までを,
安全に体験出来る初心者向けのダイジェスト演習として開講する。
1.中部山岳域における初歩的な植物種の同定から,フィールドワークの実
践,記録から取りまとめまでの一貫したスキルを身に付ける。
2.健全な森林を造成するために必要とされる造林,および育林に関する基
礎知識を習得する。
3.造林および育林作業における基礎的な作業内容,手順を理解し,実行す
ることが出来る。
4.作業上の危険の認識や適切な安全確保が出来る。
5.木材の性質を理解し,適切な工具を用いて素材を加工,製品化すること
が出来る。
3.実施日程
平成30年9月4日(火)~9月7日(金) 3泊4日
4.実施場所
信州大学農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター(AFC)
構内ステーション,手良沢山ステーション,西駒ステーション
5.担当教員
小林 元(准教授),荒瀬輝夫(准教授),白澤紘明(助手),
斎藤仁志(助教),木下 渉(技術職員),野溝幸雄(技術職員),
五十嵐進(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター森林圏
ステーション技術職員)
ティーチングアシスタント3名(信州大学大学院生,学部4年生)
6.参加人数
16名(信州大学農学部7名,工学部3名,理学部1名,
総合理工学研究科理学専攻3名,東洋大学1名,明治大学1名)
7.スケジュール
8.概要
本年度で3回目を迎える「自然の成り立ちと山の生業演習」を前年度に引き続き「自然の成り立ち編」を西駒
ステーション,「山の生業編」を手良沢山ステーションで行った。本年度は特に「山の生業編」の充実を図り,林業機
械による木材生産体験を新たな実習プログラムに加えた。実習の初日はあいにく台風21号の襲来と重なった。このため,
初日に屋外で予定していたチェーンソー体験を取り止め,代わりに屋内で行う木材生産に関する講義を充実させた。
台風は実習初日の夜半に通過したが,風倒木による電線の切断によって手良沢山学生宿舎への電力供給が停止した。
電力供給が停止したことで照明を含む電気製品の一切が使えなくなったことに加えて,吸水ポンプが稼働しなくなった
ことから水道水も使用不能となった。実習2日目からの宿泊は桂小場学生宿舎を予定していたが,こちらも同じ原因で
停電してしまった。そこで2日目と3日目の宿泊は農学部構内のゆりの木資料館宿泊棟を利用した。この宿泊施設は4
つの寝室に2台ずつベッドを備えるが,寝袋とマットを床に敷き,部屋に入りきれない男子学生らはロビーで寝起きし
た。さらに,3日目の実習で入山した西駒ステーションでは登山道のいたるところに風倒木が発生しており,通行に支障
を来した。このように不慮に見舞われた自然災害によって奔走させられた実習であったが,2日目以降は台風一過の晴
天にも恵まれ,予定していたプログラム内容を順調に実施することが出来た。
【初日】
ゆりの木資料館で受付と実習ガイダンス,荒瀬教員による演習林ステーションの紹介を行った。その後,手良沢山
ステーションに移動し,人工林の育成と林業機械による木材生産に関する講義を小林教員と斎藤教員が行った。夕食時
には学生宿舎で同宿した木材工学演習,および長野大学学生らと親睦を深めた。
【2日目】
台風一過の晴天のもと,ヒノキ人工林にて林業実習体験を行った。ヒノキの直径を輪尺で測定し,立木の間隔,幹の形
質などを見比べながら間伐する個体を選んだ。五十嵐技術職員にチェーンソーを用いて間伐木を伐倒してもらい,間伐
によって林内がどれほど明るくなるか観察した。高枝鋸を使った枝打ちや,高性能林業機械を実際に操作する機械化林
業も体験した。受講生からは「他大学の学生と器具の使い方や間伐対象木の選定について話しながら交流を深めること
が出来て楽しかった」,「普段目にすることのない林業機械を実際に操作するという貴重な体験が出来てとても楽しかっ
た」等の感想が寄せられた。
【3日目】
この日は西駒ステーションを大樽小屋を経由してシラベ小屋まで登り,里山から亜高山帯にかけての森林観察を行った。
標高2,200mまで登る高度差1,000mあまりの登山であったが,幸い天気にも恵まれ皆でがんばって登った。西駒
ステーションでは人間の資源利用形式の違いによって森林生態系がどのように変遷したか標高別に観察した。受講生か
らは「普段知ることの出来ない山と人の関係を知ることが出来た」,「楽しかったが,疲れた」等の感想が寄せられた。
夕食後は,五十嵐技術職員による北海道大学苫小牧研究林紹介のスライドショーが行われた。「信州だけでなく北海道
の植生が分かって良かった」,「苫小牧研究林での生態研究に興味をもった」等の感想が聞かれた。
【4日目】
最終日は荒瀬教員による高山帯の動植物に関する講義を行った後,2日目に行った間伐調査のデータ解析を行った。
測定したヒノキ立木の直径階ヒストグラムを作成し,間伐を行うことで直径階分布がどのように変化するかグラフ上に
可視化した。レポートの作成はグループごとに行い,間伐の効果について意見をまとめた。演習課題の作成後にレポート
とアンケート記入を行い,実習を修了した。
9.感想および今後の展望と課題
前年に引き続き手良沢山ステーションと西駒ステーションで行った本演習は昨年の課題を引き継ぎ,服装,装備面での
安全性を強化して取り組んだ。受講生にはどのような服装,持ち物で実習に臨むか,実習案内書にイラストを付記して
事細かに指示した。受講生らも案内書に従い入念に準備を行い,服装や装備の面で不十分な受講生は見られなかった。
しかしながら,台風21号による自然災害により,宿泊環境や登山道の通行に想定外の支障を来した。今回は幸いゆりの
木資料館に宿泊予約が入っておらず利用することが出来たが,今後は偶発的な停電に備えて各ステーションに発電機を
設置するなど,自然災害に対する備えを行うことが重要となろう。